プロポーズ
公爵邸に戻ったリオたちは、いつもの面々に迎えられた。相当心配をかけていたらしい。村長に会ったことを伝えると一同愕然としていたが、取りあえず翌日話し合うことになり、その日の夜は解散した。
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レオンは二人きりになるとリオを後ろから強く抱きしめた。
耳元で「大丈夫か?」と囁く。
リオは何と答えていいか分からなかった。自分がクローンだと分かって、正直複雑な気持ちだが、フィオナの意識について心配する必要がなくなったことは安堵している。
一方で、ポレモスに命を狙われている事実は衝撃的だった。ただ、レオンとこうしていると緊張感が薄れて狙われている実感が湧かない。
正直に自分の気持ちを伝えると、レオンはリオを抱き上げてベッドに連れていく。
リオをそっとベッドに横たえたレオンは彼女の頬や額を愛おしそうに撫でる。
「君が悪漢に狙われるのは昔からだ。必ず君を守る。私の命に代えても」
レオンがリオの手を取り指に口づけをした。
それから少し気まずそうに言葉を続ける。
「クローンと君は言うが・・私は正直・・・ほっとした。もうフィオナの意識を捜す必要はない」
リオも小さく頷く。
「・・あんなに心配していて、私バカみたいですね」
「いや、それが君の優しさだ。村長もそんな君を気に入ったんだと思うよ」
「私、気に入られましたかね?」
「じゃなかったら、あの村長が生誕祭に来るなんて言わないだろう。あれは今日せっかくのお出かけを邪魔されたリオへの罪滅ぼしだと思うよ」
レオンがニヤッと笑った。
「生誕祭、楽しみです」
レオンの手をギュッと握って言う。
「舞踏会だからダンスも練習しないとな」
「えっ!お祭りみたいなものじゃないんですか?」
「庶民はお祭りだがな。貴族は一応国王主催の舞踏会に出席ということになると思うよ」
リオのテンションは下がった。
(貴族のお付き合いとかしたことないし、社交性ないし、コミュ障だし・・・)
レオンは苦笑いする。
「・・なんだ、知らなかったのか?」
「だって、マーケットの延長というか、お祭りみたいなものだと思ってました」
「まあ、舞踏会といってもカジュアルなものだ。形式ばったものではないし、リラックスして楽しめばいい。公爵家の養女とバレると多少面倒くさいこともあるかもしれないけどな」
(・・・うーん、益々面倒くさい。でも、公爵家の娘として、一度くらいは舞踏会を経験しておいた方が良いのかな)
「食べ物は美味いぞ。生誕祭独特の食べ物もあるしな」
というレオンの言葉で俄然乗り気になったリオ。
「わぁ、それは楽しみですね!」
瞳を輝かせるリオにレオンは笑いながら
「色気より食い気か?」
と揶揄って優しく口づけた。
その後、レオンは何か言いたそうにしながら躊躇っている。
「レオン様?どうしました?」
と尋ねるとレオンの顔が赤く染まった。耳まで赤い。
「・・・・君は、まだ・・その・・・・結婚とか考えられないかい?」
(え・・・!?結婚・・。そうか、確かフィオナの意識のことがはっきりするまでって言ってたよね)
リオにはレオンと一緒に過ごしてきた長い年月がある。この人しかいないという確信がある。愛し愛されているという自信もある。何があってもレオンが裏切ることはないと信じられる。
(大丈夫!もう私は迷わない)
昔に比べたら、ホント前向きに考えられるようになった。周囲の人々のおかげだ。
ちょっと照れくさかったけどリオはレオンの手を握って
「プロポーズしてくれますか?」
とお願いした。
レオンは真っ赤な顔を更に赤くして急いで立ち上がる。リオも身を起こしてベッドから立ち上がった。
レオンは跪いてリオの手を取る。
「私は生涯何があっても君一人を愛することを誓う。どうか私と結婚して欲しい」
リオは「はい、喜んで!」と勢いよく返事をした。
(あれ・・・?レオン様の満面の笑顔が突然ぼやけた、と思ったら、私は嬉しくて泣いてるんだ)




