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イヴェット・デュボア伯爵令嬢

それから数週間後、診療を終えて公爵邸に帰るとリュシアンが苦虫を嚙み潰したような顔でリオたちを待っていた。


何かあったのか尋ねると「イヴェット・デュボア伯爵令嬢を知っているか?」と聞かれた。


「聞いたことがあるような・・」と首を傾げながら答えると一緒に帰ってきたパスカルが


「舞踏会の時にリオに意地悪を言ったあの陰険女じゃない?国王陛下に叱られてたあのムカつく女」


と指摘する。


(あ、そっか!あの令嬢ね。道理で聞いたことがあると思った)


パスカルは相当腹が煮えていたらしい。リュシアンに向かってイヴェットがリオに何を言ったか逐一報告している。


リュシアンは怒りで顔が真っ赤になった。


「そうか!話を聞いて良かった。嘘つき呼ばわりした娘を助けるためにリオの力を貸して欲しいなんて厚かましいにもほどがある」


リオは気になる言葉があったので


「お父さま、助けるってどういうことですか?イヴェット様に何かあったのですか?」


と問うと、リュシアンは「しまった!」という顔をした。


リオはちゃんと説明して欲しいと言い張ったが、セリーヌがやって来て夕食の支度ができたと告げた。リオは仕方なくセリーヌの後に続いて食堂に向かう。


食事は相変わらず美味だが、さっきのリュシアンの話が気になる。もう一度その話を尋ねてみると、セリーヌが「あら、ちゃんとリオに説明しなかったの?」とリュシアンを軽く睨んだ。


リュシアンは物凄く嫌そうな顔をしたが、ちゃんと説明した方が良いとセリーヌに諭され、ようやくイヴェットについて話してくれた。


「イヴェット嬢は数日前から突然体調を崩したらしい」

「症状は?」


リオの質問にリュシアン渋々答える。


「最初は風邪のようなものだった。しばらくして高熱が出て、食べ物が飲み込みづらくなった。声も出にくいらしい。咳がひどくなり、動物の鳴き声のようなおかしな咳をするようになった」


(ジフテリアだ!やっぱり流行っているのかもしれない。感染源は何なのだろう?療法所にきた患者とイヴェット様に何か共通点はあるのだろうか?)


リュシアンは心底嫌そうに話を続けた。


「デュボア伯爵は王宮の医師団に泣きついたらしいが誰一人治せなかった。治せるとしたら国家療法士のレオンかリオだろうと王宮の医師に言われたらしく、俺に泣きついてきたんだ」


「お父さま、私は治せます。何週間か前に同じ感染症の患者の治療をしました。幸い近所の人たちに感染が広がることはありませんでしたが、イヴェット様から他の人たちに感染が広がる可能性があります。どうか私に治療させて下さい」


「リオはきっとそう言うと思ったから、リュシアンは教えたくなかったのよね」


とセリーヌが笑顔を見せる。


「当たり前だ。しかも、その令嬢はリオを馬鹿にして侮辱したんだぞ」


リュシアンはまだ腹を立てていた。


「お父さま、私もその令嬢のことは正直好きではありません。でも、私が心配しているのは、周囲の人たちに感染が広がることなのです。使用人から伯爵家の外にまで感染が広がったらどうしますか?」


レオンは黙って会話を聞いていたが


「リオ、私にジフテリアを治療することはできないかな?」


と尋ねた。


正直・・・分からないとしか言いようがない。『死ね!ジフテリア菌』攻撃もイメージというか、こうすれば良いという手法があってのものではないのだ


リオの困った顔を見て、レオンは心配そうにはぁ―――と深い溜息をついた。


「情けないがリオに任せるしかないということか。もし治療するとなったらどうする?療法所に来てもらうか?」


リュシアンは眉間に皺を寄せて考え込んだ。


「デュボア伯爵家からここまでは結構遠い。病気のイヴェット嬢を馬車に乗せて連れて来るのは辛い距離だ。転移魔法を使いながら移動するのも負担が大きいし、その時に周囲に感染させる危険がある。かといって、信用できない連中を公爵邸や療法所に直接転移させたくはない。デュボア伯爵はリオとレオンに伯爵邸に往診して欲しいと言っているんだ。全く図々しい」


リュシアンは怒りが収まらない。


「お父さま、私は往診してもいいですよ」


とリオが言うと、レオンとリュシアンが同時に「駄目だ!」と叫ぶ。


レオンはリオの目を見つめながら「罠の可能性がある」と言う。


「罠で病気になりますか?」


とリオが抗弁すると、思いがけなくエディがレオンに同意した。


「リオ、あのイヴェットという女は最後まで貴女への敵意を捨てていなかったわ。舞踏会の時に、村長が言ってたじゃない?ポレモスの仲間が入りこんでるから気をつけろって。あの令嬢がリオに敵意を持っていたのを見て敵が近づいた可能性はあるわよ」


(なるほど・・・。でも、患者は患者だからなぁ)


レオンとリュシアンは心配そうにリオを見るし、今ではセリーヌも不安そうだ。


しかし・・・


「で、でも、やっぱり患者を放ってはおけません。特に感染症が拡大するのは何としても阻止しないと、下手したら国中に広がります」


というリオの正論には誰も反駁できないでいる。


しばらく考えた後、レオンが


「最大限の警備が条件だ。最大限の警備と完璧な殺菌消毒ができていなければ国家療法士は行かないと伯爵家に伝えてくれ」


とリュシアンに告げる。


「そうだな。加えて、こちらから直接イヴェット嬢の部屋に転移する。治療が終わったらすぐに転移して離れる。イヴェット嬢の部屋に入れるのは伯爵と伯爵夫人のみ。レオンは当然だが、私とパスカルとマルセル、イチとサンを護衛として連れて行く。これらの条件を全て満たさない限りリオは往診しない。それでどうだ?」


リュシアンの言葉にレオンや他の面々も頷いた。


(何とか話はまとまりそう・・なのかな?)


話が大事になってしまい内心動揺したが、どうやら往診できそうだとホッとした。イヴェットは好かないけど、感染症を広めたくはない。小さいうちに食い止めることが重要だ。


その数日後、リオはイヴェット嬢の部屋に転移して治療を施すことになった。


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