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砂浜の邂逅

アルファポリス様の歴史時代小説大賞で読者賞を頂きました。あくまでもエンターテイメントを追及した作品ですので、歴史や時代といったものが苦手な方でもお気軽に読んでいただけると思います。

「弥五郎、お前の修行もこれで終わりだ。鍛冶屋をやるなり用心棒をやるなり、好きに生きな」


 師匠と向い合せで木刀を構え、じりじりと間合いを詰める機会を窺っていた時、唐突にそんな暴言をぶつけられた。


「は? またまたぁ? 冗談キツいぜ?」

「いつまでもタダ飯食えると思ってんじゃねえよ! それ持ってとっとと出て行きやがれこのポンコツがぁっ!」

「ゲフッ!?」


 一瞬で間合いをを詰めてきた師匠に蹴り飛ばされて転がった俺の目の前に、一振りの太刀、そして背負い袋が乱暴に投げつけられた。

 つか、師匠の動き、全然見えなかったぜ……

 

「ソイツは餞別だ。元気でな」


 この太刀は……

 ああ……コイツはマジだ。この太刀は師匠が打った中でも最上の業物。どんな偉いお侍が来ても頑として譲らなかった代物だ。

 これを俺に餞別としてよこすって事は、俺も覚悟を決めなきゃな。


「師匠、今まで育ててくれてありがとうございました。どうかお元気で」


 師匠は俺に背を向けていたから表情はわからない。でも肩が微かに震えていたように思う。あの師匠がまさかな……



△▼△


 っていうかさ、俺と師匠が暮らしてたのは他に誰も住んでいない離れ小島だった訳よ。

 当然俺は島の外の事は何にも知らねえ。ああ、一般常識とかそういうのは、ちゃんと師匠が教えてくれたけどな。

 そんな不安しかねえ状況で、とりあえず小舟を漕いで島を出たはいいが、俺に出来るのは遠くに霞んで見えるデカい陸地を目指して必死に舟を漕ぐことのみ。

 俺は師匠に拾われてから島から出た事は一度もない。それをアレだ、一人で身を立てろとか、せめて街がどこにあるかくらい教えやがれって話だ。

 でもまあ、ガキの頃に親を賊に殺されて、一人放り出されてた俺を拾い上げて育ててくれた、親同然の人だからな。感謝はしてるんだ。鍛冶屋の技術と剣術を叩きこんでくれたしな。

 ……育て方がちょっと頭おかしかったけどよ。何遍死にかけた事かあの野郎……

 なんでも、鍛冶屋なのに剣術も一緒に習得してるのは、切れ味を試すのには腕も必要だ、とか言ってたぜ。別に刀以外にも包丁や鎌だって打つんだから、必ずしも剣術は必要じゃあねえと思うんだけどさ。

 そんな俺も十五になったし、そろそろ独り立ちしやがれとか言って追い出されたんだが……


「腹減ったなぁ……」


 島を出てから丸二日。島を出た直後に食った握り飯が最後だ。海には魚がいるだろとか気楽に思ってたが、中々やるぜ、魚のヤツ。全然釣れねえんだよ。まあ、餌もなかったからな

 ……冷静に考えれば釣れる訳ねえか。

 そして漸く陸地に辿り着き、砂浜に上がった所で俺は力尽きた。


「寝よ……」


 疲れと飢えで俺は砂浜に寝転び、そのまま意識を手放した。


△▼△


「おい!」


 ――ドゴッ!


「ぅぐぉ!?」


 痛ててててて……

 誰だよ人が寝てる時に腹を蹴ってくるヤツは……


「邪魔だ! 起きろ!」


 ――ドゴッ! ドゴッ!


 ……二度も蹴ったね? 

 分かった分かった。起きます起きますって。

 むくり。

 俺は寝ぼけ(まなこ)を擦りながら上体を起こし、周囲を見渡した。

 馬に乗ったいかにもお侍といった風体の男が五人。そしてもう一人、白馬に乗った艶やかな黒髪の少女がいた。遠乗りか何かか?


「貴様! こんなところで寝ていては邪魔だ! すぐどけ!」


 俺を蹴り起こした男がえらい剣幕でがなり立ててくる。でもなあ、腹が減って動けないのよ。

 つか、こんな広い砂浜で邪魔っ言われてもな……


「ああ、すんません。どけたいのは山々なんすけど、腹が減って動けないんすよ」

「なんだと貴様! ふざけているのか!」


 このキレる早さ、中々器が小さい。この中じゃ一番の下っ端か? 

 うん、顔もその他大勢って感じで適当な造形だしな。

 その下っ端は俺の答えが気に入らなかったのか、さらに激昂して鞭を手にした。

 おいおい、それって馬を打つやつじゃん。さすがにそれは痛いって。


「おやめなさい」


 その時、鈴の鳴るような綺麗な声がしたんだ。その声で、鞭を手にした男の手がピタリと止まった。あ、今舌打ちしただろ、この野郎。聞こえたぞ?

