表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/136

偽のパスカル

(アベル!偽物のパスカル!?偽のパスカルがアベルを連れていった!? )


一瞬パニックになったがリオはすぐに立ち上がってドアを開けた。他の面々もリオに続く。


(パスカルはアベルをどこに連れて行った?)


誘拐が目的なら屋敷から外に出ようとするはずだとリオは転移の間を目指した。


転移の間に近づいていくとドタンバタンという大きな物音が聞こえる。


急いで転移の間の扉を開けると、二人のパスカルが床に転がって取っ組み合いをしていた。


どちらが本物か全く分からない。


リュシアンとレオンが二人を押さえつける。


二人は同時に全く同じ声と声量で


「「そいつが偽物よ!」」と叫んだ。


(・・・この展開は何かで読んだことがある。えーと、どうやって判別したんだっけ?覚えてない・・。記憶力の乏しさが悲しい。だって、どこからどう見ても、全く同じだ)


レオンとリュシアンがそれぞれ捕まえているパスカルの胸倉を掴んで「アベルはどこだ?」と脅しても、全く同じ反応をする。


「「知らないわ。あたしは縄で縛られて閉じ込められていたの。ようやく抜け出して転移の間に来たら、この男がアベルを捜していたの。転移しようにも出来なかったみたいよ」」


と互いを指さしながら言う。


(なるほど。通常は入ってくる侵入者への警戒は強いが、出ていく方に関しては脇の甘い貴族の屋敷が多い。出ていく分には転移の間から出ていけると思ったの・・・かな?随分読みが甘い・・)


それにしても二人のパスカルはどこからどう見ても、全く同じだった。外見だけではない。仕草も癖も動きもリオには全く判別がつかない。ハサミを握る薬指に出来ているタコすら同じ個所に同じように存在している。


これはアニーが騙されても無理はない。何者か知らないが、こんなに見事に他人に化けられるものなのか?


でも、それよりも今重要なのは、アベルだ。


「アベルを捜していた、ということはアベルを見失ったということだな」


とレオンはニヤリと笑う。押さえつけていたパスカルをカールに任せると、レオンは部屋全体に向かって声を張り上げた。


「アベル、出ておいで。もう大丈夫だ。良く頑張ったな。偉いぞ!」


とレオンが言うとすぐ傍にあった壁紙の模様が微妙に動いた。


壁紙の模様だと思っていたのはアベルだった。自分を周囲と同化させるカモフラージュの魔法を使ったらしい。


アベルはわぁーっと泣きながらレオンに抱きついた。


「良くやった。アベル。教えたことをちゃんと覚えていたんだな」


レオンがアベルの頭をくしゃくしゃに撫でると、アベルは涙でぐちゃぐちゃになった顔に得意げな笑みを浮かべた。


カールとルイーズは二人で寄り添って何か言いたげにアベルを見ているが、何も言葉が出てこないようだ。


アベルの無事を確認してリオはとにかく安堵した。女性陣は全員泣いている。


しかし、問題はパスカルだ。


どちらがパスカルなのか、いまだに全く区別がつかない。両方捕縛して尋問するしかないだろうが、その間に本物のパスカルも消耗してしまうだろう。


アニーにこっそりと耳打ちする。


「どっちが本物だと思う?」

「右です」

「理由は?」

「勘です」


それで十分だ。リオはブーツからオリハルコンを取り出して鞘を抜いた。白刃が淡く光る。一瞬左側のパスカルの目に怯えが走った。


リオは思い切って左側のパスカルの左肩を目掛けて切りつける・・フリをした。


すると左側のパスカルが咄嗟に左肩を庇う。その仕草はもはやパスカルのものではない。


偽物を取り押さえていたのはリュシアンだったので、彼に偽パスカルの左肩を見せるようにお願いする。リュシアンが肩を押さえつけてシャツを開けると、左肩に傷痕があった。間違いない。


アニーに「パスカルにこんな傷はあった?」と聞くと黙って首を横に振る。


リュシアンは「リオ、良くやった」と言い、偽パスカルを引っ張って護衛の騎士らと共に立ち去った。


パスカルが私に抱きついて


「さすが、リオだわ!絶対にあたしが本物だって気づいてくれると思ったのよん」


という。誤解を与えてはいけないので教えてくれたのはアニーだと言うと、パスカルが慌ててアニーに抱きつこうとする。が、素っ気なく袖にされた。


「どうせ、リオ様が一番でしょうよ」


と拗ねるアニー。焦るパスカル。二人の攻防戦は「いちゃいちゃしている」と同義で、リオたちは生温かい目で見守るほかなかった。


セリーヌが手をパンパンと叩く。


「アベルも無事だったことだし、今日は休みましょう。色々あったから皆疲れているでしょう?食事は各部屋に運ばせるから今日はゆっくり休養して頂戴」


その通りだ。リオの疲労は尋常ではなく限界に近い。魔力をくれた他のみんなも疲れているに違いない。


全員が大人しく自室に戻り、休養することにした。


レオンだけは気になることがあるからと一人部屋から出て行った。出ていく直前に「あまりに呆気なさすぎる・・・」と独り言のように呟いたのが聞こえた。



***



アベルはレオンに置いていかれて心細そうだったのでリオはしゃがんで視線を合わせる。


アベルに「どうしたい?」と尋ねるとリオたちと一緒に居たいと答えた。なので、カールとルイーズの許可を貰って、今夜はリオたちの部屋に泊まってもらうことにする。カールとルイーズは寂しそうだったけど、いきなりアベルに「パパとママよ」と名乗る訳にもいかない。今後どうするかリュシアンたちと相談して決めるそうだ。


孤児院には外泊の伝言を送ってもらうよう手配した。


アベルは公爵邸での初めてのお泊りで興奮していたが、遅い昼食を食べたら眠くなったようでウトウトしている。


(そりゃ疲れたよね・・。アベル、よく頑張った)


リオも眠かったので、二人でがっつり昼寝してしまった。


その間、レオンはリュシアンたちとしっかり働いていたらしい。申し訳ないっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