№38 いちご農園のイチ子ちゃん~ローファンタジー~
いちご狩に行ったばかりに・・・。
ある日のこと、私は妻と二人で3年ぶりに苺狩りに出かけました。
そこで・・・私たちは見てしまったのです。
いちごの精イチ子ちゃんを・・・。
見間違い?幻覚・・・いえいえ、そこに確かにイチ子ちゃんはいたのです。
苺ハウスに入ると、あたりは甘い匂いがします。そしてたくさんの赤い苺たち。
そんな中、一匹のミツバチが白い花の蜜を吸いに、花から花へと飛んでいました。
私はその姿を買ったばかりの、高性能カメラ内臓のスマホで激写してやろうと追いかけました。
意外にもミツバチは素早く花から花からうつります。
カメラで追いかるも、うまく撮れません。
ミツバチは葉の奥へと入っていきました。
私は、諦めません。生い茂る苺の葉や蔓をかきわけ、中へ・・・えっ。
私は固まりました。
「どうしたの?」
妻の声に、私はそこを指さします。
かぶりものの苺にゆるキャラのような愛らしい顔だちをしている小人でしょうか、いました・・・いや、いたんです。
「あっ」
苺はしまったような顔をして言いました。
「ども」
私はつい挨拶をしてしまいます。
「あたし、苺の精のイチ子ちゃんよ」
顔つき苺は、聞かれもしないのにフルネームで答えました。
「はあ」と私。
「まだあたしは熟れてないから食べちゃやーよ」
「はあ」と妻。
「あたしって美味しそうな真っ赤にキラキラと照りもあるもんね」
「・・・・・・」
「あたしって、見た目も凄いけど、中身も甘くてジューシなのよ」
「はあ」と妻。
「それは」と私。
「だけど、もっともっと美味しくなるんだあ、そしてイケメン王子に食べてもらうの」
「・・・・・・」
「だから、まだ食べちゃ駄目っ」
「はあ」と私。
「分かりました」と妻。
私たちはその場を離れようとすると、背後でイチ子が叫んだ。
「だからって、美味しそうなこのイチ子を目にして、食べないってことないんじゃないの!」
「・・・・・・」
「まったく、欲のない人たちね。こんなに美味しそうな私を」
「お言葉ですけど」妻が切り出す。
「ちょっと」私はそれを制そうとする。
「あなたあまり熟れていませんよ。まだ青いです」
「なんですと!そこのオジサンも同意見ですの?」
「そうですね。どちらかと言えば、隣の苺が美味しそう」
「アッチョンブリケ!」
苺の精イチ子はそう言うと、葉っぱの茂みの中へと戻って行きました。
私たちは、
「美味しくなれ!」
と、サムアップをすると、イチ子は振り向きもせず、右手を高々とあげました。
今頃はきっと美味しくなってることでしょう。
こんな話を思いつきました。