120、幼き頃の光景~純文学(文芸)~
ふみい・・・。
私は父が転勤族だったもので、子どもの頃は数回の引っ越しを経験している。
幼心に慣れ親しんだところを出て行きたくないな、ここにいたいなという気持ちはあるけど、子どもにはどうすることも出来ない、いわゆる親の都合は絶対なのだから従うほかない。最も子どもはすぐ新しい環境に慣れる、私もそう思っていた。
小四の夏休みに引っ越し、2学期から新しい学校での生活となる。
母に連れられて、訪れた学校は、木造建ての古い校舎だった。
薄暗い廊下を歩き、職員室前まで来ると、隣にでっかい水槽が見えた。
何かな?と覗き込むと、薄緑がかった濁り水の中に巨大な雷魚がいた。
職員室で校長先生や担任の先生と挨拶した母は「がんばってね」と言うと、帰って行った。
私は急に心細くなる。
「じゃ、いこうか」
先生の後ろを緊張しながらついて行く。
教室には子どもたちで賑わう喧騒が聞こえる。
先生が教室に入る。
私も続いた・・・なんとかしようと、咄嗟に思いついた私は、わざとズッコケてみせた。
教室が爆笑に包まれる。
(つかみはオッケイ?)
先生は苦笑い、手を2、3度叩き、皆を静まらせた。
コツコツとチョークで黒板に文字を書く音が、静けさを取り戻した教室に響き渡る。
「山本大介くんだ。みんな仲良くするように」
やりきった顔で頬を紅潮させる私は、深々と礼をした。
子どもの頃の思い出とともに。