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どこにでもいる大学生の1日〜その1〜

これからよろしくお願いします。

4月6日、一年で一番大学に人が多い時期だ。

1回生は新しく始まる夢のキャンパスライフに胸を膨らませている。

しかし、このうるさすぎる1回生たちの話し声が聞こえるのもせいぜいあと1ヶ月くらいだろう。

そのうち一人また一人と、大学から姿を消していく。

5月になる頃には今の6割くらいの人数になり、丁度いい騒がしさに落ち着くはずだ。


大学でボッチの僕、濱下勇気は静かになる方が嬉しいので早く減って欲しいと願っている。


そんなどうでもいい事を考えている内に、いつの間にか教授の長い話が終わっていた。

顔を上げて周りを見ると、同じゼミの生徒たちがそそくさと帰りの準備をしている。

ゼミは授業終了予定時刻よりも3分早く終わったようだ。

大学生活において、昼休み前の3分ほど重要なものはない。

この3分を上手く使う事ができれば、3分後に始まる食堂の席取り戦争を有利に立ち回れるのだ。

僕も周りにならって、慌てて、筆記用具を片付け始める。


「濱下くん、最後、先生の話聞いてなかったでしょ?」

「え?」


隣に座っていたゼミ仲間に話しかけられて、手を止める。

彼女の名前は魚沼咲。

僕の所属する武田ゼミのゼミ長をやっている人だ。

セミロングの髪を茶髪に染めた、いかにも今時のリア充大学生といった見た目をしている。

身長も胸も、全てが平均的に美しく、まさしく世間がイメージする理想の大学生のような雰囲気を纏っている。


「さっきの問題が来週までの宿題だって。当てられるかもしれないからやっといた方がいいよ。」

「あ、ありがとう。」


リア充大学生とは正反対の大学生活を送っている僕こと『濱下勇気』は勿論、魚沼さんと話したことなどない。

いきなりリア充女子に話しかけれて、僕は持ち前のコミュ症を発揮してしまう。

あぁ、情けない。


「ねぇねぇ、今からお昼ご飯?」

「そうだけど。」

「もしかして一人で?」

「うぐっ!?そ、そうだけど……。」


ボッチを殺す一言がクリーンヒットして、思わずよろけてしまう。

致命傷を受け瀕死の僕に、魚沼さんは予想外の手を差し伸べてくれた。


「じゃあ一緒に食べない?」


いきなり差し伸べられた天使の施しに思わず涙しそうになる。

魚沼さんは現実という地獄に堕とされた俺を救い出してくれる女神なのか!?


「い、いいよ。」

「良かった〜。いつメンがみんな予定合わなくてさ、このままじゃボッチ飯になるところだったから助かったよぉ。」


『いつメン』ってなんだ?

つけ麺の親戚か何か?新しい食堂のメニュー?


「急ご、急ごっ!席無くなっちゃうよ。」

「ごめん。今すぐ片付ける。」


『いつメン』とかいう食堂の新メニューの正体について思案しながら、魚沼さんと食堂に向かった。



✳︎



食堂に到着し、なんとか昼食と座席を確保することに成功した。

何とか二人分の席を確保できて一安心だ。

既に疲労困憊の俺に対して、魚沼さんはテーブルの向かい側で、はしゃぎながらパシャパシャと写真を撮っていた。


「見て見て!限定20食幻の黄金オムライスだよ。絶対に食べられないと思ってたよ。今日は本当にラッキー!」

「ねぇねぇ、その写真って何に使うの?」

「え?そんなのキンスタにあげるに決まってるじゃん。」

「あーキンスタね……。」


キンスタ!

それを使えればリア充の証だというあのキンスタか!?

実在していたというのか……。


「濱下くんはキンスタやってないの?」

「キンスタにあげられるようなキラキラした生活送ってないし、俺にはできないかな。」

「そんなに深く考えないで、アルバムみたいに使えばいいのに。」

「アルバムねぇ。僕のアルバムなんて、『今日解いた参考書はこれです』みたいになりそうだよ。」

「通販のレビューみたいで逆に面白いかも。」


魚沼さんは楽しそうに笑う。

楽しそうにしている魚沼さんを見ているだけで、こっちまで楽しい気分になる。

やっぱりリア充のコミュ力は凄いなぁと思わず感心してしまう。


「勉強すごく頑張ってるみたいだけど、公務員試験ってそんなに大変なの?」

「まぁ……やらなきゃいけない事はいっぱいあるかな。」

「へぇ、凄いな〜。私もそろそろ就活始めないと。」


僕たち大学3回生にとっての大きな悩みの種の一つは就活だ。

この話題が出れば暗くなるのは、リア充も共通らしい。


「う、魚沼さんって普段は何してるのっ?」


僕のせいで雰囲気が少し暗くなってしまった。

僕の少ない会話デッキの中から、慌てて別の話題を引っ張り出してくる。


「え、私!?そうだな〜、普段はサークル行ったり、友達と遊んだり、あと一人の時は……」


ハキハキと話していた魚沼さんが急に言い淀む。

まさか、地雷だったのか……?


