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イーヴの羽根

*元々イーヴは『セレーネ』という名前でした。でも、読者の方から『セリーヌ』と混同しやすいというご指摘を受けて、改稿にあたって『イーヴ』と名前を変更しました。改稿前のエピソードには『セレーネ』という名前が残っています。できるだけ早く改稿を終了するつもりですので、ご理解の程どうか宜しくお願い申し上げます<m(__)m>。

(村長に寄り添う村長そっくりの男性!?もしかしてBL展開か?!)


リオはちょっと艶めかしい想像をしてしまい顔を赤らめる。


「お前は何か不埒なことを考えているな」


と不機嫌そうな村長に叱られた。


「すみません・・・つい・・」


と素直に頭を下げる。


もう一人の村長はリオに軽く会釈をして部屋から出て行った。


(誰だろう・・・?気になる。でも、今はそれどころではない)


「まぁ、いい。用件はなんだ?」


村長が呆れたようにリオを見ながら尋ねた。


「あの、シモン公爵邸に帰して頂けないでしょうか?実は私、ポレモスに誘拐されてコズイレフ帝国の皇宮に連れて来られたんです。危ないところをアントン殿下に助けてもらって、転移の間からここに逃げてきました。あ、だから、その、緊急事態だから事前に村長に連絡できなかったってアントン殿下が伝えて欲しいと・・・」


村長が驚いたように目を見開く。


(マジか?マジで知らなかったのか?いや、そりゃね。神様も全てを見ててくれるとは思わないけど、宿敵ポレモスに誘拐された時くらい気づいていて欲しかった・・・)


村長はリオに座るように指示した。


そして「イーヴ」と奥に向かって声をかける。先刻の村長と瓜二つの男性がお茶を持って現れた。お茶を淹れ終わるとイーヴもリオの向かい側の椅子に腰かける。


繰り返すが同じ顔をした二人の村長がリオの眼前に座っている。圧巻だ。


リオはお茶を淹れてくれた礼を言い自己紹介と挨拶をする。


イーヴは嬉しそうに


「初めまして。リオ。私はイーヴです。どうかイーヴと呼んでね」


と挨拶してくれる。


村長の尊大さとは正反対の控えめさとフレンドリーさに感動していると、村長から


「また不埒なことを考えているな」


と叱られた。


「お前の話はイーヴも聞いた方が良いだろう。話せ」


リオはこれまであった出来事を全て打ち明けた。


村長はリオの話を聞き深く考え込む。


「ポレモスに付いている魔人族はメフィストと言ったな?」

「あ、はい。そうだと思います」

「どんな男だ?」

「いえ・・・魔人族はみんなフードを被っていて顔が見えなかったので、どの人がメフィストなのかも分からなくて・・すみません」

「いや、恐らくヘビのように狡猾な奴だ。お前のせいではない」


その質問の後、村長はまた黙って考え込む。


イーヴはニコニコしながら


「ヘリオスはね、こうなったらしばらくは何を言っても反応しないわよ。気にしないで放っておけばいいわよ」


村長の外見と声で言われる台詞が、普段の村長とあまりにギャップが大きすぎる。


(村長の名前はヘリオスっていうんだな・・・それより早く帰りたいな)


リオがボーっと考えていたら、イーヴに「ねえねえ、ちょっと奥に行っておしゃべりしましょ?」と誘われた。


村長を見ると彼は思索に耽っていて、リオたちには見向きもしない。


(なるほど。ま、いっか)


リオはイーヴの後に続いた。


「私ね、ヘリオス以外の人と会うのはここ四万年くらいで初めてなの」


と衝撃的な告白を受け、リオは何と返事をしていいものか戸惑った。


(「人に会うのは四週間ぶり!」的なノリで言われても・・・)


「ちゃんと紹介してもらったのも初めて。良かったらお友達になってくれる?」

「は、はい。勿論です。どうか宜しくお願いします」


リオは深く頭を下げた。


何度も言うが、イーヴはどう見ても村長と瓜二つの男性なので台詞とのギャップが怖い。


イーヴは悪戯っぽく「何故ヘリオスと同じ姿なのかって思ってる?」と尋ねる。


リオは正直に「はい」と答えた。


イーヴはリオの手を引いて小さな部屋に連れて行った。そこには多くのものが雑多に置かれている。イーヴはその中から円形のカードのようなものを取り出した。


イーヴが「Reflectunt!」と唱えると、そのカードの上に美しい女性のホログラムが映し出された。


いつか教会で見た神様のように、三対の翼を背中に羽ばたかせている。銀色の髪に赤い瞳の優し気な顔をした美しい女性だ。


「あのね。これが私だったの」

「え!?」


驚くリオにイーヴは寂しそうに微笑んだ。


「私とヘリオスは夫婦だった。でも、私は体を破壊されて死んでしまったの。ヘリオスは私の意識をかろうじて繋ぎ止めることができたんだけど、体が無くなってしまって・・・。ヘリオスが自分の血から体を複製して、そこに私の意識を入れてくれたのよ」


