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教会

リュシアンとセリーヌに依頼されて孤児院での健康診断の日程が決まった。リオは王都でも出歩かず、この町でも療法所に引きこもっているので外に出る機会がほとんどない。初めて外を歩いて孤児院まで行くと聞いて、興奮して前の晩は眠れなかった。


リオの周囲をレオン、マルセル、サンが取り囲むように歩く。


(わぁ、やっぱり外出は気持ちいいなぁ。お天気も良くて最高。でも、色んなところから視線を感じる。レオン様もマルセルも美形だし、サンも美魔女なので目立つんだろうな~)


リオが一番視線を集めているという自覚はまったくない。


町を歩いているとたまに患者から声を掛けられる。しかし、レオンは簡単に挨拶をするだけで、そのままスタスタ歩き続けた。歩くのを止めないので立ち話には発展しない。


途中、サンが小声で「エミリーのパン屋はあそこだよ」と指さしてくれた。


通りの角に小さな看板が出ていて、中にたくさん客がいる。『行ってみたいな・・』と思っているとレオンが「帰りに寄ってみるかい?」と聞いてくれる。


「いいんですか?」


リオの満面の笑顔は危険である。周囲がザワッとして視線がリオに集中した。『何だろう?そんな変な顔したかしら?』と思っていると、レオンがリオを抱きかかえて走り出した。サンもマルセルもその後に続く。


サンが呆れたように「無防備過ぎじゃね?」と呟いた。


全速力で走る男たち。あっという間に教会 兼 孤児院に到着したが、三人とも平然としていて息も切れていない。


リオを降ろすとレオンが裏手にある扉をノックする。しばらく待っていると年配のシスターがドアを開けて顔を出した。


「まあまあ、リュシアン様のお嬢様ですね。評判は聞いておりますよ。ご主人も国家療法士でいらして、お二人とも名医だと伺っています。わざわざ良くお越し下さいました。子供たちの健康診断をして下さるとか。本当にありがとうございます」


「お招き頂きまして誠にありがとうございます。リオ・シュミットと申します。こちらが夫のレオンハルト、それにマルセルにサンです」


リオは丁寧にお辞儀をしながら皆を紹介した。シスターも目を細めてお辞儀をする。


「所作も何もかもお綺麗でさすがですわ。どうか中にお入りください。私は孤児院の院長をしておりますグレイスと申します」


院長の後をゾロゾロとついて歩く。最初に教会内部を案内された。前世で見たことがあるゴシック建築に似た様式だ。それほど大きくはないけれど、壮麗な装飾が施されている。


祭壇の中心に前世のキリスト像を思わせる彫像があった。完璧な美貌とはこのような顔を言うのだろう。中性的な美貌に理想的な体形。背中には三対の翼が羽ばたいている。煌びやかでつい目を奪われた。きっとこの世界の神様に違いない。


左手に大きな絵画が飾られていて、そこにも同じ神様が描かれている。しかし、その神様を見て一瞬思考が止まった。彫像は色がないので分からなかったが神様の目は明らかに赤い。そして、髪は色あせて灰色っぽいけど銀色といってもおかしくない色に描かれていた。


レオンが「後で話そう」と耳元で囁く。レオンは当然この世界の神様を知っていたはずだ。リオは教会に来たことがなかったので知らなかったけど・・。


落ち着かない気持ちのまま教会の歴史に関する院長の説明を聞くが、なかなか頭に入ってこない。


教会の案内が終わり、院長は子供たちが待つ孤児院に連れて行ってくれた。


並んで待っている子供たちを見たら、ようやく気持ちが切り替えられた。年齢は四歳くらいから十五歳くらいまで結構幅がある。十五歳前後の女子が多いが、同年代の男子は一人もいない。小さな子たちは男女半々くらいだった。


代表の男の子と女の子が小さな花束を差し出してくれた。リオはしゃがんで二人と視線を合わせると、笑顔でそれを受け取った。


「ありがとう。とても素敵なお花ね」


二人は真っ赤になってもじもじと俯いた。指でシャツの端を弄ぶ。


「ほら、ちゃんと挨拶なさい」


と後ろに立っていた女の子が優しく二人の背中を押す。


「あ、あの、きょうは、きて、くださって、ありがとうございます!」


男の子が大きな声で叫ぶと隣の女の子が耳を塞いで


「うるさいよ~」と文句を言う。


リオはクスクスと笑ってしまう。


(可愛いなぁ。六歳くらいかな?)


「ありがとう。挨拶もちゃんと練習したのね。とても良くできていたわ。二人ともありがとう」


と二人の額にちゅっとキスをした。


すると後ろの子供たちが「なんだよ―――」「ずり――」と叫びだした。


リオが慌てて立ち上がると、隣にいたレオンがため息をついて片手で顔を覆い、後ろに立っていたサンが「だからお前は考え無しなんだ」とリオの背中を軽く小突いた。


騒ぎ出した子供たちを院長が宥めて、ようやく落ち着いた雰囲気になる。代表の子供二人は他の子たちに触られないように額を手で隠している。なんて可愛いんだ。


何なら他の子にもちゅってしてもいいのよと言おうとしたら、レオンから絶対零度の冷たい視線を向けられた。


(はい、すみません。何も言いません)


マルセルもサンも苦笑して残念な子を見るような視線をリオに向けた。


(はい、すみません。反省しています)


リオは何も言わず笑って誤魔化した。


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