神様
その日の夜、夕食を済ませるとリオはレオンに教会で見た絵画について聞いてみた。
「あの・・絵画に描かれていた瞳の赤い人物がこの世界の神様ですか?」
「そうだ。他の教会でも同じように描かれている。クリエイター(創造者)と呼ばれているんだ」
前世のキリスト教と同じだ。
「セイレーンと同じ目の色でしたよね・・・?」
レオンは難しい表情を浮かべる。眉間の皺が若干深くなった。
「クリエイターは銀色の髪に赤い瞳。背中には三対、合計六枚の翼を広げ、地上に降り立ったと言われている」
(すごいな・・。前世のキリスト教の天使みたいだ)
「リオのいた世界にも神は存在したのか?」
「そうですね。日本は多神教の国で、八百万の神がいると言われてました。天地開闢で多くの神が生まれたとか・・。外国にも多くの宗教がありました。有名なのはキリスト教とかイスラム教とか・・。例えば、キリスト教には唯一絶対の神様がいました。外国の言葉でもキリスト教の神様のことをThe Creatorって言っていたと思います」
英語だと『唯一絶対の創造主』の意味を込めて、定冠詞を付けてCを大文字にしなきゃいけないって習ったな。
「唯一絶対・・。クリエイターはそれに近いな。クリエイターはこの世界の全てを文字通り創造したんだ。人間も動物も植物も全て」
「ああ、それじゃあやっぱりキリスト教とかに近いですね。キリスト教では最初の人間のアダムは神が造ったんです。それ以外も全て神が創造したとされていました」
「私はセリーヌを知っていたから、外見の描写がセイレーンに似ているという知識はあった。普通の人にはセイレーンの髪や目の色は知らされていない。教会側も機密扱いで高位の聖職者しか知らないはずだ」
(え、そうなんだ!結構有名なのかと思ってた)
レオンは苦笑しながら続ける。
「まあ、知っている人は知っている事実だけどね。古い文献でいくらでも調べられる。ただ、教会としては一般の人に知られたくないだろうね。セイレーンが神様扱いされるようになったら教会の権威に傷がつくと考える人もいる。」
(まあ、確かに・・)
「古い文献の中にはセイレーンが神を模して造られた種族だと書かれているものもある」
「神を模して・・・?」
「神に会って会話をしたことがある人間の記録もあってね。非常に興味深い」
「神様に会えるんですか?」
(神様は架空の存在か、実在するとしても天空かどこかに住んでいるんだと思ってたわ・・)
「ああ、神は実在する、と言われている。ただ、フォンテーヌ王国ではない。滅多にないがコズイレフ帝国には出没する可能性があるようだ」
「出没する・・神様が?」
(ポ〇モンGOのレアキャラみたいな言い方だな)
「それから古い文献にはクリエイターが複数の世界を作ったと書かれている」
「複数の世界?」
「私は比較実験のようなものだと理解している。文献にそうとは書いてなかったけどな」
(神が複数の世界を造って、それぞれを比較して実験するの?ランダム化比較試験みたいに?ナニソレ?怖っ!)
「何万年後かに実験結果がどうなったかを確かめに帰ってくるとも記されていたな」
(なんだそれ!?実験結果って何?)
「えっと、つまり私が住んでいた世界も、この世界も全部クリエイターが創ったものだということ・・・ですか?」
レオンは真剣な顔で頷いた。
(ということは・・・複数の世界を創ったんだったら、それぞれの世界への行き来なんかもお手のものだよね?)
「セイレーンは別な世界への行き方を知っているかもしれないと言っただろう?」
レオンはカッコよくウィンクした。