№14 あはっ!卑弥呼様っ!~ローファンタジー~
あはっ、えへっ。
「我は邪馬台国をおさめる卑弥呼じゃ」
「はあ」
コンビニのカウンターごしに堂々宣言され、バイトの俺はただただ愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「なんじゃ驚かぬのか、女王が民の前にいるのじゃぞ」
「はあ」
(店長を呼びにいくべきか・・・)
ちらりと虚言を吐き続ける少女を一瞥する。
巫女衣装に鏡を持つ自らを卑弥呼と名乗る少女。
長い黒髪に、はっきりとした目鼻立ち。
(可愛い・・・うん・・・可愛いのだが・・・ヤバい)
「我はお腹が空いたのじゃ」
「はあ」
「我は食べ物を所望じゃ」
「じゃ、選んでください」
「本当か、かたじけない」
少女はそう言うと、そそくさと店内を物色し、おにぎりとパンを両手に持ち店を出て行こうとする。
「ちょっと!お客さーん!」
俺はカウンターを飛びだし、少女の襟を持ち、首根っこを捕まえた。
「なんじゃ!」
「お客さん、万引きですよ」
「我を愚弄するか」
「だから犯罪ですって」
「我は女王じゃ、膝まづけ」
「なに言ってん・・・だ・・・え」
(・・・俺の身体が勝手に・・・)
「ひ、膝が勝手に・・・」
「えっへん」
少女は得意顔だ。
「な~んて、店長~っ!」
「だにいぃぃぃっ!」
こうして自称邪馬台国女王卑弥呼は捕まった。
ポリスメンに両手を掴まれながら、少女は叫んでいる。
「おかしいっ!おかしいぞっ!たかし。我と汝はこの不思議な出会いの後、ドタバタうふふなギャグらぶローファン的な・・・」
コンビニ裏に戻った俺に、その声は遠ざかっていった。
「ふう、春先は変なヤツが出て来て困っちゃうよな」
(でも、あの娘、可愛かったなあ・・・ん、でも、なんで俺の名前を知っているんだ?)
俺は気になってコンビニを出る。
今まさにパトカーに連行されようとする少女を見た。
「無礼者っ!」
少女は警官を振り払うと、鏡を掲げた。
途端に空が雲で覆いつかされ、雷雲がたちこめ稲妻が走る。
そして世界は少女・・・卑弥呼の怒りによって闇に堕ちた。
今思えば・・・あの時、俺がドタバタうふふなギャグらぶローファンを望んでいれば・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「おはよっ!たかし!」
卑弥呼が目の前にいる。
夢オチかよ。
「ふふふ」
卑弥呼が笑っている。
だけど、目の奥が・・・笑っていない。
うふっ、てへっ。