誕生日プレゼント
その後のレオンとリオの生活は多忙を極めた。
国家療法士試験、診療所の設計、今後の生活、とにかく考えること、やらなきゃいけないことが多すぎて、毎日が飛ぶように過ぎ去っていく。
リオたちは人目につかないようひっそりと王宮で暮らしている。外の世界で安全に生活できる配備が整うまでは、王宮に居る方が警備上の都合が良いらしい。
リュシアンとセリーヌは毎日のように来てくれる。というか、王宮には彼ら専用の部屋があるのだ。リュシアンが王子だった頃に使っていた部屋らしい。だから、二人にとって王宮は別宅みたいな感覚なのだろう。トリスタン国王とコレット王妃にもたまに会うけど、相変わらずフレンドリーで居候のレオンとリオにも優しく接してくれる。
嬉しいことにアニーがリオの専属侍女として王宮に来てくれた。たまにパスカルも来て、伸びてきた髪の手入れやスカルプ・マッサージをしてくれる。
レオンはパスカルがリオの髪を触ることに抵抗を示したけれど、パスカルに下心はない。アニーから実はパスカルと恋仲だと告白されたのだ。お似合いの二人だとニヤニヤしたくなる。ふふ。レオンもしぶしぶ認めてくれた。
レオンとリオは無事に国家療法士に合格した。診療所ではリオ・シュミットという国家療法士になる。何十人も王宮医師たちが試験を受けたが、合格したのはレオンとリオだけだったらしい。どちらも治癒魔法・医学知識両方で満点だった。レオンはずっと「茶番だ・・」とぼやいていたけど、リオが満点だったことをとても喜んでくれた。もちろん不正なんてしていない。ただ、結果を知ったリュシアンとレオンが二人してトリスタン国王にリオの自慢話をしているのはとても恥ずかしかった・・・。
そういえば、やはりこの世界にミドルネームはないそうだ。昔はあったけど、どんどん名前が長くなっていって二十ものミドルネームを持つ人なんかも出てきて、役所の事務作業が煩雑になりすぎたらしい。それで、最初にスミス共和国で廃止され、その後他の国も廃止するようになったとのこと。シンプルイズベストだ。なので、名前はシンプルにリオ・シュミット。旦那様がレオンハルト・シュミット。覚えやすくて良かった。
そうこうしているうちに、アンドレがフォンテーヌ王国大使としてコズイレフ帝国に旅立った。大使の後任がアンドレと聞いて驚いたけど、適任だと思う。人柄や社交性だけではない。頭の回転が速く芯も強いから、複雑な国際情勢の中でも外交面で流されることがなさそうだ。敵国での生活は大変だと思うけど、無事に帰ってきて欲しい。
アンドレは準備で忙しく、ほとんど会えなかったが出発前に挨拶しに来てくれた。その時に、セイレーンやリオの両親についても調べると約束してくれた。コズイレフ帝国は神に近しい国と言われていて、セイレーンの伝説も多く遺されているらしい。
***
そして、気がついたらリオは十五歳になっていた。中身の濃い十四歳だったなぁ、と感慨深いものがある。
誕生日にはレオン、リュシアン、セリーヌだけでなく、王族の面々も祝いに参加してくれた。アニーとパスカルも友人として参加してくれて、とても嬉しかった。こんな風に心のこもったお祝いをしてもらったのは初めてだ(前世含む)。
一番ビックリしたのは誕生日プレゼントとして国宝のオリハルコンのナイフを貰ったことだ。装飾を施した綺麗な鞘に収まったオリハルコンを国王トリスタンが直々にリオに賜る。
「これは既に君にあげたものだからな」
トリスタンだけでなく他の出席者もニコニコと頷いている。セリーヌは満面の笑顔で拍手しているし、リュシアンはセリーヌの腰を抱きながらうっとりと彼女を見つめている。
レオンは少々気まずい思いがあるかもしれないが、やはり嬉しそうに微笑んでいる。
(いいのかな?もらっちゃっても・・・。正直、嬉しいけど・・。このナイフは最初から私の味方って感覚があった。でも、国宝だよ?!ホントにいいの?!)
リオは丁寧にお辞儀をした。
「大変な栄誉を賜り恐悦至極に存じますが、私のような者に誠に国の宝を拝受する価値がありますでしょうか?」
「この刀は君の傍が良いと思っているよ」
レオンがリオの傍に立って肩を抱く。やっぱりレオンは事前に知っていた風情だ。
「私もそう思うよ。神から賜ったと伝えられている剣だ。いつか君に必要となる日が来るだろう」
トリスタン国王も笑顔で頷いた。
あまり固辞するのも失礼だ。レオンの判断には絶対の信頼があるので有難く頂戴することにした。
御礼を言いつつ、両手でナイフの鞘を握りしめる。持った途端にジーンと手から温かさが全身に伝わる。不思議な力が体に漲る感覚に、思わず大きく息を吐いた。
セリーヌは目を輝かせてうんうんと頷いている。そして、サムズアップ。また心を読まれた気がして、リオは照れくさかった。