「ま、漫画とか読んでるかな。」

「へぇ〜漫画読んでるんだ。どんなのが好きなの?」


オタクの悪い癖。

漫画とかアニメの話題が出るとすぐに食いついてしまう。

かく言う僕も、多くのオタクの例に漏れず、まんまと食いついてしまった。

後で反省会だな。


「どんな漫画!?そ、そうだな〜色んなもの読むんだけどぉ……。」


魚沼さんはまた言い淀む。

うーん、どうもこの話題はあまりいい選択では無かった気がする。

他の話題に変えようか。

頭の中で次の話題の選考に入ろうとすると、魚沼さんが急に身を乗り出してきた。


「うぉ!?ど、どうしたの。」


整った綺麗な顔がいきなり近づいてきて思わず後ずさる。


「ちょっと耳貸してくれる?」


魚沼さんに言われるがままに耳を傾ける。

すると、魚沼さんはさらに身を乗り出して僕の耳元まで近づいてきた。

魚沼さんの息遣いが肌で感じられて、思わずドキリとしてしまう。

魚沼さんは、少し間を置いてから僕に話しかけた。


「男の人同士が恋するやつとかが好きなの。」

「へ?」


魚沼さんから予想外すぎる言葉が聞こえてきて気の抜けた声が出てしまった。

魚沼さんは、言うことだけ言い終えると、僕から離れて顔を赤らめて俯いてしまう。


僕は一度冷静に先ほどの言葉を思い返して、咀嚼する。

男同士が恋する漫画を読む。つまり……


「腐女……」

「あぁ!!そんな大声で言わないでぇ!!」


魚沼さんは赤らめていた顔を一層真っ赤にして、僕の言葉を遮った。

気まずい沈黙が流れる。

リア充からの衝撃の告白を聞いた僕は一体どういう言葉をかけたらいいのだろうか。

残念ながらコミュ症の僕にこの状況を打破できる手はない。

というか、こんな状況を打破できる人はコミュ強……いやコミュ力の神、『コミュ神』しかいないだろ!?


「……引いちゃった?」


僕が頭を抱えていると、魚沼さんがおずおずと話し出した。


「全然引いてないよ。むしろ親近感が湧いたというか……。」


僕の言葉を聞いて、魚沼さんは大きく息を吐いた。


「良かった〜。濱下くんはアニメとか好きそうだから言ってみてもいいかなぁなんて思ったんだけど。」

「僕ってそんなにオタクっぽい!?」

「うーん、何となく振る舞いが、『実力を隠してる脱力系主人公』っぽい感じだから憧れてるのかなぁって。」

「うそぉ!?」


確かに、僕は影の実力者みたいな大人のキャラが好きだけど、まさか無意識真似してたのか……!?

だったら凄い痛い奴じゃないか!?

 

「……もしかして図星?」

「い、いやぁそんなことは……ないと信じたい。」

「アハハっ、やっぱり濱下くんって面白いね。」


その後は、学校とかサークルのこととか当たり障りのない話をして昼食の時間は過ぎていった。

僕としては、魚沼さんの趣味についてもっと聞きたかったけれど、あまりしつこく聞い過ぎても嫌われてしまうと思い、やめておいた。


「午後は授業あるの?」

「いや、午後からはバイトだよ。」

「あー、じゃあサボれないね。じゃあまた今度。」

「うん、よろしく。」


魚沼さんと別れて大学を抜け出して、バイト先のコンビニへと向かった。

キャラ紹介


濱下勇気(20歳)

2月29日生まれ。

中学時代は定期テストでそこそこの成績を収めて、担任にそこそこの進学校を勧められて、そこに進学する。

高校ではそこそこに勉強を頑張り地方のそこそこの大学に合格する。

大学ではそこそこに単位を取りながら過ごし、三回生になった今年から公務員試験の予備校に通ってそこそこに勉強している。

人生で常にそこそこに勉強していたため、異性との交流はほとんどなかった。

趣味はアニメや漫画やラノベにゲーム、映画鑑賞に将棋に、スポーツ鑑賞、それと勉強。

色んなものに興味があり一つ一つの趣味はそこまで深くは極めないタイプ。 

二次元では青い髪のショートカットの負けヒロインを好きになる傾向にある。



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