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七夕

シモン国家療法所の評判は高まり、患者の数は増え続けていた。その日も患者が多く、全ての診療が終わったのは八時過ぎだった。アニーも疲れているだろうから、すぐに公爵邸に帰るように指示を出す。アニーは何だかんだ抵抗していたが、最終的に陥落した。


レオンに「早くリオと二人きりになりたいんだ」と甘い声で言われたら抵抗できないだろう。アニーは真っ赤な顔をして、「わ、わかりました!ではまた明日」と帰っていった。


ジャンが作っておいてくれた夕食を魔法で温めている間に、レオンがカチャカチャとカトラリーをテーブルにセットする。二人で美味しい夕食を取りながら、その日の仕事の話なんかをしている時間が心満たされるひとときだ。


ふと壁にかかっているリオとレオンのスケジュール表が目に入る。リオのアイデアでお互いのスケジュールを把握するために作ったのだ。


(私は基本、療法所から出ないけど、レオン様は何だかんだと王宮に呼ばれたり、お父さまと打ち合わせをしたり忙しいからね。あ・・・・そういえば、もうすぐレオン様の誕生日だ)


レオンの誕生日は七月八日だ。もう年を数える気にならないとぼやいていたけど、リオはやはり何かお祝いしたい。


「レオン様、もうすぐお誕生日ですよね。何か欲しいものはありますか?」

「私が欲しいのはリオだけだよ」


長い前髪の隙間から金色の瞳が覗くと、リオはその色気にあてられて動悸が激しくなる。


(ああ!この人の甘々な色気ときたら・・・ドキドキが止まらない)


「去年もそう言いましたよね?でも、私はレオン様のために何かしたいんですけど・・」

「うーん、じゃあ今年は七月八日が月曜日だから、前日の日曜日を丸一日私にくれないか?連れて行きたいところがあるんだ」


(デートだ!二人っきりで?!)


期待に満ちたリオの目を見てレオンは苦笑する。


「さすがに二人きりは無理だな。マルセルとサンはついてくるけど、少し離れるように指示するから」


(まあ、そうだよね。なんか私、狙われやすいみたいだし。攻撃能力ゼロなので、自分の身も守れないし・・・)


「リオはまだポワティエの街にも行ったことがないだろう?その週末はポワティエでマーケットが出るんだ。毎年恒例のお祭りがあってね。木に願い事を書いた紙を飾るとその願いが叶うっていう風習があるんだ。リオはそういうの好きじゃないか?」


レオンは若干照れながら話す。でも、リオはそれどころではなく軽いパニック状態に陥っていた。


(え、え、それって・・・?もしかしなくても七夕みたいじゃない?)


「そのお祭りは毎年七月七日前後なんですか?」


「そうだな。大体そのあたりの週末に開催されている。前にも話したかもしれないけど、コズイレフ帝国にかつて賢妃と呼ばれる皇妃が居てね。彼女が始めた風習が広まったらしいよ。彼女は民衆からの人気が物凄く高かったから、人々が真似をしたんだろうね。帝国だけでなく他の国にもあっという間に広まったそうだ。何でも一年に一度、夜空にかかる天の川を渡って愛する人に会いに行くというロマンチックな伝説がある。私は一年に一度だけなんて耐えられないけどね」


レオンは悪戯っぽく微笑みながらリオの頬を軽く撫でる。


リオは驚きで目がまん丸になっていた。


(なんで前世日本の風習がここで広まっているんだ?!賢妃って・・この世界でメートルとかキログラムとかセンチメートルも作ったんだよね?どう考えても日本を知っている人としか思えないんだけど・・・)


リオは慌てて日本の七夕を説明する。


「レオン様。七夕といい度量衡といい・・・賢妃は日本から来た人か日本の記憶がある転生者じゃないかと思うんですが・・・」


レオンは顎を撫でながら深く考え込む。眉間の皺が深い。


「リオはまだ前世の記憶のことをセリーヌやリュシアンに告白するのが怖いかい?」


唐突に話が変わって戸惑いながらも考える。


リュシアンとセリーヌは心から信頼できる人たちだ。二人とも心からリオを尊重し愛してくれている。アベルの件にしてもそうだ。リュシアンとセリーヌは愛情深い。何か理由があるから愛してくれるのではなくて、ただ「リオ」という存在を愛してくれていると自信を持てるようになった。


