№37 村掟~ヒューマンドラマ~
理不尽だけど・・・。
俺は妙の手を引き、無我夢中で走っていた。
妙は少しだけ戸惑った顔を見せ、おどけて笑った。
彼女の小さな身体は震えている。
今、この場で立ち止まって抱きしめたい、俺はそう思った。
だけど、今は一刻も早く、俺たちの育った村から離れなくてはいけない。
こんな理不尽なことが許されていいのか!
俺は何度も自分に問うてみた、答えはいつもひとつ、二人で知らない土地に逃げる。
「なあ、源さ」
妙は俺の名を呼んだ。
「どうした?」
「こんなことしていいの?」
やや、彼女が俺を咎めるような口調に、苛立ちと憤りを覚える。
「言い訳ないだろ!」
びくん、妙の身体が硬直する。
「だけど、お前が死ぬんだぞ!そんなの嫌だっ!」
俺は泣きながら叫んでいた。
「私は・・・仕方ないと思っているよ」
(そんなことはない!)
俺は妙の手を強く握りしめ走り続けた。
妙は言った。
「私が行かないと村が・・・」
「そんなのは迷信だ迷い言だ!」
「私は選ばれた」
「たまたまだろ」
「だけど私が行かなくちゃ誰かがまた」
(走れ、走れ、走れ!)
俺は心に念じる。だけど、心のどこかで身体がブレーキをかける。
「源さ、嬉しかったよ」
「・・・・・・」
「私を助けようとしてくれたこと、私を好きでいてくれたこと」
(行かなくちゃ・・・行かなくちゃ)
目の前の茂みが揺れた。
村の大人たちが恐ろしい形相で睨みつけている。
俺は戦慄し震えた。
「ありがとう」
妙は俺の手を離し、大人たちのもとへ消えて行った。
俺の手に残るぬくもりはしばらく消えなかった。
思いつきました。