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ジフテリア菌撲滅行脚

ジフテリア菌撲滅行脚の初日。今日は最初に王都にある隔離療養棟の患者を治療する予定だ。


護衛はリュシアン、パスカル、マルセル、イチとサンだ。それから看護師のアニーがリオの補佐に就く。レオンはリオの左手の巾着袋の中だ。


「お父さま・・・お仕事は?」

「仕事よりリオが大事だ」


とトリスタン国王に言い放ってきたらしい。


(国王陛下、すみません。何とか三日で終わるように頑張ります)


本気でそう思っていたのだ。この時点では。


王宮から全員で隔離療養棟に転移する。リオは早速自分に感染予防の全身膜の魔法をかけた。


試行錯誤の結果、リオは複数の患者に同時に同じ魔法をかけられることが判明している。「死ね!ジフテリア菌」攻撃を同時にかけたいので、複数の患者を集めておいてもらえると助かるとリュシアンに伝えていた。だから、事前に手配してくれていたのだろう。多くの患者が大広間に集められていた。扉を開けるとものすごい音量の咳で耳が痛いくらいだ。患者が苦しそうに呻いている。その間をマスクとゴーグルと全身防護服を着用した医療従事者が歩き回り患者の世話をしていた。


「苦しい・・」

「もう・・・死ぬ・・・」

「だれか・・・助けて・・」


激しい咳の合間に苦悶に満ちた患者の声が聞こえてくる。


(もう、大丈夫。安心して)


リオは大広間にいる全員に向かって「死ね!ジフテリア菌!」攻撃を出した。


すると、患者だけでなく医療従事者も全員淡い光に包まれた。そして光が消えた後、大広間が静寂に包まれる。咳をしている患者や呻いている患者は一人もいない。


広間に居た全員が呆然として立ち上がり、隣の人と手を取り合って喜んでいる。


リオはその場にいた中年の医師に、念のため患者の部屋を殺菌消毒するようお願いした。細菌が残っていると再感染する可能性がある。


医師はマルタンと名乗った。リオの評判は聞いていたが、正直半信半疑だったという。しかし「死ね!ジフテリア菌!」攻撃を目の当たりにして感動した、素晴らしい、是非師事させてくれないかとリオに向かって捲し立てた。


リュシアンがリオを庇って、他の場所にも行かなくてはいけないので、と断りを入れていると、建物の外から大きな喧噪が聞こえてきた。窓の外を見ると、多くの人々が中を覗き込んで何かを喚いている。


国家療法士が来ていると口コミで広まったらしい。自分も治療してもらおうと患者が集まってきているというのだ。


(・・・・病人がいるなら治療したい)


リオに懇願され、リュシアンは頭をボリボリ掻きながら諦めたように頷いた。


レオンにも出てきてもらう。絶望的な顔をしていたけど、彼も諦めたようで治療を手伝うと言ってくれた。但し、代わりに誰かに巾着袋で待機して欲しいと言うので、サンが自主的に巾着袋の中に入っていく。


それにしても待っている患者は大変な人数だ。リュシアン、パスカル、マルセル、イチは診療中のリオの警備の仕方を検討している。


(これだけの人数を治療するには一日では足りない・・・)


困ったな、と治療のやり方を迷っていると、ふと閃いた。多くの疾患はウィルスや細菌が原因だ。取りあえず人間に有害なウィルスや細菌をまとめて殺すことができれば、患者の数を大幅に減らせるんじゃなかろうか?


有害なウィルスと細菌を殺した後、残った患者を手分けして治療するのが効率が良さそうだ。マルタン医師らも診療に協力してくれるという。


リュシアンたちは相談を終えたらしい。リオを取り囲むような陣形を組む。リオはまず建物の前に集まっている群衆の前に姿を現した。勿論、護衛に囲まれてだけど。


そこで渾身の「死ね!人間に有害なウィルスと細菌!」攻撃を繰り出す。


多くの患者が淡い光に包まれて回復した。


(本当に冗談みたいな力だ。凄すぎて笑ってしまう)


大勢の驚きと歓声が周囲に大きく響き渡る。


実は体を鍛え、魔法を修練するうちにリオの魔力は天井知らずに伸びているのだが、本人にその自覚はない。


残りの患者は怪我が主で、幸い深刻な病状の患者はいなかった。隔離療養棟の内部はまだ殺菌消毒が済んでいないので、中に入れる訳にはいかない。青空教室ならぬ青空クリニックで、外にテーブルや椅子、衝立を並べての診療になった。


左手巾着袋の中の医薬品がとても役に立った。アニーも甲斐甲斐しく手伝ってくれる。もう立派な看護師だ。昼食も休憩も取らずに必死で診療したが、最後の患者の手当てが終わった時には既に午後三時を回っていた。


お礼と感激の言葉が止まらないマルタン医師らに別れを告げ、疲れ果てたリオたちは王宮に戻った。


リュシアンは既に王宮にスケジュールの変更を伝えていて、その日は他の隔離療養棟に行く必要はなかったが、今後の対策を話し合う必要がある。


護衛も含め、全員がげっそりと疲れ果てていた。サンだけは巾着袋の中にいたので元気そうだ。


「中はすっげー広いのな。リオがどんどん人間離れしていくから、これから楽しみだよ」


と無責任なことを宣う。


リュシアンとレオンは他の療養棟でも今日のようなことがあるのではないかと、真剣に話し合っている。驚くべきことに、今日の出来事は既に噂で他の地域にも広がっているらしい。口コミ恐るべし。


「王都では一般市民の診療もしたのに他の地域ではしない・・・というと差別と言われるだろう」


リュシアンは溜息をつく。


「申し訳ありません、お父さま・・私が短慮だったかもしれません。でも、困っている患者がいたら放置できません。他の地域でも喜んで診療します。ただシモン療法所での診療も疎かにはしたくありません。何とか両立できないでしょうか?」


リオは必死に訴えた。


「ジフテリア患者は優先すべきです。なので、まずはジフテリア患者を集中的に治療します。その後に戻ってきて一般市民の診療を行うと約束すれば、不公平感は少ないのではないでしょうか?」


リオの提案は、数日間で残りの十一ヵ所の隔離療養棟を回り、一般市民の治療については後日戻って行うということだ。例えば、月~水までシモン国家療法所で診療を行い、木・金は一日ずつ各地域の一般市民の診療を行う。そうすれば、五~六週間で全ての地域での診療が終わるだろう。


リュシアンはこの国難の時期に仕事を離れてリオに付きっ切りの訳にはいかない。だから、リュシアンが護衛に加わる必要はないと説得した。リュシアンは苦い顔で渋々と受け入れた。


しかし、レオンはリオの提案に難色を示した。


リオがいつどこに来るのか敵に分かってしまう上、不特定多数の患者が集まり、警護も難しい。狙ってくれ、と言わんばかりの状況だとレオンは心配している。


(うぅ・・・。それは確かにその通りだけど・・でも、他に何か良い方法はある?患者がいるのにそれを無視するなんてできないし、周知させないと患者は集まらない)


リュシアンとレオンは万策尽きたという様相で厳しい顔をしている。


その時、唐突に背後から


「我がその場に居れば、ポレモスは手を出さぬだろう」


という声が聞こえて、振り返るとそこに村長が立っていた。


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