創世
はじめまして。拙い文章ですがよろしくお願いします。
「それじゃあそのフルダイブMMOというゲームの世界を、そのまま再現した世界というのが多いという事かな?」
目の前の少女は少し首をかしげ、柔らかそうな金髪を揺らしながら二つの碧眼で俺をじっと見つめながらそう尋ねた。
「そうですね、ただフルダイブMMOなんて物自体が開発されていない空想の存在ですけれど」
「は~・・・なんだそれも存在しないのね、それでは参考にできないな。さっき言っていた乙女ゲームの悪役令嬢?というのも実際ゲームには登場していなさそうだし困ったものだね」
彼女はそう言って頬杖をつくと、少し口を尖らせた。
「まあフルダイブは無くてもMMOなんかはありますしね、それを参考に適当に作ればいいんじゃないですか?」
「そんなので納得できる性分ではないから私は君を此処に連れて来たんだよ。悪いとは思っているよ?他の神に呼ばれていれば、君は今頃その神の創った世界でチーレム無双出来ていたかもしれないのだから。それが来てみれば世界創るところから始めるからアドバイスよろ~とかね。あれ?よく考えればこれはこれで楽しそうじゃないか、私全然悪くないね?感謝してね?」
少女のような幼い女神は、胸の前で腕を組むとうんうんと頷いた。
「あ、はい。感謝していますよ。生前の名前も死因も思い出せないですが、物語を読んだりするのは好きだった気がしますし、昔から空想に浸り自分の中だけの物語とかも作っていましたからね。文才がなくて形にすることはままなりませんでしたけど、こうして死後、可愛い女神様と一緒に世界創生出来るなんて夢のようですよ」
文才も無かったが、こんなにスラスラと喋れる人間でもなかった気がする。女神様を見ると目を瞑り腕を組んだまま頬を赤らめて硬直していた。可愛いと言っただけでテレてしまっているのだろうか、本当に可愛い神様である。
「・・・お、おう!そうか。なら一緒に考えて形にしていこうか私たちの世界を!えっと・・・やっぱり魔法とかスキルとか魔物とかは欲しいよねー・・・どんどん意見をくれよ?私はあまりこういうのは得じゃないんだよ」
神様はにやにやしながらペンを持つ。こうして俺と女神様による世界創生が始まった。
「ただいまー」
浮かれた神様の声が響いた。
「あ、神様お帰りなさい。どうでしたか?ちゃんと創世神話を神託出来ましたか?」
「うんうん。内容は君には教えてやらないけれどね」
二人で創った世界に人類を創り暫くの時が経った。女神様はその世界に一度降り、どうやって世界が生まれたかを人に託してきたのだ。頑なに内容を俺に教えてくれないが。
「今のところ順調かな。ただ魔法はやはり使えるものは居なさそうだね。ヒントを与えないとあの設定では使える人間など出てくる気がしない」
魔法に関しては、俺の意見をそのまま採用して貰っている。その原理は、世界を一つの生物として考えることから始まる。人が病気になれば熱を出しウイルスを排除する。血が出れば血小板が止血しようとする。そういう人体の行動を、世界も無意識に行う。この世界の魔法は、言語や文字で世界を騙し現象を発動させるものなのだ。世界に害をなすものが居るから焼き払え。火が世界を焼き覆うので水で消せと架空の敵を作り嘘で世界を騙し治めてもらう。人体で例えるなら、ウィルスが入り込んでいるわけでもないのに、細胞の一つが嘘を伝え発熱を促す。まあ世界にとって良いことではない。この嘘の歪みから魔物が発生するようにしてあるので今の世界には魔物も存在していない。
「まあスキルは既に授けてあるんでしょ?ならそれで理の理解者が出てくると思いますし、魔法は世界を蝕む可能性もあるので無ければ無いでいいと思いますよ」
「まーそうか。世界は私と君の子供だからあまり危険な目には合わせたくないしね」
「・・・え?子供?」
そう問いかけると女神様の視線が急にぶれ始める。
「ま、まー比喩みたいなものだよ。うん。(創世神話にはそう明記させたけど)」
小声の内容もばっちり聞こえたので神様が俺に創世神話を聞かせない理由もなんとなく察した。好いてもらえているのだろうから、悪い気はしない。
