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秘密と罪悪感

シモン公爵邸で、フィオナとセリーヌは屋敷の結界が安全に防御されているかを確認していた。


先生のことは気になって仕方がないけど、今は何もできない。無理に会わせてくれなんて我儘を言えるはずもない。いつ意識が戻るかも分からないし、会える時がくるまで信じて待つしかない。


「必要なところは全部確認したわね」

「はい」

「手伝ってくれてありがとう。フィオナの魔力量が多くて驚いたわ」


セリーヌが輝くような笑顔を見せると、この方のためなら何でもできる!と思ってしまう。それくらい人懐っこくて可憐な笑顔だ。


二人で広間に戻ると突然ずかずかとリュシアンが入って来た。フィオナを無視して、黙ってセリーヌを抱きあげるとそのままどこかに行ってしまう。


「え・・・?なにが起こったの?」


と言う間もなく二人は消えた。


どこからともなく執事のジョルジュが現れてフィオナを部屋まで送ってくれる。一人でも戻れるのだが、この屋敷ではフィオナの身の安全を考えて常に誰かがエスコートすることになっているらしい。


ジョルジュは気まずそうに咳払いをしながらフィオナに話しかける。


「大変申し訳ありませんでした」

「何がですか?」

「旦那様は奥様との触れ合いが減ると禁断症状が出て大変なことになってしまうのです。フィオナ様にご挨拶もせずに奥様を連れ去ってしまわれるなんて、大変失礼なことを致しました」

「いえ、全然気にしていません。それよりも、あの・・た、大変なことって・・・どんなことになるんですか?」


ジョルジュさんは深いため息をつきながら首を振る。


「それは言えません。私は墓場までこの秘密を持って行くと決めています」

「そ、そんなに・・・」


フィオナが物騒な想像をして慄いていると、ジョルジュは悪戯っぽい笑顔のまま噴き出した。


「な、からかっていらしたのね!」


怒ってはいないがフィオナは一応文句を言った。


「申し訳ありません。フィオナ様は本当に素直でいらっしゃる。からかうつもりはなかったのですよ。誰もが墓場まで持って行く覚悟の秘密を持っています。秘密は秘密のままでいいのですよ」


フィオナは虚を突かれて立ち止まった。自分の中身は五十路の平石理央だ。フィオナというセイレーンの少女ではない。皆に親切にしてもらっても、ずるいことをしているような罪悪感につきまとわれている。自分が受け取る親切も愛情も、本来はフィオナちゃんが受け取るべきものだ。自分のものではないと申し訳ない気持ちになる。いっそ全て告白しようと思ったこともあった。


自分の体にフィオナちゃんの意識が存在しないことが不安で堪らない。意図的でないにしろ自分が奪い取ってしまったのか、自分のせいで消失してしまったのか、ずっと気になっている。


ジョルジュは秘密を隠しているのを分かっているのかもしれない。縋るようにジョルジュを見ると優しく頭を撫でてくれた。


「私が貴女について知っていることはそれほど多くありません。でも、貴女が善良で人を思いやる優しい人だということを知っています。使用人にも丁寧に礼を言い、毎日挨拶をしてくれる貴女を皆が慕っているんですよ。それだけで十分です。私たちが貴女を好きで守りたいと思うのは、たったそれだけの理由なんです」


思いがけないことを言われてフィオナは呆然とした。同時に胸の奥が熱くなる。そのままの自分でいいんだって肯定されたことが嬉しかった。


「あ、ありがとうございます。すごく、すごく嬉しいです。私も皆さんが大好きです!」


ジョルジュはニコニコしながら部屋の扉を開けてくれた。プロの執事の完璧な姿勢って美しいとつくづく思う。


「どうかゆっくりお休み下さい」


ジョルジュは華麗なお辞儀をして去っていった。


部屋にはアニーが待ち構えていて、寝る支度を手伝ってくれる。アニーもフィオナが心配なのか、頭のぐりぐり撫でもいつものような迫力がない。フワフワと軽く撫でてくれる程度だ。


「フィオナ様、きっと大丈夫ですよ」


先生のことを考えると泣きたくなるけど、皆の優しさが心から有難いと思った。



*****



翌朝、普段通りに起きて食堂で朝食を取っているとリュシアンとセリーヌが現れた。


「昨日はごめんなさいね。リュシアンったら挨拶もなしにいきなり攫っていくんですもの」

「君に会えない日が続くと俺はすぐに仕事を辞めたくなってしまうからね。仕方がないんだよ」


さすがリュシアンは悪びれることがない。


「いえ、全くお気になさらないで下さい」


ずっと熱くセリーヌだけを見つめていたリュシアンがフィオナの方を振り返った。


(おお、珍しい!)


「気を悪くさせてしまったら、申し訳ない」


(全然申し訳なさそうじゃないけどね!)


と思いながらも、フィオナは手をブンブン振りながら答える。


「ぜんっぜん、私は気にしていません。お二人の仲が睦まじいのはとても素敵なことだと思います!」


リュシアンはフィオナに笑いかけて、「ありがとう」と言った。貴重な笑顔だ。


リュシアンは使用人から慕われ、王宮での信頼も厚い。ただ、セリーヌに夢中すぎるだけなのだ。


「今日は午後から王宮に行くつもりだが君も来るかい?」


フィオナは予想外の言葉に一瞬固まったが、すぐに「行きます!」と返事をした。


先生に会えるかもしれない!


「リュシアン・・・大丈夫?」


セリーヌは心配そうに両頬に手のひらを当てた。どんな格好でも絵になる美しさだ。


「大丈夫だ。護衛も付けるし、君も一緒に来たらいい。シモン家総出で王宮参りだ!」


リュシアンは不敵に笑った。


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