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サンの想い

歩きながらリオとサンは他愛のない話をしていた。


サンは相変わらず四十代美女の恰好をしている。


「今度の生誕祭、楽しみだね」


というと


「お前はノンキでいいよな。警備する方は大変なんだよ」


とサンに叱られた。冗談っぽくだけど。


「ご、ごめんね。私の我儘で・・」


と謝るとサンがリオの頭を撫でて「気にすんな」と言ってくれる。


サンは優しいんだか、意地悪なんだか分からない。


ふと前を見ると、カールの身代わりをして瀕死の怪我を負った影の人が立っていた。


名前も知らないけど何か言いたそうにしているので会釈すると、その人は嬉しそうに近づいてきてリオの手を握った。


瞬時にサンがその手を払う。


「何するのよ?!」

「警備上の理由だ」

「だって、味方でしょ?!」


というリオたちのやり取りを面白そうに見ていた元患者は


「馴れ馴れしくしてしまった私が悪かったのです。申し訳ありません」


と頭を下げた。


「先日は死ぬところを救って頂いて、ありがとうございました。あの状態から回復できるなんて奇跡です。そのお礼を言いたかったのです。軽々に手を握ってしまって、申し訳ありませんでした」


と礼儀正しく頭を下げる元患者に『サンとはエライ違いだわ』と思いながら、


「あ、あの・・そんな、どうかお気になさらないで下さい。療法士として当然のことをしただけですから」


とリオも頭を下げた。


何度も頭を下げて去っていく元患者を見送って、サンに文句を言ってやろうと振り返った途端に、サンに抱きしめられた。



耳元で


「・・レオン様はいいよ。俺も弁えてるから。でも、他の奴が近づくのは嫌だ」


と低い声で囁かれリオは瞬時に顔が紅潮しパニックになる。



(・・・・えぇぇぇぇぇぇぇ???)



「・・さ、サン。ど、どうしたの?何かあった?」



パッとリオから手を離したサンはいつもの調子で


「ば~か、なに本気にしてんの?うぶだね~」


と笑う。


しかし、部屋に着くまで二人の間にはずっとぎこちない沈黙が続いていた。



***



その日の夜、レオンが疲れた様子で部屋に戻ってきた。レオンは忙しくて夕食もとれなかったので部屋に軽い夜食を用意してもらう。


レオンは食べながらリュシアンたちとの話し合いについて教えてくれる。ポレモスに漏れたので公爵邸や療法所の警備を刷新することや、患者の身元確認の方法、「キャベツ」の合言葉を変えた方がいいんじゃないか等々、内容は多岐に渡っていた。


リオはレオンに食後のお茶を淹れ、隣に腰かけると、今日のサンの行動をちらっと相談してみる。


レオンは黙って話を聞いた後、片手で顔を覆って大きな溜息をついた。


「君は優しいが残酷だ」


というレオンの言葉にリオの胸が苦しくなった。


(やっぱり、サンは・・・。その・・私にちょっと気があるってことかな?それとも、やっぱり私は自意識過剰の痛い奴かな?)


レオンは苦しそうに言う。


「サンはリュシアンに辞職したいと申し出た」

「えっ!?でもサンは公爵家の大切な・・・」

「ああ、あれほど優秀な男はなかなかいない。リュシアンは必死に引き留めた」

「もしかして・・・私のせい・・・?」


レオンが黙って頷き、リオはズーンと落ち込んだ。


「いや、リオが悪いわけじゃない。サンが悪いわけでもない。影は普通の恋愛ができないことも理解している。ただ、気持ちの整理をつけたいらしい」

「気持ちの整理?」


レオンは深い溜息をついた。


「本人もプロ失格だと分かっている。でも、今度行われる生誕祭の舞踏会で、サンが君と一曲踊りたいそうだ。それで君への思いを断ち切ると約束した。・・・その、私とリオが結婚することを伝えた時にそう言われた」


(・・・え?私の居ないところで何の話をしているのだろう?)


レオンはなんともいえない表情をしている。


(・・・えーと、それは最後の思い出に、みたいな感じなのだろうか?)


戸惑っているとレオンがリオを膝の上に乗せる。


「君は本当に残酷だ」

「・・・ごめんなさい」

「いや、君は悪くない。すまない。私に余裕がないせいだ」


リオがシュンと萎れていると、レオンが優しく頭を撫でる。


「・・・私はどうしたらいいですか?」


レオンは長い溜息をついた。


「正直君が他の男と踊っているのを見るのは耐えがたい」


(・・そりゃそうだよね。私もレオン様が他の女性と踊っていたら嫌だ)


「だが、サンの気持ちは痛いほど分かる。彼は健気な男だ。私はサンを気に入っているし、信用に値する人間だと思っている。彼が思いを断ち切るというなら、間違いなくそうするだろう。公爵家だけでなく療法所にとっても無くてはならない人材だ」


リオはうんうんと頷く。レオンは片手で顔を隠して、焦燥感に悶えている。


「君がサンの褒め言葉に賛同するだけでも嫉妬で苦しくなってしまう。君がサンと踊っている姿を想像するだけで、血管が沸騰しそうなくらい嫉妬する」


『じゃあ、私はサンとは踊らない』と言おうとしたら、レオンがリオの唇を口づけで塞いだ。両手で後頭部を固定して口の中を容赦なく蹂躙する。ようやく解放された時にはリオの息はすっかり荒くなっていた。


(・・うぅ、すごい)


レオンの息も荒い。


(なんだこのお色気ムンムンは。色々な意味でけしからん)


現実逃避も兼ねてくだらないことを考えていると、レオンが思い切ったように


「一曲だけサンと踊ってくれ」


と言った。


リオは驚いて「え!?」と声に出してしまう。


レオンは苦しそうに


「自分がサンだったらと考えたら・・サンの気持ちを想像したら、彼の願いを無碍には断れない。私には辛いことだが、それで彼が気持ちに一区切り出来るなら、我慢しようと思う」


と言った。そしてリオを強く抱きしめる。


「ただ、どうか、少しでも心を動かされないで欲しい。私のところにちゃんと帰ってくると約束してくれるなら、の話だ」


「もちろん、私にはレオン様しかいませんから・・。だから、結婚するんですよ。でも、本当にいいんですか?」


レオンは「ちゃんと私の元に帰って来てくれると約束してくれるなら」と言って、再度蕩けるような口づけを始めた。


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