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魔女

 という記憶を取り戻したのは、姉に逆エビ固めをされている最中だった。

 創世の記憶と現状の記憶を照らし合わせて整理したい・・・が!完全に逆エビ固めが決まっていてそれどころではない、必死に床をバンバン叩きながら「きぶ!ギブ!ギブゥゥゥ!!」と叫ぶのが精一杯だった。

「だらしない弟ね」

 金髪ワンレンの長女ロングがそう吐き捨てると技を解いて立ち上がった。

「面白い顔」

 解放された俺の顔を覗き込むのは次女のミドル。黒髪短髪で口元に人形の顔を当て人形が喋っているように振舞っている。痛みが引くと同時に少しづつ記憶が整理されてくる。・・・なんてところに転生させやがった・・・

「あんたは魔法が使えないんだから体を鍛えなさいよ。魔女の家系に生まれたのに男だし魔法は使えないし、体使うしかないのよあんたは。これは愛の特訓よ?もう一戦やるわよ」

 今の俺は14歳だ姉は19歳。どう考えても肉体で勝てるはずがない。体のいい虐めである。

 俺は這いながらも転身し、犬のように四肢を使って逃げ出す。

 ロングは人差し指を立てくるっと回すと言葉のような歌のような聞き覚えのない声を発した。その途端俺の体は宙に浮き、手足をバタつかせる事しかできなくなる。

「まあどんなに体を鍛えてもあたしには敵わないけどね?あんたは一生姉には勝てないのよ」

 ロング姉はふふんと勝ち誇った笑みを浮かべた。

 これが魔法。世界を騙す嘘か。神様にかっこつけたはいいがまるで勝ち目が見えない。

 現状の自分の弱さを確認すると魔法が解かれたのか体がストンと床に落ちた。

 解放したロング姉が何を言ってくるかと身構えるが、彼女は「んん~~?」っと唸りながら後頭部を掻いた。

「ミドル?今のあんた?」

 ミドル姉は顔の前で人形の顔を左右に振らした。

「母さんとショートは出かけてるし・・・ワイドあんた・・・」

 どうでもいいけど母のネーミングセンスやばいな。あ、俺がワイドです。ショートは妹。

 ロング姉はいぶかしげに俺を見下すが、そんな訳ないかと呟いて何処かへ行ってしまった。

「・・・助かった?」

 ミドルに視線を投げると人形の頭を頷くように上下させた。

「じゃあ次はお姉ちゃんとお人形さん遊びしよう」

 ミドルは人形の両手をつかんで持ち上げてバンザイさせた。



「おかしい」

 ロングは指で机をトントンと叩く。あれから数日、家族会議が開かれることとなった。

「そうね、おかしいわね」

 母はティーカップでお茶を啜りながら同意した。

 俺が前世の記憶を取り戻している所為だろうか。ここ数日は現状把握のために費やしていておかしなことはしていないと思うのだが。

「お母さん最近モテなくなっちゃったのよ」

「そうじゃねぇ、ババア」

 ロング姉が汚い思春期のような口調で母をなじった。

「馬鹿な娘ね。そうなのよ。私がモテモテなのは魔法のおかげなのよ?あなたの言いたいのはそういう事でしょ」

 ロングは片眉を吊り上げるとチッと舌打ちをした。

 そして俺を睨みつけた。なんだよこの姉ヤンキーかよ。身内がヤンキーとかちょっと生き辛いなぁ。

「魔法が消される。原因はたぶんワイド」

「は?」

 俺はいやいやいやとかぶりを振る。俺をジト目見ていたロング姉はミドル姉に視線を向けた。

「ミドル、ワイドに人形魔法を見せてやって」

 ミドルが顔の前で人形の頭を縦に振らせ頷かせた。人形に隠した口でミドルは不思議な音を出した。

 だが何も起きなかった。俺が狼狽して「え?え?」とあたりを見回す。

 その様子を見てロング姉は「魔法童貞きしょっ」などと小声で吐き捨てていた。 

 ギィ・・・と軋む音がして扉が急に開かれた。その隙間から小さな子供の人形がこちらを覗き込んでいる。ちょっと怖い怖い怖い!可愛いぬいぐるみとかじゃなくてこれホラー映画で人間襲うやつだよ!それもなんかウジャウジャいるよ!

 俺は叫び声をあげるでもなく、息を吸い込むときに奇妙な音でヒィ・・・と喉を鳴らすことしかできなかった。あ、でもこれ魔法か。てことは嘘だな。

 ガチャ!!っと糸が切れたように人形たちがすべて床に伏した。

「無効化されました」

 ミドルは淡々と告げた。

「はい。会議が始まる前にワイド無しで今のをやったけど無効化はされなかったわ。ワイド弁明は?」

「いや、そういわれても・・・」

 ロング姉は頬杖を付き紅茶を煽った。ティーカップの持ち手の穴に指を入れるのは下品ですよ姉さん。

「あの日あんたにエビ固めを決めてからなのよ、もしかしてあんたエビ固めされて何かに目覚めたのではないの?」

「いやそんな急にドMに目覚めたんじゃないかみたいな言い方されましても・・・」

「ちなみにこの紅茶。ただの水を魔法で紅茶にしています」

 ロング姉が説明口調で投げやりに言い放つ。こんな事まで魔法で出来るのか、魔女は嘘がうまいんだなと感心する。

 が、その途端紅茶の色がすっと解けるように消え無色透明に変わった。

「あらロングの予想通りなのね。ワイドが魔法だと意識した途端無効化されるわ。・・・あらやだこの子お母さんがモテモテなの魔法の所為だって気が付いてたって事?お母さんショックだわ・・・」

 しょんぼりした母には目もくれずに原因を探る。

 魔法は世界を騙す嘘で発動する。騙された世界が起こす自衛現象だ。だが俺が魔法だと判断すると無効化される?・・・俺が嘘だと気が付くと世界も気が付く?いやこれは・・・気が付くというより世界が俺を最優先で信用してしまうのか。世界エアリルは俺の娘だから嘘だと看破すると世界が信じて騙されないという事か?あれ?これは結構なチートってやつじゃないのか?俺が自己分析に浸ってうんうんと頷くと、ロングがハァ~~~っと長い溜め息をついた。

「思い当たる節がありそうね。残念だわ」

 ロング姉は俯て口を尖らせ、目を潤ませていた。

「お母さんも残念だけど仕方がないわね。此処は魔女の家。魔法で動いているもの保っているものも少なくない。だからあなたを此処にはおいておけないの」

・・・え?追い出され系なの?

年齢を修正しました。

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