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計画

その日の夜レオンはリオの髪の毛を弄びながら


「大丈夫か?」


と心配そうに尋ねてきた。


リオはレオンの腕の中が気持ち良過ぎてウトウトしているところだった。


「何が・・?」

「いや・・・神の力とか言われて、怖がっていないか心配だったんだ」


(ああ・・・私はやっぱり鈍感で図太いのかしら・・)


「うん・・・でも『神の力を使うな』って言われたら悩んだろうけど『使え』って言われたんなら、治療の時に遠慮せずに何でも思い切ってできるってことよね?患者の役に立つんだったら、どんな力でも歓迎するよ」


レオンは面白そうにリオの顔を覗き込む。


「リオはいつも斬新だな。思いがけない答えが返ってくる。安心したよ」


「でもね、それはレオン様が傍にいてくれるからなの。私はレオン様に対して恥ずかしくない人間でいたい。レオン様のおかげで私利私欲に走らずに正しく力を使えるって自信が持てるの。だから・・・全部レオン様のおかげなんだよ」


眠いので半分寝言みたいに呟くと、レオンは「くぅぅぅ、可愛すぎる」と唸りながらリオをそっと抱きしめて額に口づける。リオはそのまま眠りに落ちた。



*****



しばらくは何の動きもなかった。エラの周辺を探っている影たちも魔術師についての情報を得られない。腕利きの影たちの苛立ちがリュシアンにもうつっているのかもしれない。リュシアンも最近は始終イライラしている。


そんな中、エディが単身帝国を出発しフォンテーヌのシモン公爵邸へ向かっているという手紙がジョルジュから届いた。


エラに怪しまれる動きは一切避けた方が良いと、エディは警護や馬車などを全て断ったそうだ。慣れているから、と結局一人旅でこちらにやって来るらしい。


アンドレは発狂しそうなくらい心配したが、エディが頑として説得を受け入れなかったという。


アンドレは「自分も付いていく」と主張したそうだが、帝国での駐在大使は人質の意味もある。勝手に国を出るわけにいかないとジョルジュに諭され泣く泣く諦めたらしい。


リオとレオンは相変わらず療法所で忙しい日々を送っているが、エディが到着したらすぐに連絡がくることになっている。


また療法所の警備が強化されることになり、マルセルに加えてパスカルも住み込みで警備をしてくれることになった。


最初リオは「え!?パスカルが?」と驚いた。


(ごめん。悪気はないんだ。でも、決して強そうに見えないし、美容師だし・・・)


マルセルが笑いながらしてくれた説明によるとパスカルは元々シモン公爵領騎士団の副団長を務めていたらしい。ひょろ長く見えるけど、実は物凄く強いのだそうだ。


途中で美容の夢に目覚めキャリアを転向したが、今回は療法所の警備強化ということで自ら立候補してくれたという。


(アニーとも一緒に居られるしね。へへ)


恋バナ好きなリオはニヤニヤしてしまう。


部屋割りを考えていたのだが、同室でいいとマルセルが既にベッドを部屋に持ち込んでいた。


「広すぎて落ち着かなかったし、兄弟水入らずで過ごしたい」と言われたら反駁しにくい。


レオンも「あの兄弟は本当に仲がいいから大丈夫」というのでリオもしぶしぶ納得した。


**


最近アベルは見習いとして療法所に通うようになった。レオンも楽しそうにあれこれ教えている。医学や治癒魔法だけではなく、身を守る防御魔法も教えているらしい。


パスカルが毎日孤児院への送り迎えをしてくれる。アベルもいつか国家療法士になりたいという。目をキラキラさせて語るアベルにリオの胸が熱くなった。どんな協力でもするからね!と拳を握りしめる。


レオンがアベルに頼んだのは、薬草を写生して、その効能や調薬方法をまとめることだ。いつか本として出版したいと言っている。レオンとマルセルは、これまで新しい薬草の効能を沢山発見してきたので良い機会だそうだ。アベルは絵が上手いだけでなく文字も綺麗で、文章を書かせても才能があるとレオンが太鼓判を押した。


