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村長

その日、リオたちはシュヴァルツ大公国にほど近い道の駅に居た。


レオンは約束通り誕生日プレゼントとして、道の駅でのデートを実現してくれた。勿論二人きりではなく、サン、マルセルとパスカルが護衛で随行している。


この地域では最大の道の駅なので、建物周辺にマーケットのように多くのテントが並ぶ景色は壮観だ。驚くほど多くの人々で賑わう盛況な道の駅である。


にぎやかな場所に来るのは、ポワティエの七夕の時以来でリオは興奮していた。両脇のテントに並ぶ商品を眺めながらゆっくり歩いていく。


手作り石鹸、アクセサリー、野菜、肉、魚、チーズ、アップルパイなどなど様々な商品が並んでいる。色とりどりでとても華やかだ。香辛料を効かせたスープを売っているテントもあって、スパイスの香りが堪らない。その隣は山羊肉の串焼きで、その匂いもまた食欲をそそる。


小腹が空いたので何か食べようという話になったが、どれも美味しそうでなかなか選べない。


ふと見るとドーサが売られていた。ドーサはクレープ状の生地にふかして軽く潰したジャガイモを包み、各種ソースをつけて食べるものでリオの大好物だ。


ジャガイモはターメリックの色も鮮やかな黄色で、香辛料がたっぷりまぶしてある。


(ああ、美味しそう。匂いも堪らない・・・)


ただ、食べ歩きには向かない食事だと思っていたら、サンが空いているテーブルを見つけてきてくれた。食べたり休憩したりできるようテーブルとイスが沢山並べられている。


リオは早速ジャガイモ多めでドーサを購入。ソースはスパイス山盛りのカレー風味を選んだ。他の面々も好きなものを買ってテーブルで一緒に食べ始める。


みんなで談笑しながら食べると余計に美味しい。リオが幸せを実感していると


「そういえば、ずっとリオに聞こうと思っていたことがあるんだ」


とレオンが尋ねた。


「何ですか?」

「こないだ重症の影の治療をしていた時、突然『出てきたらダメ!戻りなさい』ってすごい勢いで言ってたよね?」


(・・恥ずかしい。あれを聞かれていたのか)


他の面々も興味深そうに聞いている。仕方なく患者の中から白い影が出てきて心拍が下がったので、これは危ないと思い、戻るように叱りつけたと説明した。


サンが呆れたように


「霊魂まで操れるようになったんだ。もう無敵じゃね?」


と言う。


「サンったら!別に操ってないわよ!」

「でも、リオには霊魂と意思疎通ができる才能があるってことよね。きゃー、素敵よ。ロマンチックだわぁ」


何故だか分からないがパスカルの言葉は場を和ませる。


「何故リオは霊魂と意思疎通が図れるんだろうな・・・?」


とレオンが意味深げに呟いた。


楽しく食べ終わった後、もう少しマーケットを回ってみようと相談していると、リオたちは異様な光景を目の当たりにしてしまった。


ものすごい背の高い男性がこちらに向かって歩いてくる。その男性は平凡な茶色い髪に茶色い瞳。服装も庶民の平凡なものだ。しかし、その完璧な美貌と周囲を圧倒するオーラが凄まじい。


周囲の人々が恐れおののいて勝手に道を開ける。モーゼってきっとこんな感じだったのだろう。それくらい彼の前にはひとりでに道が開けていく。


そして、彼はリオたちのテーブルの前で立ち止まった。


レオンと男性陣がリオを庇うように立ち上がる。


「何者だ?」


とレオンが問うと、その男性は何でもないように


「リオという娘に用がある」


と尋ねた。四人の男が威嚇しているのを全く意に介さない。


レオンはしばらくその男性を睨みつけていたが、ハッと何か気づいた様子でゆっくりと深くお辞儀をした。


「もしかしたら、村長でいらっしゃいますか?」


レオンの言葉に他の面々の顔が驚愕で固まる。


その男性は軽く目を瞠った。


「ほぉ、我を知るか」


慌ててリオたちも次々と礼をする。


(村長!?村長って!?)


リオは内心のパニックを抑えつけた。


気がつくと人々の注目を思いっきり集めており、周囲がざわつき始める。


「ここではゆっくり話せんな」


と村長が指一つ鳴らした瞬間、全員がどこかの家の中に移動していた。


**


リオが部屋の中をキョロキョロと見回すと、机の上にあるあまりに馴染み深いものに目が奪われた。そこには懐かしいiPadが置いてある。


ここが村長の家に違いない。リオたちは予期せずセイレーンの村に来てしまったのだ。


村長はもう変装を解いたらしい。銀髪に赤い瞳。圧倒的な存在感。世界のクリエイターというのも納得の迫力である。


「座れ」


と指示され、リオは重厚な木製の椅子に腰かけた。しかし、他の面々は立ったままだ。いいのかな?と思ったが、レオンが口パクで「大丈夫だ」と伝えてくれたので、大人しく座っていることにする。


部屋の扉は半開きになっていて、ドアの向こうにふと誰かの気配を感じた。そちらを伺うと、村長は眉を顰めて立ち上がりカチャンと扉を閉める。


「リオにどのような用事がおありなのでしょうか?」


レオンが村長に声をかけると、村長はゆっくりと話し出した。


「我はエラ・シュナイダーという女を見張っている。その女はある魔術師を使役しているが、魔術師は情報を売り、買主を利用する。我はその魔術師の動きを封じるために長年追ってきた」


「ポレモスという男ですね?」


というレオンの言葉に村長は目を瞠る。


「良く事情を知っているようだ。情報を共有してもらおう」


レオンが操られるようにこれまで起こった出来事を村長に話し出した


かなりの時間がかかったが、村長は興味深そうに聞いている。


「なるほど。役に立つ情報もあった。礼として、答えやすい質問から答えてやろう。リオ、フィオナの意識は存在しない。お前は堂々とその体を使えばよい」


リオは呆気にとられた。


(え、そんな簡単なことでいいの?私は結構悩んできたんだよ!)


レオンも軽くパニックになったようで、


「もっと詳しく説明してもらえないだろうか?」


とお願いする。


そして、村長の長い話が始まった。

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