(・・・・そんなことがあったんだ・・・。凄い話すぎて、もう何と相槌を打って良いのかも分からない)


「それが四万年くらい前の話。でも、私の意識がまだ存在してるっていうのは、ずっと秘密なの。ヘリオスが一生懸命守ってくれるけど、やっぱり私は足手まといで・・・たまに申し訳ない気持ちになるわ。私なんていない方がいいんじゃないかって」


イーヴの表情が切なげに歪む。


「でも、村長はイーヴさんのおかげで幸せですよね。イーヴさんがいなくなってしまったら村長は独りぼっちです。だって簡単に友達を作れるタイプじゃないじゃないですか!イーヴさんがいるおかげで村長は幸せなんだと思います」


イーヴさんは意外なことを聞いたというように目を丸くしていたが、嬉しそうに破顔した。


村長の顔でそんな表情は反則だ。完璧な容姿にあどけない笑顔。ヤバい。心臓がドキドキしてきたので、リオは部屋の中を見回しながら顔を逸らす。


ふと棚に飾ってあった円柱形の透明な密封容器に目が留まる。透明な容器の中に羽根が一枚入っていた。


その羽根は、白いのに光の加減で虹色に輝いている。不思議な輝き。こんなに美しい羽根はこれまで見たことがない。


あまりの美しさに見惚れているとイーヴが


「それね、私の翼の羽だったの」


と言った。


「・・・こんな美しい羽だったんですね。キラキラしてすごく綺麗・・・」


うっとりと見惚れる。たった一枚でこれだけ美しいのだ。三対の羽を広げた姿を見たら目がつぶれてしまうかもしれないと真剣に考えた。


イーヴが


「そんなに気に入ってくれたんだったら、それリオに差し上げるわ」


と容器をリオに手渡した。


リオは焦って、そんな図々しいことはできないと遠慮するが、イーヴは「是非、貰ってちょうだい!」と聞いてくれない。


リオが途方にくれていると


「何をしている?」


と冷たい声が背後から聞こえた。


ビクッとしながら恐る恐る振り返ると、村長が眉間に深い皺を寄せてリオを睨みつけている。


きっとあの皺に一円玉くらいは挟めるに違いないと思う。


イーヴが事情を説明する。リオの手に握られている容器を見て、村長は感慨深げに呟いた。


「リオ、お前はこの容器に入っていたんだ」


(へ?!私が?)


「お前の意識を持ってくる時にな」


(あ、なるほど。事故の後に、私の魂というか意識をこの中に入れて運んだのか。ポレモスが用意した容器ってコレかぁ)


「じゃあ、余計にリオが持っていた方がいいじゃない?」とイーヴ。


村長は難しい顔をしていたが


「イーヴの羽根は他にも残っているか?」

「うん、羽根はあと何枚か残っているのよ」


という返事を聞いて、


「リオ、これはイーヴがお前に贈りたいと言っている。イーヴの好意を無碍にするな」


と叱られたので、有難く受け取ることにした。


「大切なものをありがとうございます!」


リオが容器を覗き込み羽根の美しさに見惚れていると、イーヴが嬉しそうに笑った。彼女を見守る村長の顔があり得ないくらい優しい。村長のイーヴへの愛情が伝わってくる。リオは村長が感情のない神様ではなかったと知り安堵した。


村長がまだ聞きたいことがあるというのでリオは村長の部屋に戻った。


「ポレモスは魔王復活については何か話していなかったか?」

「いえ、それについては聞かなかった、と思います。ごめんなさい・・・」


村長は失望した様子で、リオはとても申し訳ない気持ちになった。村長を失望させると強い罪悪感を覚える。命令じゃないのに否と言えない村人たちの気持ちが分かるような気がした。


