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セリーヌの過去

リオはセリーヌと一緒に料理長自慢の朝食を堪能していた。朝から魔力を使ったせいかお腹が空いていてお代わりまでペロリと平らげた。


食後のお茶を飲みながら、セリーヌが魔人族と獣人族について解説してくれる。獣人族はフォンテーヌ北部とコズイレフ帝国の山岳地帯に住んでいることや、魔人族はシュヴァルツ大公国に住んでいることは知っている。しかし、詳細は分からないままなのだ。


セリーヌは丁寧に説明してくれた。


獣人とは動物と人間の特徴を併せ持ち、外見上も動物の特徴を残している。人間よりも遥かに高い身体能力を持ち、知的にも優れた種族だ。体格も人間より大きく頑丈だという。


主に農耕や狩猟で生計を立てている。生真面目な性質で家族愛が非常に強く、一度身内だと認めたものには誠実に接する。裏切ることはないが、真面目なだけに裏切られたり傷つけられたりした場合の恨みも忘れない。「獣人は恨みも恩も継承する」という言葉があるくらいだ。


フォンテーヌ王国では多くがブーニン地方で生活している。ブーニン地方の獣人族は主に人狼で、集団で行動することが多いらしい。


『永遠の女神』の中で、魔術師に操られてナオミを誘拐したのはブーニン地方の獣人だった。コズイレフ帝国では獣人差別が強いが、ブーニン地方では人間と獣人が比較的平穏に共存しているという。ボリスやスタニスラフのような領主が獣人と人間の宥和を計る政策を取ったおかげだという。


魔人はセイレーンと同様に謎が多い不可思議な種族だ。魔人族は魔王に仕える種族であり、いつか魔王が復活するのを待ち続けているという。魔王に忠誠を誓う刺青を全身に入れているそうだ。


魔王はシュヴァルツの奥深い森で眠っていると伝承されている。魔王を復活させるには非常に強い負の感情を餌にする必要があるらしい。人間の負の感情である憎悪や嫉妬などは魔王にとってのご馳走だという。しかし、現在まで魔王の復活を叶えるほどの大きな負の感情は蓄積されていない。おかげで、魔王はいまだ眠ったままだ。どうかそのまま眠っていて欲しい。


魔人は人間の強い負の感情を集めるため、様々な形で人間を誘惑し堕落させようとするらしい。何となく前世の悪魔を連想させる。


「お母さまは獣人や魔人に会ったことはありますか?」


「そうね、実は私、赤ん坊の時に親を殺されてフォンテーヌ国王に保護されたの。保護された場所がブーニン地方でね、獣人族のリーダーが私を助けてくれたそうよ。赤ん坊の私を国で保護してやって欲しいって、偶然ブーニン地方にいた前国王にお願いしたんだって。近くで男女のセイレーンの死体が見つかって、それが私の両親だったみたい」


セリーヌは普通の口調で言うが、内容の深刻さに申し訳ない気持ちになった。


「・・ごめんなさい。辛いことを言わせてしまって・・」


と言うとセリーヌは優しく微笑む。


「大丈夫よ。私は覚えていないし・・ね。親が殺されてしまったというのは悲しいけど・・。でも、縁って不思議なもので、私を保護した前国王がリュシアンのお父上だったのよ」


「そうだったんですね」


「まあ、その後も色々とあったけど、今は幸せだからね。そういう訳で、獣人族に会ったことはあるはずなんだけど、全く記憶には残っていないのよ。・・・嫌だ、リオ、そんな顔しないで」


リオは余程情けない顔をしていたのだろう。セリーヌはリオに駆け寄りギュッと抱きしめた。


セリーヌはリオを抱きしめたまま話し続ける。柔らかな声と感触が心地よい。


「この間スタニスラフの話をしたじゃない?スタニスラフ・ブーニン侯爵。スタニスラフの葬儀に参列するために国王はブーニン地方に来ていたのよ」


(スタニスラフ、最後まで人を助けて亡くなった・・・不遇な人生を送った聖人だ)


「その頃ちょうど帝国の間諜がブーニン地方に入りこんだという噂があって、それを調査する目的もあったらしいけど。帝国で賢帝が譲位した後、国際情勢が急に不安定になったの。とてもきな臭い時代だったわ」


(そうか、アレクセイとナオミは譲位した後、静かな余生を求めて姿を消したと言っていた)


「私も帝国の陰謀で送り込まれた赤ん坊ではないかって疑われてね。セイレーンだということはすぐにバレたしね。獣人のリーダーも厳しい取り調べを受けたらしいわ。でも、結局獣人は両親の殺害とは無関係だと判明したみたい。っていうのは、私の両親を殺したのは帝国側だという痕跡があった。だから、両親は帝国から逃れてきて、追っ手に殺されたんだろうという結論になったの」


(お母さまは何でもないことのように話すけど・・・)


