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指輪

最近、シモン公爵邸の面々は忙しさに拍車がかかっている。リュシアンはほとんど王宮から帰ってこない。セリーヌはアンドレと情報収集に励んでいる。


リオが無事に帰ってきたことはすぐにアンドレに知らされた。アンドレのいる大使公邸に辿り着いたエディも泣いて喜んでくれたとか。


コズイレフ帝国との戦争が始まれば、大使らは人質になるだろう。戦争勃発直前に避難する手筈を整えると同時に、ギリギリまで帝国に留まり戦争を回避する努力をしなければならない。アンドレの立場は難しい。


リュシアンはアントン皇子との連携を希望している。リオはアントンに仕える『仕事のできる侍女エレナ』の話をした。どうやらエレナがアントンとアンドレの連絡役をしているらしい。何とか戦争を回避したいと心から願う。


戦争に関しては役立たずだけど自分に出来ることを頑張ろうとリオは気合を入れている。療法所の診療だけでなく、フォンテーヌ国内で感染者を出しているジフテリア菌の撲滅にも乗り出した。レオンは良い顔をしなかったけど何とか説得した。


ポレモスがフォンテーヌを弱体化させるために意図的に細菌を撒いていると聞いて許せるはずがない。ジフテリアだけでなく他の細菌をばら撒かれる可能性もある。実に腹立たしい。


リオ誘拐の切っ掛けとなったイヴェット・デュボア伯爵令嬢は自力で回復し、デュボア領内で感染は広まらなかったそうだ。リュシアンの脅しが効いたのかもしれない。取りあえず一安心だ。


イヴェットはほとんど何も覚えていないらしい。ジュリアンが訪ねてきてくれて有頂天になったところまでは思い出せるが、それ以降は何も覚えていないという。リオに対して敵愾心を持っていたことは事実でそれを利用されたのかもしれない、申し訳ない、と泣きながら謝罪していたとリュシアンから聞いた。嫌な態度を取ったのに助けてくれてありがとう、という直筆の礼状を受け取り、リオは少し嬉しい気分になった。



***



リオは最近、積極的に自分の魔法の特性や効果について試している。レオンの協力のおかげで多くの発見があった。例えば、患者が視認できれば、広範囲に魔法が届くことが判明した。これを知っていれば「死ね!ジフテリア菌!」攻撃で、わざわざ患者に近づく必要はなかった。攫われることもなかったと悔やまれる。


その発見のおかげで、ジフテリア感染が広がっている地域での治療をレオンも渋々同意してくれた。但し、レオンから二つの条件を出された。一つ目は離れたところから患者に魔法をかけること。二つ目はレオンがリオの左手の巾着袋に入っていることだ。


レオンの感染症対策のおかげでジフテリア菌感染は一部の地域に留まっているという。感染者と感染が疑われる患者は、地域指定の建物で隔離療養しているそうだ。そういった隔離療養棟が現在国内に十二ヵ所ある。言い換えるとその十二ヵ所でジフテリア菌を撲滅させれば、感染の封じ込めに成功ということだ。


特別許可を貰い王宮から直接転移するので、一日四棟回るとして三日間で終わる予定だった。リオはまさかあんな事態になるなんて予想もしていなかったのだ。



*****



いよいよジフテリア菌撲滅行脚が始まるという前夜、リオとレオンは夕食の後二人きりでお茶を楽しんでいた。何か言いたそうにしていたレオンが、不意に立ち上がって何かを持ってくる。


小さな箱に綺麗なリボンが飾られている。何だろう?


レオンは「これを君に・・・と思って」と跪いて、恥ずかしそうにリオに手渡した。


(プレゼント!?誕生日プレゼントかな?・・って、あれ?誕生日プレゼントは道の駅でデートだったよね?)


頬を赤らめてリオは箱を開ける。するとそこには、鮮やかな赤い宝石が輝く指輪が鎮座していた。


「・・・私は朴念仁でね。その・・女性にアクセサリーなんて贈ったことがないんだ。君がどんなものを気に入るか全く分からず、不安だったんだが・・・。でも、愛する女性に贈る初めてのプレゼントだから、誰にも相談せずに自分で選びたかった。私の趣味だから、君の気に入るかは分からないが・・その・・その赤い色が君の綺麗な瞳みたいだな、と思って・・・」


レオンはしきりに首の後ろを擦っている。顔を真っ赤にして一生懸命言い訳するレオンが心から愛おしいと思った。幸せすぎて、また瞳からポロポロ涙が溢れる。最近泣いてばかりだ。


「レオン様、私はこの指輪、大好きです!ホント綺麗・・。レオン様が私のために選んでくれたっていうのが一番嬉しい!」


というとレオンも満面の笑顔で応えてくれた。レオンは大切そうにリオの左手を取り、そっと薬指に指輪を嵌める。そして、リオの顎を優しく持ち上げて甘い口づけをした。


「結婚式のことも相談しないとな」


と耳元で囁やきながらリオを抱き上げると自分の膝の上に載せる。


「君の世界だと婚約指輪が必要なんだろう?」


前世の話をした時に言ったことをちゃんと覚えていてくれたんだ、とリオは感動した。レオンはどんな小さなことでもリオが言ったことに注意を払ってくれる。


「覚えていてくれてありがとうございます。とても嬉しいです」


とリオはレオンの首に抱きついた。レオンはリオを抱きしめながらも、若干後ろめたそうな表情を浮かべた。


「実はその指輪には追跡子が付いているんだ」


びっくりしてレオンを見る。いや、決して非難しているわけじゃないんだけど。


「・・・ごめん。怒ったかい?」


「いいえ、追跡子があった方が私も安心します。指輪は小さいから、誘拐されても犯人たちには気付かれないかもしれないし」


「うん、君は診療中に指輪やアクセサリーを付けない主義だと言っていたよね?指に付けていない時は、左手の巾着袋の中に常に入れておいてくれないか?」


「もちろんです。ありがとうございます!」


レオンは安心したように微笑んだ。リオが大好きなレオンの笑顔だった。


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