「レオン様、今なら告白できると思う。前世のことも、自分の中にフィオナの意識がないことも・・多分、そのせいで私を嫌いになるような方たちじゃないって信じられるから・・」


レオンは嬉しそうに頷いた。


「良かった。勿論、私だけの秘密にしておきたいという気持ちもあるんだけどね。この状況だと彼らにも知らせた方がいいと思う」


『そうなんだ。七夕と何か関係があるのかな?』と首を傾げているとレオンが可笑しそうに笑う。


「君は本当に可愛い。早く君を抱きしめたいよ」


またまた顔が赤くなるようなことを平然というレオン。


「何故セリーヌたちに話した方がいいかというとね、私たちが学生の頃、セリーヌが突然授業中に倒れたことがあったんだ」


(え?何の話?)


唐突な話の展開にリオの理解がなかなか追いつかない。


レオンは苦笑しながら続ける。


「世界史の授業だった。ちょうどコズイレフ帝国の歴史について学んでいるところでね。帝国では昔クーデタが起こったことがある。皇弟らと有力貴族が反乱を起こし、当時の皇帝と皇后を殺害したんだ。珍しいことだが、当時の皇帝の妻は皇后一人だけでね。二人には娘が一人いた。皇女エデルガルトは当時大使としてコズイレフ帝国に赴任していたクリストフ・シュナイダー伯爵に救出されて、シュヴァルツ大公国に亡命した」


(あれあれ?聞いたことがある名前がでてきた。クリストフ・シュナイダー伯爵って、アベルのお父さんのカール・シュナイダー伯爵の親戚かなにか?どうしてだろう?『クリストフ・シュナイダー』っていう名前もどこかで聞いたことがある。しかもエデルガルトってつい最近聞いたよね・・どこで聞いたんだっけ???えーっと・・もうボケたのかな・・?思い出せない・・)


リオが必死に記憶を辿っているとレオンが助け舟を出してくれた。


「アベルの話をした時に、カールの母方の祖母がエデルガルトって言ってたよね。覚えているかい?」


(ああ、そうだ!アベルのお父さんがカール。カールのお祖母さんがエデルガルド。えっとエデルガルトはハーフのセイレーンって言ってなかったけ・・・・?!ということは・・・!?)


レオンが深く頷く。


「そうだ。殺害された皇妃マレードは純血種のセイレーンだった、と思う。皇帝ピョートルは前皇帝の息子だったから純血種のセイレーンではあり得ない。もちろん、公式な歴史には記されていないけどね」


「純血種のセイレーン・・・皇帝の妃が?つまり、皇帝も皇妃も不老不死だった、ということでしょうか?」


「ああ、もしかしたらそれに絶望して皇弟たちはクーデタを引き起こしたのかもしれない。歴史には書かれていないけどね」


「えっと、それで授業中に何があったんですか?」


「セリーヌが突然悲鳴をあげて倒れたんだ。リュシアンがセリーヌを抱きかかえて医務室に連れて行った。私は彼女が心配でね。授業の後に医務室に行ったんだ。そこで偶然二人の会話が聞こえてしまって・・・盗み聞きするつもりはなかったんだよ!本当にたまたま聞こえてきたんだ」


言い訳がましいレオンだが『大丈夫、信じるよ』と笑顔を向けると、レオンはホッとしたように話を続けた。


「セリーヌは、あの歴史は違うと言っていた。クーデタの裏には深い陰謀があって世界が崩壊するところだった。そして、世界の崩壊を救ったのは、別な世界から来た人物だったと・・・」


(別な世界から来た人物・・・?!それって・・・・もしかして日本から?)


「そのクーデタ直後に皇帝と皇妃になったのが、賢帝と賢妃なんだよ」


リオは言葉を失った。


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