 そして、声の主がこっちに向かって白馬を進めて来る。

 どこかのお姫様かな?

 第一印象はそれだった。はらりと額が隠れるくらいの前髪を垂らし、豊かな黒髪は後ろで縛ってまとめていて、桃色の幅広の髪紐がやけに映える。

 スッと引いた細い眉、大き目の瞳は勝ち気そうだが、黒目もくりりと大きく可愛らしい。やや薄い唇は髪紐と同じ桃色だ。歳は俺と同じくらいかな?

 見た目の美しさだけではなく、気品も備えている。一言で言えば気高い美少女って感じだ。

 そんなんだから、どこぞの良家のお姫様かと思ったんだが、その装いを見てちょっと分からなくなった。

 まず着物だが、上等な生地を使ってはいるが、言ってしまえば地味だ。深緑一色の小袖。そして革製の胸当てと指貫(さしぬき)。下半身は焦げ茶の革袴に長い足袋。お姫様が身に付けるには地味すぎるというか。

 ただ全体的に地味な色合いのその中で、腰に煌めく一振りの刀が一際目を引く。長さから言って小太刀だろう。

 桃色の柄糸に黒鉄の鍔は桃の実を象っていて、鞘までが桃色。凝った装飾などはないが、恐らくかなりの業物だろうな。鍛冶屋の俺が言うんだから間違いねえ。


「フフフ。わたくしの容姿よりもこの腰の物が気になりますか?」


 俺はその声に釣られて視線を上に上げた。やや口角を上げてほほ笑むその笑顔に、思わず俺は見とれてしまった。


(か、かわいい……)


 いや、俺はずっと島で暮らしてきたから、師匠以外の人間を見た事がねえ。なにしろ師匠はおっさんだ。つまり俺の中では人間=おっさんなんだ。

 は? お袋に親父? そんなもん、顔なんざ覚えてねえよ。

 もしかして、島の外の人間はみんなこんなに可愛いのか!?


「どうしてこのような所で寝ていたのですか? これでは馬に踏み潰されてしまいますよ?」


 少女は少し頬を膨らませて俺を窘めた。


「いやあ、すんません。もう二日も何も食ってなくて、腹が減って目を回してしまって……」

「まあ……」


 その少女は、俺の話を聞くなり偉そうな騎馬の男に声を掛けた。


「これより少しの間休憩とします! 各自警戒は怠らぬよう!」


 彼女はそう指示を出すなり馬から降り、荷物の入った袋から竹筒と何やら包みを取り出し、それを俺に手渡してきた。


「生憎とこのような物しかありませんが……」


 そう言いながら手渡してきた包みの中には、握り飯と魚の干物が入っていた。竹筒の方は恐らく水だろう。

 

 ――ぐるるるるるぅ


 久しぶりの食い物を目の前に、俺の腹が空腹だと悲鳴をあげる。こんな美少女の前で、ちょっと恥ずかしいぜ。


「うふふ。遠慮なさらずにどうぞ?」

「お、おお……ありがとうございます!」


 桃色美少女に手短に礼を言って、俺は夢中で握り飯を掻っ込み、竹筒の水で胃袋へと流し込んだ。

 味なんか覚えちゃいねえけど、胃袋が幸せになったのは間違いない。そして、桃色美少女が馬へと飛び乗った所で漸く俺は現実に帰ってきた。

 やべえ、碌に礼もしてねえぞ? それに名前くらい聞いておかねえと!


「あ、あの!」


 俺は急いで白馬に駆け寄り、声を掛けようとした。しかし、護衛していた男が二人、刀の柄に手をやりながら俺の行く手を阻む。だが、俺に気付いた桃色美少女が振り返る。


「この松林を抜けると街道に出ます。それを道なりに半日も歩けば村があります。道端に寝ないように気を付けて下さいね?」


 彼女はそう言ってニコリと微笑み、馬首を反して馬の腹を蹴り、走り去ってしまう。


「あの、お名前は――」


 俺は茫然と見送る事しか出来なかった。これが、恋ってやつか? 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボーイミーツガールな回として、やっぱり入りやすいし読みやすいです。 [気になる点] おやじ殿の一般教養の範囲が気になりますね。弥五郎に可愛いの基準を正しく教え込んだその手腕…… [一言…
[気になる点] 島から乗ってきた小舟は乗り捨て? 小舟って結構な価値のある財産だろうから捨てるとは 考えづらいんだけど、どうでしょう。 それと島には師匠用と弟子用の二艘の小舟があったの でしょうか? …
[一言] 好きです(*´ω`*)!
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