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公爵家の影

翌日の早朝、慌ただしい動きを感じてリオとレオンは目を覚ました。部屋の外で誰かが走り回る音がする。


リオたちが慌てて身支度を整え扉の外に出ると、真っ蒼な顔の侍女が走ってくるところだった。


侍女に何が起こったのか尋ねると、転移の間に大勢の怪我人が現れたという。


リオはレオンと顔を見合わせて、転移の間へ走る。


転移の間には多くの怪我人が倒れていて、公爵家の使用人が忙しく手当てを施していた。十人以上はいるだろう。特に酷い重傷を負った怪我人が中心にいて、リュシアンとセリーヌが屈みこんで治癒魔法を施している。


リュシアンがリオたちに気づき「良かった。お前たちを呼びにやったんだ。この男の治療を頼みたい」と安堵したように息を吐いた。


リオは患者の容体を確かめるために、彼の傍に坐り込んで怪我の状態を確認する。手に殺菌魔法をかけると、ほわっと淡く光った。レオンは消毒液で手を殺菌している。本来は十分ではないけれど、治癒魔法は直接触れないからセーフにしよう。


怪我は酷い状態だった。多くの骨が折れていて、出血も多い。折れた骨が内臓を損傷している感触もあった。意識は完全に消失している。


リオは主に胸部と腹部の回復から治癒を始めることにしたが、患者の脈拍が弱くなってきていて気持ちが焦る。


レオンがリオを心配そうに見つめて「私は何をしたらいい?」と尋ねた。


(落着け!医者がパニックになるな!)


と自分に言い聞かせる。


「レオン様は腹部の回復をお願いしてもいいですか?私は心臓、肺から始めます。ただ、骨をまずつなぐ必要があるかもしれません」


レオンは「了解」と言って腹部の治癒を始めた。リオは心臓を回復させるイメージを描きながら魔法をかける。しかし、心拍がどんどん弱くなってきている。


(ダメだ・・・。間に合わないかも)


リオが絶望的な気持ちになった時、霊魂のルイーズと同じような真っ白い影が患者の体から出てきたのが見えた。


(これは患者の魂!?意識!?体から離れたらダメだって!)


リオは腹が立って、思わず


「出てきたらダメ!戻りなさい!」


とその白い霞に向かって強く命令した。


白い影は頭をポリポリ掻くと、仕方ないな~というように患者の体の中に戻っていった。


途端に心拍が強くなる。


(良し!)


リオは心臓と肺の機能回復のために魔法をかけ続けた。


ついでに骨も元の位置に戻す。幸い、心臓と肺は折れた骨で傷ついたりはしていないようだ。


(ただ血液が足りない。ここでは輸血もできないし、こればっかりはどうしようもない・・・・か?いや・・・)


だって、ルイーズを蘇らせた時に血液も造ったはずだ。


(えーっと、造血幹細胞。そうそう、骨髄の中で細胞分裂を行い、血球を作っているはず)


試しに骨髄の中に魔法の力を入れてみる。造血幹細胞が元気になりますように。いきなりだと負担が大きい気がするので、少しずつ少しずつ。いい感じかも。


しばらく様子を見よう。その間に患者の他の部分の修復を行う。


レオンが腹部は終わったと言っているので、今度は足をお願いした。自分は首・肩・腕だ。頭は外傷が少ないようだが念のため脳の中身を魔法で感じてみると、脳挫傷のような頭部外傷や脳損傷もない。良かった。後遺症が一番難しいところだから。


首、肩、腕の軟組織にも重度の裂傷や損傷があったので、治癒魔法で回復させる。この辺りはそんなに難しくない。


一番心配なのはやっぱり心臓だ。もう一度、心臓と血管の状態を確認すると、ほぼ完璧に回復していた。血流も良くなっている。造血幹細胞が頑張ってくれたんだ。偉いぞ。


最後は手の指を全て回復させると、レオンもちょうど足の回復を終えたところだった。


二人で顔を見合わせて、不安げに患者を見守る。


しばらくして、患者がピクリと動いた。


ゆっくり目を開くが、自分がどこにいるか分からないようだ。


リオが患者の顔を覗き込むと「天使・・・?」と言われた。はは。


視覚や呼吸の状態を確認し、聴覚にも問題がないことが分かった。


急に動かしてはいけないので、そのままじっとしているようお願いする。まず指の感覚があるか、足の感覚があるかなど、それぞれの感覚を確かめてもらう。異常はなさそうだ。


その後、ゆっくりと頭を動かしてもらった。大丈夫そうだな。


リオとレオンが支える中、患者がゆっくりと身を起こした。まだ状況が把握できないらしい。


「俺は死んだと思ったんだけど・・・」

「大丈夫。生きているわ!」


安心させるように患者の手を握ると、患者はリオの顔をみて頬を紅潮させた。


『あ、このパターンはレオン様を怒らせるかも』とレオンを見ると、案の定眉間に深い皺が寄っていた。慌てて手を離す。


「レオン様、私は他の患者を診てきますから、この患者さんをお願いします」


と言ってその場を離れた。今のはセーフだ。


レオンは苦笑いしながら、患者と会話を交わしている。


他に患者は・・と探すが、ほとんどの患者は手当が終わっている。やっぱり先刻の患者が一番重症だった。


セリーヌが近づいてきてリオの手をギュッと握る。


「リオ、あなたは本当にすごいわ。私とリュシアンで治癒魔法を使ったんだけど、もう手の施しようがなくて途方にくれていたのよ。リオとレオンが来てくれて本当に良かったわ」


セリーヌは、レオンに支えられながらも自力で立ち上がってリュシアンと話をしている元重症患者の姿を見て、また感動したようだ。


「彼は、カールの変装をしてシュヴァルツのシュナイダー伯爵邸に残っていた影なのよ。最初からバレていたみたいで、すぐに捕まって拷問されたらしいの」


リオは身震いする。「拷問」は世の中の嫌いなワードナンバーワンだ。


(気の毒に・・・。あんなひどい状態になるまで痛めつけられて・・・吐き気がするわ)


「伯爵邸に潜んでいた他の影がようやく彼を救出して、かろうじて戻ってくることが出来たのよ。全員傷だらけだったわ。私とリュシアンで何とか治癒したけど、念のためリオにも診てもらっていいかしら?私たちでは完璧ではないと思うし」


リュシアンとセリーヌの治癒魔法に問題あるはずないが、確認の診察は喜んでさせてもらうと伝えると、セリーヌは喜んで患者のところに連れていってくれた。


「すごいな・・傷が完全に消えた」

「痛みもない」

「奇跡だ。もう死ぬかと思ったのに・・」


全員、無事に回復して話し声や騒めきが大きくなる。


リュシアンが皆に向かって声をかけた。


「皆、良く戻ってきてくれた。危険な任務に取り組んでくれることをいつも感謝している。食事を用意したので、しっかり食べてゆっくり休養を取って欲しい。皆の体力が回復したら、シュヴァルツでの話を聞かせてくれ」


すると全員がいなと答えた。既に回復しているので早く報告したい。報告した後で休むという。一番重症だった人も熱心に訴えている。うん、公爵家全員ワーカホリック確定だ。


リュシアンとレオンが報告を受けることになり、リオとセリーヌは他の使用人たちと一緒にその場を離れた。


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