リオが泣きそうな顔でセリーヌを見上げると額にチュッとキスをされた。


「私は前国王に保護されたけど、フォンテーヌでもセイレーンの赤ん坊を持て余していてね。数えきれないほど誘拐未遂事件があったし、はっきり言って私は厄介者だったわ。しかも、前国王は恐妻家でね。特にエラの母親だった正妃はこの赤ん坊が育ったら国王が自分のものにして若返りを企んでいるんじゃないかって疑って、大変だったらしいわよ」


(エラの母親・・・それだけで何だか強烈そうだ。・・ん?エラの母親が正妃だったということは・・)


「トリスタンとリュシアンの母親は側妃だったの。正妃とは正反対の明るい人でね。私も可愛がってもらったわ」


懐かしそうに遠くを見るセリーヌ。


「正妃の子供はエラだけだったので、結局トリスタンが王太子になったんだけど、嫌がらせや脅迫はすごかったわよ。暗殺未遂もしょっちゅうだったわ」


(そうか・・・。色々大変だったんだな)


「私は人目につかないように北の塔にずっと幽閉されていたの。身の回りの世話をする使用人以外誰にも会わずに生活していたわ。ところがある日三人の男の子がこっそり北の塔に忍び込んできたのよ」


セリーヌが悪戯っぽく笑う。


「それってもしかして・・・?」


「そうなの。リュシアンとトリスタンとレオン、当時はアレックスだったけど。例の三人組が現れてね。北の塔には幽霊が出るという噂があるから確かめに来たんだって」


(その頃からの付き合いなんだ。本当に幼馴染なんだな)


「まあ、その後も色々あったけど、今はリュシアンと一緒に居られて、アンドレも生まれて、あなたみたいな素敵な娘もできて、本当に幸せだわ。日々感謝しているの」


「私もこんなに幸せでいいのかなって思うくらい幸せです!こんな素晴らしい家族ができるなんて、私も毎日神様に感謝しています!」


と言いながらギューッとセリーヌを抱きしめる。二人で抱き合っていたら、ちょうどレオンとリュシアンが部屋に入ってきた。


二人は呆気にとられてリオたちの姿を見ていたが、足早にリオとセリーヌに近づくとそれぞれの番を腕に抱きしめる。


リュシアンは


「自分の娘に嫉妬するなんて莫迦げているが、どうしても君を独占したい気持ちを抑えきれないんだ」


と切実な声でセリーヌに訴える。


レオンは「右に同じ」とリオの耳元で囁く。


(私がレオン様の声に弱いのを分かっててやっているからね。もう!)


セリーヌはリュシアンの背中をポンポンと叩きながら、


「シュヴァルツの報告はどうだった?」


と尋ねた。


リュシアンはようやくセリーヌを離し、影の報告を聞かせてくれる。


カールに変装してシュナイダー伯爵邸に残った影は、本物のカールが出発した後すぐに捕まり拷問されたらしい。


伯爵邸の使用人とは思えない者たちだったが、エラ・シュナイダー伯爵夫人の権限で伯爵邸での狼藉を許されていると豪語していた。全員フード付きのマントを被っていたために顔は見えなかったという。


拷問中に詰問されたのは主に三つ。


1.カールを公爵邸に呼ぶ目的は何か?

2.セイレーンの村への行き方は?

3.リオという娘の正体は?


影はどれだけ痛めつけられても口を割らなかった。


(それであんなに瀕死になって・・。健気で泣けてくる)


拷問で主導権を握っていたのは「メフィスト」と呼ばれる男だった。影は奴らが魔人族ではないかと疑っているらしい。魔人族は全身に魔王への忠誠を示す刺青を入れている。袖がめくれた瞬間に、ちらっと腕に刺青が見えたのだという。


リオが前世で読んだ『ファウスト』に登場する悪魔の名前は「メフィストフェレス」だった。直感だけど、悪魔っぽい魔人族で当たりな気がするとリュシアンに伝える。


影の口が固いので、メフィストと言う男はかなり焦れていた。


『ポレモス様』が戻ってくるまでに役に立つ情報を掴まないと、と繰り返していたそうだ。


しかし、周囲の男たちは『ポレモス様』が公爵邸に侵入すれば情報は簡単に手に入ると余裕を見せていた。


あの堅固な屋敷に侵入できるはずないと影が反論したことがある。


「公爵邸は虫一匹通さない。『ポレモス』とやらが侵入しようとしても無駄だ」

「虫一匹通さなくても、アリ一匹くらいなら通すんじゃないか?」


男たちはそう言って大声で嗤った。しかし、彼らはすぐにメフィストに叱られて、蹴り飛ばされたそうだ。


その後、他の影たちが何とか彼を救出し、シュヴァルツを抜け出して公爵邸に辿り着くことができた。


帰還後、実際に公爵邸に侵入者(偽パスカル)がいて、しかも逃げられたと聞いて、驚愕したという。


『ポレモス』という謎の魔術師は、警備が堅牢な場所でも侵入することができる。そして、奴がエラの味方をしていることは間違いない。


「まったく厄介な敵だ」


とリュシアンがぼやいた。


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