「なるほど。子供なら名前を付けないといけませんね。んー・・・俺の居た地球の英字でEarthだからこれを読み方変えてエアリ・・・ル!」
なぜか最後をスにしてはいけない気がした。後ろから刀で銀髪に刺されそう。
「お、私の子っぽくて良いね!それでいこう!あと特殊なスキル作りたいんだよね、前言っていた七つの大罪?とかセフィロトのセフィラー?とかカッコいい気がする!」
コロコロと笑いながら新しい案を上げていく神様。彼女の言う私の子っぽいの意味が分からなかったのは、俺が彼女の名前すら知らなかったからだとしばらく後になって気が付いた。
「大陸が一つデストピアになってる・・・」
神様が頭を抱えていた。
「どうしたんですか?」
「1週間ほど1000倍速にして別の事をしていたらデストピアになっているんだ」
ざっくり計算してエアリル世界で・・・・・・・・・・・・・・・・・・20年足らずかな。
魔法は発見され魔物も出てきたが20年やそこらでデストピアを完成させるとは凄まじいトップだな。
「この王1人でセフィロトスキル2個と大罪スキル2個所持しているんだよ。世界で一つのスキルを重複して4つ持つなんて考えてもいなかったよ」
「デストピアって事は、完全に管理された国になっているんですか?」
「王に反逆すれば当然殺される。書物は持つことが許されない。王の意にそぐわない事実を記することも反逆扱い。結婚も出産も性行為すらも全て王の管理下によって制限されている。人間以下の扱いを受ける階級がほとんど・・・その国がさらなる拡大を始めようとしている」
神様は俯いて悲しげに世界を見つめる。いつもはあっけらかんとしている神様が今にも泣きだしそうに目を潤ませている。
「どうしよう・・・日本語で統一されている言葉をバラバラにして統一を防ぐか?いや一時しのぎにもならない。降臨しても私自体には創世以外の力はない・・・いっそ大洪水でも起こして全てを・・・」
「俺をエアリルに転生させてください」
「は?」
神様は顔を上げて俺を見据えた。
「あの大陸にそのままだと困りますので別の大陸に。そしたら俺が全部解決してきます」
「いや・・・でも・・・セフィロト10スキルも大罪7スキルも所持者がすでにいるから君には特別なスキルを渡すことも出来ないんだよ?」
「神様と一緒に作った世界を、俺は見放したくないんです。あ、でも結構きつそうですね。失敗したらまたここに呼んでくださいね。待っている間寂しいなら送った後また1000倍速にして貰えば・・・」
神様は俺の言葉を遮るようにハァ~っと声を出して溜め息をつく。肩の力が抜け完全に脱力したと思えば腕を組んで斜に構えた。
「カッコいい事言い出したと思ったが、途中からかっこ悪くなってしまったな。特に君のいない間1000倍速にしろとかアホなのか?まあ私もアホかもしれん。少し冷静に考えてみればこの王だって時間が経てば死ぬ。スキルありきでの管理システムだ長くは持たないだろう。創世と称してこの大陸ごと海に沈めることも出来る。君が行く必要は全くない」
「あーでも、かっこつけてしまったので」
俺が肩をすくめて言うと、彼女は溜め息を付き、目を細め仕方がないなと微笑んだ。
「そうだね。じゃあ転生した君がカッコよく世界を救うところを見せて貰おうかな。ただし!」
神様は人差し指を立てるとずいっと俺の顔に突き付けた。
「最後には私のところに帰ってくること。向こうでの浮気は寛容してあげるが、そういう意味でも最後には私を選ぶ事!創世期では私と君は夫婦でエリアルは二人の子供という事になっているからね?あと私も君を送った後分体を送り込むよ。まあ意識は別物で私のペルソナを一部受け継いだ人間ということになるけれどね。分体を見つけて名前を呼んでもらったら覚醒するようにしておくよ。」
言いたいことを言い終えた神様は腰に手を当て胸を張って満足そうに笑った。
「あの・・・嫁の名前も知らないまま夫婦になってました。あと童貞のまま父親になっていたのですが・・・」
「・・・ルルリラだ、もう一方の問題は帰ってからな。今はこれで我慢しておきなさい」
神様はつま先を伸ばすと、両手で俺の顔を引き寄せて口付けをした。