円卓
今回もまた別視点です。
円卓を囲んだ会議。私は今突き刺さるような視線に畏怖し、緊張でからからに乾いた喉で報告を行う。
「・・・こうして、全世界に我々の同胞をユレイシア大陸での戦争難民と偽装し各地に送り込み、煽動させ敵国家を分断させる作戦は恙無く進んでおります」
報告を終えると、視線の主は私をじっと睨みつけた。手の平を下に下げ座ることを許可した。
肝が冷えるようだ。私は着席すると一気に噴き出した汗を拭った。
鋭い眼光で円卓を囲む幹部たちを見定めているのは、このネイチア国の頂点に立つニアフラド・ラーンゲルク閣下だ。齢は70を超えているが、背筋は真っすぐ伸び衰えを見せていない。全てを見通す遠視スキル【マルクト】と虚言を見通すスキル【ケテル】を持っている。
その右隣にはその長男のシーナ・ラーンゲルグ様、左隣には古くから側近として仕えているトーア・ジアニール様が座している。自分の報告が終わったことに安堵してしてしまったが今はまだ会議の最中である。
私は最後の報告主である、ぷっくりとした暑い唇が艶めかしい女性、ロザリー・ゲースの声に耳を傾けた。
「ベルガンの魔法研究施設で魔法実験中に事故が発生。捕らえた魔女を使っての新魔法実験で世界に嘘が見破られたもの考えます。何らかの呪いが発生。呼吸器官を破壊する物で空気感染を確認されましたが、研究所周辺都市ごと魔法を使い隔離封鎖しました。完全防護した兵を使い研究所の研究記録は回収し、ドミニオンの完成に支障はありません。なお、感染者の一部は研究用に拘束し、一部を部外国へと侵入させ呪いの散布させています。許可を頂ければ都市ごと焼却する予定です」
「・・・広範囲魔法の実験台にでもしておけ」
「はっ!」
ニアフラド閣下の指示にロザリーは敬礼し答えた。
こんな事故を起こしたのに寛容なものだと思うかもしれないが、ロザリーはただの処理役である。事故を起こした研究所の責任者はとっくに土の中だ。
私は胸を撫で下ろした。これでこの重苦しい議題は終わったはずだ。ただ一つ、入口に一番近い席の空席が問題ではあるが。等と危惧した途端にその扉が開かれた。
「ニアフラドごめんごめん。遅れちゃったね。ちょっと家事都合ってやつだよ」
閣下を呼び捨てにした女は悪びれることもなく空席に腰を掛けた。
「恥を知れ魔女め!」
その態度に声を上げたのは陛下の娘であるクレア・ラーンゲルグ様だ。
「父上を貴様のような幼い魔女が呼び捨てにするなどあってはならぬことだ!」
魔女は手で口元を隠すと嘲笑した笑みを見せた。
「幼いって?私は君より3つも年上だよ。それにしても相変わらずクレアは可愛いね。」
魔女の言うようにクレアは14歳でとても可愛らしい外見をしていた。長い銀髪を頭の右側にリボンで一纏めにし、大きな母親譲りの緑色の眼はこうして睨みつけて居なければ可愛くあったろう。私も見たことがあるが彼女の母はとても美しかった。侵略先に居た【ティファレト】スキルを持つ女性であったが、こちらに組することを断ったため、彼女を残しその血縁者を皆殺しにした。その後閣下は彼女を犯し孕ませ、クレア様を産んだ後に殺した。セフィロトや大罪のスキルが、その死後血縁者に発現する例が多かったために行われた実験だった。その成功例がクレア様だ。スキルを維持するためにもここにいる幹部の誰かに嫁ぐことになるか、閣下の子を成すことになるだろう。
ふと魔女を見て私は違和感を覚えた。
「・・・今日は人形をお忘れになったのですか?」
魔女が手で口元を隠したことに違和感を覚えたのは私だけではなかったようだった。
クレア様の弟であらせられるアレク様が尋ねると魔女は口角を上げて目尻を下げた。
もちろん母は別だ。クレア様と同じ実験の成功例である。華奢な印象の美少年である。
「アレクは今日も本当に綺麗だし、クレアと違って心も穏やかだね。人形なら持ってきているよ今日はそれを自慢しに来たんだ」
魔女はそういうと人差し指を立てて後ろから手招くように指を曲げた。
扉から入って来たのはメイド服を着た金髪碧眼の美しい女性だった。
堀の深い顔立ちに長いまつ毛。すこし赤みを帯びた白い肌が黒いメイド服に映えた。
私の横からはゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。
「見てよほら!生きた人形を作ることに成功したんだ凄いだろ!偶然だったんだけどね!だからニアフラド!同じようなのができる実験に使う綺麗な人間を貰えないかな!もちろん君の計画にも賛同させてもらうよ!ワタシの居る国がどうなろうとかまわないしね!」
その魔女はまるで興奮を抑えられず親に報告をする子供の様だった。何度かこの席に参加した彼女は、何も興味がないように無表情で座っているだけの存在だったのでその差異に驚いている。
怠惰の魔女ミドルの参加表明は、外大陸の侵略開始の狼煙なった。
毎日かけたら良いなと思っていましたが、そんな甘いものではなかったですね。平日は仕事でくたくたになって書く気力が起きないようです。ゆっくりとやっていきたいと思います。