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なあに、こんなのは余興さ

 俺と王虎(ワンフー)は部屋の中央で向かい合う。

 普段の俺は、他人に対してあんまり敵意を剥き出しにすることはないんだよな。砂浜で桃姫様の護衛のヤツに腹を二度……いや、三度か、蹴られた時も、そんなに敵意は持たなかったし。

 ……あ。こっち側で出席してる三人の中の一人、あの時俺の腹を蹴ったヤツだ! 特徴が無さ過ぎて三下かと思ってたけど、結構偉いヤツだったのか。

 ふふ。ふふふ。敵意は持たないけど、根には持つぜ俺は。


 まあいい。どうやら俺は、自分の事なら笑って済ませても、守るべきものに害を及ぼすヤツには攻撃的になるらしい。我が主、桃姫様に破廉恥な視線を投げかける王虎(このヤロー)をぶっ飛ばしたくて仕方ない。


「おい、貴様、武器持たないアルか?」


 ん? ちょっと頭に血が上ってきたのか、今まで流暢な日本語を話していたのがちょっと怪しくなってきたぞ?

 さっきの演舞で、大体こいつの力は分かった。これで十分だな。


「俺の得物はこれさ」


 そう言って俺は、桃姫様から頂いた鉄扇を右手に持ち、バッと開いて見せた。へえ、骨組みだけじゃなくて、全部鉄で出来てるのか。見事なもんだな。ちゃんと折り畳める巧妙な細工、なかなか手間がかかっている。

 それを見た王虎は、こめかみをビキビキ言わせて飛び掛かって来た。余程コケにされたと思ったらしい。短気なヤツだな。

 

「アイヤー!」


 一足飛びに間合いを詰めてきた王虎は、自分の間合いになる前にもう一度跳躍した。かなり高い。

 上からの攻撃。確かに自身の攻撃力に落下の勢いを上乗せした一撃は強力だ。


 ――当たればな。


「ふん」


 自分の体重を全部乗せて繰り出してきた王虎の斬撃は、俺があっさり躱してみせる。

 強かに床を打ち付ける王虎の木刀。


「なにっ!?」


 そんな驚く事はねえだろ。上から来るって分かってる攻撃だ。避ける事なんざ造作もねえ。

 斬撃を躱した俺は王虎の背後に立つ。それに瞬時に反応し、後ろに身体を捻りながら木刀を振ってくる。実戦慣れはしてるみたいだな。だけど、演舞の時に見ていた感じじゃこいつの利き腕は右。つまり背後を取られているこいつの攻撃は右から来る。

 またしても容易く躱す俺に、王虎の目は明らかにイライラしてるように見えた。いや、そんな目で見られてもさ、来ると分かってる攻撃なんざ普通に躱せるだろ? 


 ……師匠(おっさん)の攻撃は来ると分かってても躱せなかったけどな。


ハイ()ハイ()ハイ()! ハイヤー()!」


 今度は王虎、連続攻撃に切り替えてきたな。俺の鉄扇が届かない、ギリギリ間合いの外から攻めてくる。

 斬、斬、斬。そして最後には意表を突いた回し蹴りが俺の頭を狙ってくる。

 へえ、面白いな。この攻撃、今度俺も使ってみようかな?


 俺は回し蹴りを屈んで躱しつつ、前に出て王虎の懐へと入る。すかさずヤツは右手の木刀で攻撃してくるが、左足一本で立ってるヤツの攻撃なんざ脅威じゃねえ。ヤツの木刀の一撃は、俺が左手で木刀を持つ手首を掴んで止めた。

 そして右手は扇子を持っているから使えないが、右肘の内側でヤツの首を刈る。同時に右脚でヤツの左脚も払う。


「ガハッ!」


 仰向けに倒れた王虎は背中を床に強打し、肺の空気を強制的に吐き出され、苦悶の表情だ。


「扇子を使うまでもなかったな。まだやるか?」


 俺は右手の扇子を王虎の首に突きつけた。


「……ゥオ、バイベイ(俺の、負けだ)……」


 王虎が()()()の言葉で何か呟く。多分だけど、『我、敗北』って言ったんじゃねえかな? 向こうで桃姫様と一緒に見てたタプタプ商人のおっさんが悔しそうな顔してるもんな。

 あれ? 桃姫様はポーッとしてるな。おーい、桃姫様?


「……はっ!? 弥五郎! お見事です!」


 そして桃姫様からお褒めのお言葉が。へへへ、調子に乗ってる弱いヤツをやっつけるだけの簡単なお仕事でした!


△▼△


「ふふふ。どうやらあの少年、王虎の攻撃の前に防戦一方のようですな」


 姫様の横で、脂っこいタプタプした商人がいやらしい笑みを浮かべながら姫様に話しかけているわ。

 それを聞いている姫様は柔らかな笑みを絶やす事なく弥五郎の戦いを眺めている。


 確かに、王虎の怒涛の攻撃を前に、躱すのが精いっぱい。

 ……って見えるわよね。

 でもあれは、完全に見切ってる。もっと言えば、弥五郎は遊んでる。おそらく事前の演舞で王虎の実力を見切ったんでしょうね。その上で、わざと遊んでるのよ。

 姫様もそれを分かっているから、余裕の笑みを絶やす事がないのよね。確かに王虎は強いけど、弥五郎の相手にはならない。

 それにしても、普段の弥五郎なら一撃で決めているはずなんだけど、相手の自信ごと粉々にしてやるつもりなのかしら? いつもの弥五郎と違って、怒気を感じる。


「あっ……」


 そんな事を思っているうちに、一瞬で勝負は着いた。

 ……すごいわね。速い連撃の後の意表を突いた回し蹴り。普通、あんなの読めないわよ? あれを躱しながら同時に攻撃するなんて……

 結局、王虎は弥五郎に触れる事すら出来ずに一撃で倒されちゃった。

 それにしても驚いたなぁ。弥五郎って、剣術だけじゃなかったんだぁ……


 あ、姫様なんてポーッと見惚れちゃってるよ?

 ホント弥五郎って、天然のアレよね?

 

弥五郎vs王虎 大外刈りラリアットで弥五郎の勝ち

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなりの格ゲーコマンド的なルビで爆笑しましたw
[一言] 相手を見切った上での余裕の戦いでしたね。動きも俊敏ですが、賢いですね!さすがでした。気持ちがよかったです!!
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