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家族

今回は三女のショート視点です。

「母さん母さん!姉さんを殺せたよ!」

 姉が人形を口の前に持ってその手を振り回させて言った。

「あら、あの子も殺したのね」

 母は紅茶を啜ると、娘が死んだことを何とも思っていないように告げた。

「その代わり私のクモタローもやられたけど上々の出来だね!前々からワイドを独り占めするし、弱いくせに姉だからって偉そうだし、雑魚のくせにプライドだけは高いし!ワイドも昔からあんなに泣かされてるのにあの女に引っ付いてまわってたし!私も我慢の限界だったんだ!」

 姉は持っていた人形の首を絞めると、雑巾を絞るように絞る。相変わらず人形の頭で口元を隠しているが、横側に居る私には、不自然に口角を上げた化け物のように見えた。

「姉さんを侮っていたよ、ワイドを狙うそぶりをしておけば簡単に殺せると思ったんだけどね。大した魔法も使えない上に、持ってるスキルが体術なのによく相打ちに持ち込んだよ。魔法じゃなくて私のスキルで人形にしていたからワイドは邪魔にしかならなかったはずだし」

 ミドル姉さんは興奮冷めやらぬという感じで捲し立てる。ああ嫌だ、身内に異常者が要るなんて生き辛いなぁ。ミドル姉さんの事だよ。母さんは違うの。だってこれは人形遊びだもの。サボテンに今日あったことを報告しているのと何ら変わらない行為なのだから。

「なんかよく分からないけど外傷がなくて心臓と呼吸が止まっていたから、ワイドに預けた人形を通して【怠惰】で姉さんを私の人形にしたよ。【怠惰】の傀儡化能力で呼吸と心臓を再稼働させてみたら息を吹き返したの!スキルを解いたらまた死んじゃうけどね。いやーでも感動だよ!一度死んでくれたから生きた人形に出来たの!凄いでしょ!大罪のスキルなんて呼ばれているのに生きた人間は傀儡化できないとか変に人道的で気に入らなかったけど、こういう抜け道があったんだね!楽しみだなー!どんなお洋服を着せて遊ぼう!ああでもお腹は見えないような服にしないとね!私きっと憂さ晴らしに殴っちゃうから!」

 ああ嫌だ嫌だ。これでこの家の住人はミドル姉さんと私だけ。あとは人形だけになってしまうわけだ。

そのうえワイド兄さんが居ないからミドル姉さんはこれから猫をかぶらない本性丸出しのあの態度だろう。私も人形にされる前に何処かへ逃げ出さなと行けないな。本当に大罪のスキルを持った魔女は厄介だ。

 いっそ不意打ちで先に殺してしまいたいが、あれがミドル姉さん本体のはずがないのよね・・・

 私ショートは、命が惜しくばコレからも、ミドル姉さんのお人形さん遊びに付き合わなければならないのだ。そして可愛くあり続けなければならない。可愛い人形が大好きな姉さんは、私が可愛いうちは見逃してくれるのだから。

「ショート聞いていたよね?私の新しいお人形回収して来てくれるかな」

 私はにっこりと微笑むと「はーい」と手を上げて了承した。


 日が落ち初め、世界が朱に染まる頃。森からロング姉さんを背負った兄さんが出てきた。

 その後ろに小さい影があった気がしたが陽炎のように消えてしまった。

 いやー二人ともよく見れば血だらけだ。夕焼けの朱がそれを隠してくれていた。

「朝ぶりね兄さん。宿を取ってあるわ。姉さんをそのまま連れてきてくれるわよね?こっちよ、付いてきてね」

 聞く耳を持たずに案内した部屋に兄を通すと、姉を着替えさせるからと隣の部屋も取ってあるからそこで待つようにと追い出した。

 魔法でさっと体を綺麗にし、衣服を取り換えベットに寝かせる。呼吸も心音もある。意識がないのは脳が死んでいるからなのかミドル姉さんのスキルの所為なのかは解らない。発汗はしているし、糞尿が垂れ流しになっているわけでもない。体の機能はしっかり生きているようだ。