「まあいい、後ほどお前の保護者に何か掴んだか訊きにいく」

「すみません・・・」

「いや、いい。スタニスラフは息災であったか?」


話題が突然変わって戸惑ったが、リオはスタニスラフがオリハルコンに付いている理由を尋ねてみた。


「はい、お元気そうでした。私を助けて下さった姿はとても頼もしかったです。それにしても、何故スタニスラフ様はオリハルコンについているのですか?」


村長は過去の記憶を辿るように少し遠くを見ながら


「あれは、我がブーニン地方に行った時だ」


と話し出した。


「子供を宿したセイレーンの夫婦が村から逃げ出して、ブーニン地方で生活していると知って様子を見に行った。ポレモスが関与していたしな。村に戻ってきたければ戻ればいいと言いにいった」


(え・・・!?それってもしかして、セリーヌお母さまのご両親のこと?)


「二人ともそこでの生活に満足していた。産まれたばかりの赤ん坊も元気そうだった。その生活を続けたければ好きにすればいいと告げて別れた直後のことだ。馬車に轢かれそうになった人間を庇って自分が代わりに死んでしまった男を見かけたのだ。それがスタニスラフだった」


(・・・ああ、確かにお母さまが言っていた。最後まで人を庇って死んでいったって)


フォンテーヌ国王はスタニスラフの葬儀でブーニン地方に来た時に、赤ん坊だったセリーヌを保護した。もし、この時に村長と一緒に村に帰る選択をしていたら、セリーヌの両親は殺されずにすんだのかもしれない。


「スタニスラフのことはナオミから聞いて我も知っていた。ナオミはアレクセイが譲位を決めた時に、我にオリハルコンを返しに来た。律儀なことだ。我は返す必要はないから、お前のように利他的な人間にナイフを譲れと指示した。オリハルコンは正邪を判じ、主を選び、主たる価値がある人間を導く刃だ」


(なるほど・・・崇高な刃だ。私は選ばれた訳じゃないけど、オリハルコンには助けられてばかりいる)


「その時にナオミは、だったらスタニスラフにオリハルコンを譲りたいと言っていた。他人のために自分を犠牲にしてばかりの人生を送っている男だと。その男が最後も人を助けて死んでいった。これだけ利他的な人間には何か望みを叶えてやりたいと思ってな」


(そうだよね。あれだけ苦労してオリハルコンまで取り上げられて、何か良いことがあってもいいはずよ!)


「死んだスタニスラフの意識を捕まえて、望みを聞いた。彼の望みは『オリハルコンと共に生きること』だった。彼も律儀な男だ。せっかくナオミがくれた貴重なオリハルコンを失ったことが人生で一番の心残りだったらしい。我は彼の望みを叶え、スタニスラフは永遠にオリハルコンと共に生きることとなった」


(・・・なんと!でも、それでスタニスラフは幸せなんだろうか?ちょっと心配になる)


「幸せは個人の主観だ。どれほど不遇な環境でも幸せだと感じることができる者もいる。逆にどれほど恵まれた環境でも、自分は不幸せだと決めつける人間もいる。スタニスラフは自分の幸せがオリハルコンと共にあることだと選択したのだ。幸せなのだろう。スタニスラフはお前を主君と認め、共鳴している。純血種のセイレーンの中には人間の意識が見える者もいる。しかし、お前が特に魂を惹きつけるようになったのはスタニスラフの影響だ。お前とは特に親和性が強いようだな。自分が認めた主君と生きられるのは幸せなことではないか?」


(そっか・・・。そうだといいな。それにしても、霊魂との交流(?)が増えたのはスタニスラフの影響だったんだ。突然霊感に目覚めたわけではなかったのね)


「話は以上だ」


村長は唐突に話を終えた。


「イーヴも疲れている。お前を公爵邸に返してやろう」


珍しく村長が優しくリオを見る。リオは嬉しくて何度もコクコクと頷いた。そして、村長とイーヴに心からお礼を言う。イーヴも笑顔でお別れしてくれたけど、確かに疲れて顔色が悪いように見えた。


村長は


「イーヴのことは他言するな。誰かに話したらお前の加護は無くなる」


と厳命した。


「レオン様にだけは話していいですか?」


とお願いすると渋々と言う感じで頷いてくれた。


最後に


「お前の保護者らにいずれ話をしに行くと伝えろ」


と指を鳴らした瞬間、リオは公爵邸の転移の間に移動していた。

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