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バケモノ二人

最初は孫ちゃん目線です

 俺とおなつさんは、島長の屋敷を目指してひた走る。ヤツの事だ。正面から突っ込んでいったに違いねえ。

 九十九折の坂道を駆け上がるのは結構骨が折れるはずだが、あの砂浜の特訓のおかげで少しばかり息が弾む程度で済んでいる。

 そして横を走る忍び装束のおなつさんだ。この人は俺と違って涼しい顔で走っているように見える。忍びってヤツはすごいモンだねえ。


 やがて怒声と悲鳴が聞こえてくる。剣戟の音は聞こえない。ってことは、ヤツが蹂躙してるって事だな?

 急ごうか!


「奥山様、私は裏手から屋敷の方へ参ります。弥五郎様を頼みますよ?」


 そう言っておなつさんは、俺とは走る方向を異にして離れて行った。あの人も不思議な人だ。てっきり姫様の護衛として雇われてんのかと思ったんだが、どうも違うらしいねえ。

 いや、任務としては姫様の護衛なんだろうが、物事の優先度がおかしい。姫様を置いて弥五郎殿の助太刀ってのはおかしいだろ? おなつさんにとっては、仕えるべき主は姫様じゃなくて、弥五郎殿って事なのかねえ?


 ……まあいいや。俺も積極的に参加しないと、御馳走を全部持ってかれちまうからなァ。


奥山孫左衛門公唯おくやままござえもんきみただ推参! 助太刀すンぜ、弥五郎殿!」

 

 俺がそう名乗りを上げた時には、すでに二十人近くの骸が転がっていた。


△▼△


 なあっ!?

 なんで戻って来やがったんだこのバカヤロウ!


「何が推参だこの大バカ! すぐ船乗って逃げろって言ったよな!?」


 一人を斬り捨てながら、俺は戻って来やがった孫左衛門(バカヤロウ)に罵声を浴びせてしまう。


「大バカはアンタだ! 姫様泣かして何が守役だこのバカヤロウ!」

「ぐっ……」


 孫左衛門も長巻を振り下ろして一人を屠りながら、逆に言い返してくる。なんかそれ言われると……ちっくしょうが!


「それもこれもてめえらのせいだぞクソッタレがぁ!」


 俺は怒りの矛先を孫左衛門から海賊達に移し、太刀を振るった。これで二十人くらいはやったか? 数えてねえから知らんけど。

 そんな訳で、俺一人にいいようにやられている海賊達の士気は低い。そこへ孫左衛門の登場で、連中は更に浮足立っている。


「バケモンが! バケモンが二人になったぁ!」


 ははは! 孫左衛門もバケモノ扱いだ。ざまあみやがれ!


「誰がバケモンなンかねぇ!?」


 孫左衛門が、もの凄く嫌そうな顔をしながら長巻を振りまして海賊共を追いかけましている。ヤツの長巻はかなりの目方があるんだが、それを小枝のように振り回しながら走り回ってるんだから十分バケモンだと思うぜ?

 元々膂力はすげえ。それに脚力も加わった。今のヤツはかなり強い。ヤツと互角に渡り合えるのは桃姫様と、おなつさんくらいか。まあ、知ってる範囲では、だけどな。

 ともかく、海賊達からしてみれば、俺も含めてバケモンが二人になった事になる。もはや、自分から仕掛けてくるヤツはいない。屋敷の外にいるヤツは残り十人にも満たない。海賊達は屋敷の中へと逃げ込んでいった。

 俺達はそれを追いかけていく。その時だ。


 ――ズドン!


 銃声だ。ほぼ同時に、俺の右頬に焼けるような熱さを伴った痛みが走る。そして激しい血飛沫が飛び散った。

 ちっ、火縄銃とは厄介だが……惜しかったな。

 急所を外したのが運の尽きだ。


「突っ込むぞ孫の字!」

「おおよ!」


 火縄銃ってのは一発撃つと、次に放てるようになるまで時間が掛かる代物だ。それまでに射手を倒すか、混戦に持ち込むかしなけりゃならねえ。

 敵味方入り乱れてれば、味方を撃つ可能性もあるからな。中々撃てるもんじゃないだろう。

 とにかく幸か不幸か、俺達は生垣の中へ突入せざるを得ない状況にされてしまった。しかし、俺からすれば孫左衛門以外は全て敵。背中を孫左衛門に預けて手当たり次第に斬りまくる。

 海賊達もまた、ここまで踏み込まれては後がない。袋小路に追い込まれたも同然だからな。

 追い込まれた海賊達は、俺達二人を囲むように、じりじりと円を描くように動いている。ちっ。こりゃあマズい。このままじゃ火縄銃のいい的になっちまう。


 ――ドサッ


 その時、屋根から一人の男が落ちて来た。俺達を包囲していた海賊達の注意がそちらに向く。


「おい!」

「分かってるァ!」


 俺と孫左衛門が同時に動く。スキを見せずにスキを狙う。師匠(おっさん)との鍛錬で身に染みた、言わば極意の一つと言ってもいい。その俺が、こんな好機を逃すかよ!

 そして孫左衛門も同じだった。俺とそんなに変わらねえ歳なのに、実戦慣れしてやがる。


 俺は一人、二人と、それぞれ一太刀で斬って捨てる。

 孫左衛門は一薙ぎで二人を倒した。随分刃毀れしているのか、もはや切れ味は無いに等しいようだが、打撃武器としてはまだ有用なようで、倒された二人は泡を吹きながら気絶していた。


 残るは三人! 

 ……って、は?

 俺と孫左衛門が敵に向き直ると、その三人は白目を剥いてうつ伏せに倒れた。それぞれの首には、深々と苦無が突き刺さっていた。って事は……


「おなつさん!?」


そしておなつさんが屋根から飛び降りてくる。そして俺の足下まで駆け寄って来て。


「ごめんなさい! 私が居ながら弥五郎にこんな怪我を……ごめんなさい、ごめんなさい……」


 そして俺の袴に縋りつき、泣き崩れてしまった。

 俺は無言で孫左衛門を見る。これは一体どういう事だと。おなつさんは桃姫様の護衛についていたんじゃねえのかと。

 しかし孫左衛門は肩を竦めて見せるのみ。詳細はおなつさんに聞けって事か。


 取り敢えず俺は、おなつさんを宥めすかして立ち上がらせ、孫左衛門と共に村長の屋敷に踏み入った。まだ敵が残っているかも知れねえからな。油断は禁物だ。

 だが、屋敷の中は、思いもしない光景が広がっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 孫左衛門かっこいい!(すみませんいきなり感想が雑に)セリフ回しといい男気といい、とても魅力的な強さですね。火縄銃、、相手が最初から出して来なかったということは、武器としては最後の手段だった…
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