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孤児院

シモン国家療法所の患者はどんどん増え始めた。評判を聞いて、近隣の町から来る患者も多い。リオとレオンの生活は多忙を極めるようになった。


忙しいが毎日充実している。アニーもサンも楽しそうだ。イチは警備の要で、たまに不審者を捕まえてくるらしい。リオには知らせずにレオンが片付けてしまうので、後でサンから聞くことが多い。「イチがいればここは安全だな」とレオンが言っていたくらいだ。優秀なイチにお礼を言いたいけど、残念ながらほとんど会う機会がない。


護衛騎士のマルセルは休みの日に山ほど薬草を採ってきてくれる。休憩時間に調薬もやってくれるので大助かりだ。「休憩時間にやらなくてもいいのよ」と言っても「趣味なんで」と笑うだけで聞いてくれない。


ここはワーカホリックの巣窟だということが良く分かった。


毎日忙しいけど、それが楽しい。そう思える環境って恵まれている。リオもレオンも忙しいが二人の時間が取れないほどではない。相変わらず甘々だ。へへ(照)。


看護師資格の件とデビル・タンという偏見や差別の撤廃についてはリュシアンに相談した。舌小帯短縮症は生まれつきの疾患であり、呪いなんてものではなく正しく処置をすれば治る。その事実を広め、差別禁止法案を作ることを約束してくれた。偏見や差別を無くすための行動が重要だ。


リュシアンは忙しいのに迅速に対応してくれて、さすがだと思う。どちらもトリスタン国王からすぐに許可が下りたらしい。看護師資格の要件についてはリオとレオンが考えるようにと宿題が出たので、二人で話し合っている最中だ。誰も合格できないほど難しくてもいけないし、誰でも合格できるほど易し過ぎてもいけない。加減が難しい。


舌小帯短縮症については誰も名前を覚えられなかったようだ。リュシアンによると、人々の間では「ゼナントカ病」として広まったらしい。


簡単に予想がつくが、エミリーたちが病名を聞かれて「ゼ・・・・何とか病」と答えたのだろう。ま、いっか。名前はどうでも。


新疾患「ゼナントカ病」は生まれつき舌機能が阻害され授乳できないために栄養失調で新生児が亡くなってしまう症状だと、権威ある王宮医師団から大々的に発表された。デビル・タンという言葉は、差別と偏見を助長するものとして使用を禁止された。また、迷信であることも強調された。


さらに、その疾患の発見者がリオ・シュミットであることも宣伝され、リオはゼナントカ病の第一人者として注目を集めることとなった。


シモン公爵領だけでなく他領からもゼナントカ病の患者が来るようになったし、王宮の医師団からは講義をして欲しいと頼まれている。そんなこんなで毎日目が回るくらい忙しい。


診療の合間をぬって、アニーには消毒の必要性、感染症対策、衛生管理の問題など少しずつ教えていく。アニーは熱心にメモを取りながら聞いてくれる。素晴らしい生徒だ。


多忙な生活が続くある日、珍しく予定が合ったリオ、レオン、セリーヌ、リュシアンは夕食を共にしていた。セリーヌはしょっちゅうやって来るが、リュシアンが参加できるのは珍しい。


二人は、ゼナントカ病のことやリオの患者が増えたことをとても喜んでくれた。手放しに褒められるのは慣れていないので少々照れくさい。


「お母さま、そういえば先日アンドレ様からお手紙を頂きました」


「まあ、私たちには届いていないわよ。返信に私たちにも手紙を書くように言ってちょうだい」


「そうだな。今後連絡は全てセリーヌとリュシアン経由にしてもらった方が良い」


レオンも口を出す。リュシアンは苦笑いだ。


「それで何て書いてあったの?」


セリーヌは興味津々だ。


「えーと、最近面白い旅の絵師と知り合ったんですって。エディさんと言う男性で、こんなに話が合う友人が出来たのは初めてだって書いてありました」


「へえぇ、絵師ねえ」


セリーヌとリュシアンは目を合わせて頷いた。


「アンドレは子供の頃からずっと絵が好きだったの。今でも趣味で油絵を描いているはずよ」


「え、そうなんですか?全然知らなかった。見せて頂きたかったなぁ」


「恥ずかしがりだからね。人に見せるほどではないと思っているのよ。でも、私は上手いと思うわ。まだ王都の屋敷にあるはずよ。今度見せてあげる」


「嬉しい。お兄さまに手紙で見せてもらっていいかお願いしてみますね。お父さまとお母さまにも手紙を書くよう伝えます」


リュシアンとセリーヌは満足げに頷いた。


「ところでレオンとリオに頼みたいことがあるんだ」


「何でしょう?」


リオはちょっとワクワクする。リュシアンから頼まれるなんて珍しい。


「私たちが運営する孤児院があるのは知っているかい?」


「孤児院?」


「ああ、この近くに教会があるのは知っているな?」


リュシアンはレオンに問いかける。


「ああ」


「教会の一部を孤児院に改築したんだ。前のコズイレフ帝国との戦争が終わった頃だな。知っているだろう。戦争孤児が多かった」


レオンは少し辛そうな顔をしている。戦争で親を失った子供たちを保護するための孤児院だったそうだ。


「今でも孤児たちを保護している。二人でその子たちの健康診断をしてくれないか?」


「お父さま、喜んで協力させて頂きますわ」


レオンも頷いてリオの手を握る。リオの指に口づけすると「君と一緒に行けるなら」と熱い視線を送った。


リュシアンは呆れたように「親の前だぞ」というがレオンは気にしない。若返った時に羞恥心をどこかに忘れてきてしまったのかもしれない。


セリーヌがまあまあとリュシアンを宥めた。今度はリュシアンがセリーヌの手を取り、指に口づけをする。相変わらずアツアツの夫婦である。


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