 可哀そうに、これからこの人はミドル姉さんのお人形だ。着せ替えされたりするだけならいいがきっとそうはならないだろう。ああだけれど、今の私も似たようなものかもしれない。


「お待たせ兄さん。もう少し待ってね兄さん」

 兄のいる部屋に入って、私は直ぐに魔法を唱える。

「なんの魔法だ?」

 何言ってんだこいつ。私は頬を引きつらせ作り笑いを浮かべた。

「何ってんだこいつ、兄さんに説明したら無効化されて魔法使った意味が無くなるでしょ」

「ああそうか・・・それ制御できるようになった」

「あ・・・」

 あっぶねー!遮音と探知の魔法を使っておいて良かった!今のが本当なら家を出ていく必要が無くなるじゃないか、どこにミドル姉さんの糸が伸びてるか分からないんだぞ。お前制御できていないから邪魔で制御出来ていたら有能な道具なんだからな!そんな自覚も無いのか?

「こほん、それが本当だとしても兄さんの居場所はもうあそこには在りませんから」

「ああ、戻る気はないよ」

「ちなみに使ったのは遮音の魔法です兄さん。この部屋の外に空気の振動は出ることができません」

・・・おや本当に無効化されない。使えなくなったのではなく制御できると言ったな。短い歌を唱え、私は淡く光る球体を作り出す。

「消せますか?」

 兄さんは球体を指さす・・・そして暫く迷ってから恥ずかしそうに<ダウト>と言葉を発した。

 うん無効化される。本当に制御出来ているのか。これならロング姉さんの人形化も無効化できるかな?いやダメだきっとスキルは無効化できない。もしも出来てもその途端死ぬ可能性が高いかな。

「本当に制御出来ていますね兄さん。何があったのか教えて貰えますか兄さん?」


 兄さんの返答を聞くと概ねはこちらで把握している通りだった。だが・・・

「どうやって蜘蛛を倒したのですか兄さん?どうやって魔法の無効化を制御できるようになったのですか兄さん?なぜ姉さんに外傷がないのですか兄さん?」

 この問いには答えてくれない。兄さんは顎に手を当てうーんと唸った。嘘を考えているときの癖である。そして諦めたのか口を開く。

「俺が魔法で倒して、魔法で治した、制御はなんか・・・出来た」

 もうどんな顔をしたらいいのかわからなかった。死んだ魚のような眼をしていたかもしれない。まあ嘘だろうが本当だろうが検証してみればいいのである。

 私は蝋燭にマッチで火を灯す。

「この炎を魔法で消せますか?方法は任せます」

 息を吹きかけるような風を起こして消してもいい、水をかけてもいい。冷やしてもいい。蝋燭の芯を切り取ってしまったって消えるだろう。いくらでも方法はあ・・・

<消えろ>

 兄が一言告げただけで炎は音もなく消え去った。

 何をした?

「今のが魔法ですか兄さん?魔法というのは特別な言葉や発音やリズム音程もしくは図形や文字で圧縮した、何とか嘘だとバレない様に世界を騙す嘘ですよ兄さん?嘘だとバレると物によってはとんでもないペナルティがあるのが魔法ですよ?今のはまるでスキルの発動なのですがスキルではないんですよね兄さん?」

 いや喋れよ。黙って視線を落として怒られた子供みたいになってんじゃねーよ。

「わかりました。もういいです。やはりあの日兄さんに何かあったようですね。兄さんは魔法も使えない体だけ鍛えている雑用くらいにしか役にたたない男だと思っていましたけれど・・・少し期待してみます。兄さんはロング姉さんに負い目が出来たのでしょう。いつか姉さんの助けになってあげて下さい。そして私は兄さんを命の危険も顧みず助けているんですよ実は。なのでロング姉さんを助ける機会があったら私も一緒に助けてください。ついでに母さんも」

 私はおどけながら鼻で笑いながら言った。

 兄さんは気が付くのだろうか?ミドル姉さんだけを入れなかった事が「いつかミドルから私たちを助けて欲しい」という願いだという事に。

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