療法所に来るとアベルは調剤室にこもって、マルセルと薬草の話で盛り上がっている。マルセルもいつか本物の調薬師になることが夢だ。パスカルも仲間になって調剤室から楽しそうな笑い声が聞こえてくるようになった。


リオは診療が忙しくてほとんど調剤室に行けないが、たまに見かけるアベルの笑顔に曇りがなくて嬉しくなる。


ただ、アベルの肩の辺りにたまに白い霞っぽいのが見えるのが気にかかる。レオンに言ってみたが彼には何も見えないそうだ。


(私の気のせい?目のカスミ?疲れ?・・・もう年なのかな?)


レオンはリオが働きすぎだと診療時間を短縮しようとしたので慌てて止めた。働きすぎってことは絶対にない。前世の当直と呼び出しばかりの不規則勤務を考えたら、とても健康的な生活をさせてもらっていると思う。


アベルの白い霞が気になるのは、たまに・・・本当にたま―――になんだけど、その白い霞が人の顔っぽく見えるのだ。お化けや幽霊やオカルトは信じていないが、前世でテレビの心霊特集を観て怖くて夜眠れなくなったことがある。実はリオは怖がりなのである。


(アベルが霊に憑かれているとか?!あり得ないと分かっているけど、たまにちょっとだけ怖い気がしないでもない・・・)


少し恥ずかしかったがレオンに相談してみた。バカにされるかもと思ったけど、レオンは笑ったりしなかった。真面目に話を聞いて何か考え込んでいる。


「この世界でも幽霊や霊魂の話はある」


驚いたリオを見てレオンは苦笑いしながらリオの頭を撫でる。


「私は一度も遭遇したことがない。だが、それが存在しない根拠にはならないと思う。怖い時はいつでも私のところにおいで。それから、何か変わったことがあったらすぐに伝えるんだよ」


(レオンさま、優しい!)


思わずレオンに抱きつき逞しい胸に顔を埋める。レオンは嬉しそうにリオを抱きしめて、頭にキスをした。



*****



ついにエディが公爵邸に辿り着いた。


疲労が激しいので、しばらく休養させると言われたが、リオはサンに好評だったマッサージ魔法を試したい。ダメモトで聞いてみたらエディもお願いしたいと言ってくれたらしい。


なので、診療が終わった後にリオとレオンはシモン公爵邸に転移した。勝手知ったるアニーがエディの部屋に案内してくれる。エディは疲労困憊してベッドに横たわっていた。


恥ずかしそうに


「こんな格好でごめんなさい」


と顔を赤らめて言う姿が超絶可愛らしい。


(107歳?!これで?!)


改めてセイレーンの凄さを実感する。


「あ、あの、は、初めまして。あの、リオと申します。えと、お会いできて嬉しいです。今日は療法士として来ましたので、どうか気を楽にして下さいね」


とニッコリ微笑んだ。


エディは呆けたようにリオを見て、


「アンドレの描いた絵も可愛かったけど、実物はもっと可愛いのね。本当に村で会った少女に瓜二つだわ・・・」


リオは何とも言いようがなく苦笑する。


「どうかうつ伏せになって気を楽にして下さい。マッサージ魔法を掛けさせてもらいます。サンからも好評だったんですよ」


エディの顔がぱっと輝いた。


「良かった。サンも無事に到着したのね。色々無茶をしそうで心配だったのよ」

「ごもっとも」


と真面目くさってリオが言うと二人で顔を見合わせて、うふふと笑いあった。


うつ伏せになったエディの体に薄い布を掛けて触診する。やっぱり体のあちこちが緊張しているのが分かる。首、肩、背中はもうゴリゴリだ。エディもずっと緊張していたのだろう。


