お仕事
「男女別に出席番号順で、それぞれ一列に並んでください!」
「くださ〜い」
現在自分は清水川さんと廊下にて、クラスメイト達を整列させていた。今日は午前中の時間を全部使って全学年が身体測定を行う日であり、朝のホームルーム終了後すぐに指定の場所に行かなくてはならない。
遅れてしまうと他のクラスに迷惑がかかるので、あまりうるさいことは言いたくないのだが、割と真面目にクラスメイト達を並ばせていた。隣の清水川さんは、やる気がなさそうだが。
「それじゃ、最初は身長と体重の計測ですので、体育館に行きます。体育館に着いたら、ええと、Cのプラカードがあるところに並んでください。じゃあ、着いて来てください」
まだクラスメイト同士の繋がりが少なく、会話が発生せず素直に並んでくれるので、スムーズに移動することができた。これが時間が経って仲が良くなってくると、全然並んでくれなくなるんだよね。いやぁ身体測定が早めにあって助かったよ。
体育館に着くとCのところにクラスメイトを並ばせ、待ち時間の間に次の検査の説明を行う。この学校の身体測定は身長、体重の測定に加えて視力の検査、さらには健康診断の類も一緒にやるので結構忙しい。なのでクラスメイトが間違えて迷ったりしないように、しっかり説明する必要がある。
「ねえ、ねえちょっと……」
「ん、はい、何ですか?清水川さん」
「この後……、どこ行くんだっけ?」
にも関わらず清水川さんはこの様である。貴方は保健委員でしょ、貴方が知らなくて誰が知ってるの。しっかりしてくださいよ、とは出会って日が浅いのでまだ言えない。なのでここは黙って、次に女子が行く場所を伝える。
「女子は確かこの後、視力検査です」
「なるほど……。その次は?」
「……その次は目自体の検査、その次は歯科検診、その次は心電図です」
「なるほど……。助かった」
果たして清水川さんは、女子を無事に案内できるのだろうか。いや、してもらわなければ困るのだが。そもそも昨日の委員会で話されていたことだし、紙も配られていただろうに。ちゃんと確認していなかったのだろうか。
クラスメイト達の身長と体重を測り終えると、自分は男子なのでクラスの男子を連れて次の場所に向かう。別れ際に清水川さんがもう一度場所を聞いて来たが、本当に彼女に女子を任せて大丈夫なのだろうか。まぁだからと言って男の自分が、案内するわけにもいかないのだが。
その後は男子の方は順調に予定されていた項目を進めて行き、お昼になるかならないかぐらいの時間に終了した。そして今日は午前の身体測定が終わると午後は授業が無いので、クラスメイト達はは帰り支度をしたり部活に行ったりしていた。
しかし残念なことに自分はこの後、委員会の仕事があるので帰ることができない。なので記録用紙を回収するときに、クラスメイト達に目で怨みを訴えながら回収した。お前達は帰れていいなぁ。
因み清水川さん率いるクラスの女子は、男子が教室に戻って来た数分後に戻ってきた。どうやら迷わずに全ての項目を終わらせられたらしい。いや良かったよ。本当、冗談抜きで。
その後は清水川さんも女子の記録用紙を回収して、記入漏れなどの不備が無いことを確認し、それを保健室へと届けに向かった。というか、こういう個人の身体データを、生徒が見て良いのだろうか。この学校のプライバシー管理はどうなっているのだろう。
そんなことを考えながら保健室へとたどり着くと、保健室の扉が閉められていて、ドアには紙が貼られており、五分で戻ると書いてあった。手に持った記録用紙を置いて教室に戻る訳にもいかないので、その場で先生を待つことになった。
「……」
「……」
(気まずい)
清水川さんと自分の接点は保健委員であることと、クラスメイトであることのみである。後は人間であることもか。しかも入学から数日しか経っていないから、清水川さんのことをあまり把握できていない。だから何を話していいかよくわからず沈黙が続いていた。先生早く来てくれませんかね。
「……ねぇ、これ知ってる?」
「ん、え、はい?」
沈黙の中で余りにもやることがないので、帰宅後の予定を考えていると隣から声をかけらた。振り向くと清水川さんがスマホの画面をこちらに向けたており、その画面には数ヶ月前に発売されたばかりの、ゲームのホームページが映し出されていた。
「え……。あぁ〜、知ってますよ。確か今年の三月ぐらいに、販売されたやつですよね」
そのゲームというのは家庭用ゲーム機のソフトで、別に有名どころの会社が作ったわけではなく、発売前も発売後も大して話題にはならなかった。
なので自分も最初はそんなに気にしていなかったのだが、ネットサーフィン中に偶々このゲームのホームページを見つけ、ゲームの内容を見ているうちにやってみたくなったので、買ってしまったのだ。
そしていざプレイしてみるとこれがとても面白く、中学校卒業から高校入学までの時間を全てを使い、そして今も結構な時間やっているお気に入りのゲームである。
「そう……。あなた、これやってる?」
「あ〜、まぁ一応やってますよ」
「……そう。私も、やってるの」
「へぇ〜、そうなんですか」
清水川さんってゲームやるんだ、意外だな。雰囲気からしてそういうのは、興味なさそうだと思ったけど。いやまぁ出会って数日しか経っていないから、雰囲気もくそないか。
「面白いですよね、このゲーム」
「そうね……。でも一つ、困ったことがあるの」
「困ったこと、とは?」
「それは……、一緒にやる人が見つからないの」
なるほど確かに、このゲームはマイナーなゲームだからプレイ人口が少なく、ネットでもプレイしている人達を見つけるのは難しい。それなら一人でやっていればいい話だが、このゲームには複数人で遊ぶ前提のマルチモードがある。
そのマルチモードは一人用のシングルモードよりも難しいとの噂があり、自分もやってみたいと思い一緒にやる人を探していたのだが、いかんせんこのゲームの人口が少ないので、見つけることがでなかった。
「あ〜、やってる人が少ないですからね」
「そうなの……。だからよかったら今日、一緒にやらない?」
「え、あぁ。いいですよ」
おっと思わぬところでゲーム仲間ゲット。しかしまさかこのゲームをやっている人が、この学校にいるとは思わなかった。こんな素敵な出会いをくれた保健委員会には感謝をしなくては。
その後は清水川さんとゲームの話しで盛り上がり、しばらくすると先生が来たので身体測定の記録用紙を渡して解散となった。因みに連絡をとる方法としてスマホのチャットアプリで、お互い友達登録したのだが、その際にクラスのグループができていることを知り、清水川さんに招待してもらった。いやぁ入学後三日目で、もうこういうのができてるなんて早いね。
さて、仕事も終わったし、帰って昼飯食べて遊ぶぞ。