サンの時と同様に筋繊維を意識しながら少しずつ魔法で圧力を加えていく。緊張を解すように少しずつ筋肉をマッサージすると


「あああんっ、気持ちいいっ」


とエディが呻く。


ちょっと胸をドキドキさせながらマッサージを続けていると、数分でエディは大きな寝息を立て始めた。体もほぐれたようなので、そのままそっと部屋を出るとレオンとアニーが立っていた。


「待っていてくれたの?ありがとう」


というとアニーが笑顔でお気になさらずと言い、レオンは笑顔でリオの頭をくしゃくしゃと撫でる。


せっかく来たので、リオたちはリュシアンとセリーヌと夕食を共にすることになった。四人で食卓を囲む。


相変わらず魔術師に関しては何の情報もないらしい。リュシアンは「こんなこと初めてだ」とイライラしている。


セリーヌがまあまあと宥めると、リュシアンが「ん・・」と甘えながらセリーヌに寄り添い、彼女の肩に頭を寄せる。リュシアンの頭を撫でながらセリーヌが今後の予定を教えてくれた。


「例の生誕六十周年の舞踏会にはアンドレも招待されているらしいわ。アンドレの情報だとエラとエレオノーラは確実に出席するそうよ。来賓として一週間くらい帝国に滞在する予定ですって。その間はギッチリと関連行事が入っているから抜けるのは難しいだろうって手紙に書いてあったわ。だから、舞踏会の日に合わせてカールとアベルをここに呼ぼうと思っているの」


リオはうんうんと頷く。


「ただね・・・」


とセリーヌが暗い顔をする。


「エディがね・・・。どうしてもカールに会わせる顔がないというのよ」


(あぁ、そうか、孫のカールを捨てて家を出たんだもんね。気持ちは分かるけど・・・)


「カール様はエディ様と会いたがっていらっしゃるのですか?」


リオが尋ねるとリュシアンとセリーヌは苦渋の表情で顔を見合わせた。


「・・・カールは、ルイーズを失ってから人としての感情を完全に無くしてしまったわ。正直言うと、子供の頃、祖母に捨てられたとか、全く関心がないと思う。エディのことを伝えても無表情だったそうよ。ただね、密使がアベルのことを話したら表情が動いたって。会えるなら会ってみたいと言ったそうなの」


(・・・そうなんだ。胸が痛い)


セリーヌからようやく離れたリュシアンが話を引き継ぐ。


「だから、舞踏会の日に到着するようにカールを呼び寄せる。国境には幾重もの結界が張られているから、直接シュヴァルツから転移は無理だ。国境を越えた後、この屋敷に転移できるよう調整するつもりだ」


「転移の許可を与えても登録された人間と一緒でないと公爵邸に直接転移できないだろう?」


ずっと黙っていたレオンが口を開く。


公爵邸には転移の間がありリュシアンが認めた人間はそこに転移できるよう登録されている。リオとレオンも登録されている。しかし、今回のカールのようにリュシアンが一回きりの転移の許可を出しても、単独では転移できないようになっているのだ。誰か登録されている人間が一緒に転移する必要がある。


リュシアンは頷いた。


「そうだ。だから、パスカルに行ってもらう。カールが国境を越えるまでは影が付き添い、国境を越えたところでパスカルと合流し、一緒に公爵邸に転移してもらうようにすればいい」

「なるほど。エラの間諜にバレずに可能だと思うか?」


リュシアンは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「影の一人がカールに変装して屋敷に残る。あとは運を天にまかせるしかない。正直、危険がないとは言えないが、この機会を逃したらカールは、エラが死ぬまでエディやアベルとは会えないだろう」


レオンも渋い顔をして


「憎まれっ子世にはばかるというしな。あと数十年は余裕で長生きしそうな気がする・・・」


と呟いた。


「アベルは可愛い盛りよ。子供の幼い時期を見逃すのは親として辛いわ。リスクを恐れていたら何もできなくなってしまうんじゃないかしら」


というセリーヌの言葉でレオンも納得したらしい。


リオは漠然と不安を感じたが、何も言えなかった。


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