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県立新田中央高校 〜平凡なる日常〜  作者: 停止する春風
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自己紹介

「それでは今から、自己紹介を行なっていきます」


 ホームルーム終了後に休憩をはさんで、登校二日目の今日は自己紹介が行われる。自己紹介、学校生活において真面目に自分のことを紹介する機会は、恐らくこの自己紹介のみだろう。だからと言って全力で自分をさらけ出す必要は無いが。



 こういう場では可もなく、不可もない自己紹介がベストだ。周りと同じように、特徴も無く一般的な感じで話すのがいいだろう。稀にとても面白い自己紹介をする人いるが、それは今までの人生でそういう振る舞いをしてきた人間だからできることである。だから、やはり凡人は普通にやるのがいい。


 そもそも自己紹介は面白い話しを求められている場ではなく、自分と他人すなわちクラスメイトとの共通点を見つけ、そこをきっかけに仲良くなるための情報を得る場である。そこを勘違いしている人は話す必要もないような、中学での武勇伝などを話してしまうから滑ってしまうのだ。だから自己紹介はシンプルに自分の情報を伝えるのがいいのである。


「順番は出席番号順で行うので、まずは一番の……相澤くんからですね。では相澤くん、よろしくお願いします」

「はい」


 さあ始りました第一回1-C自己紹介タイム。二回目は無いと思うけどね。さて一番最初は相澤くんという男子生徒だ。見た目的にはどこにでもいる男の子って感じだけど、いったいどういう自己紹介をするのか、じっくりと見させてもらうよ。何せトップバッターの君が、どういった自己紹介をするかによって、残りのクラスメイトの自己紹介の仕方も決まってくるからね。いや責任重大だ。


「えっと、相澤大樹(あいざわたいき)です。趣味はサッカーで、中学時代もサッカー部でした。高校でもサッカー部に入ろうと思っています。三年間よろしくお願いします」


 相澤君が自己紹介を終えると、教室にまばらな拍手が響く。うんうん、そうだよね。やっぱり普通の自己紹介が一番だよね、ナイスだよ相澤くん。君が無難に話してくれたおかげで、後の我々が話しやすくなったからね。自分は球技が苦手だけど、機会があったらお話ししようか。さて次はどんな人かな。


「はい相澤くん、よろしくお願いします。では次は二番の秋山くん、お願いします」

「は、はい。あー、名前は秋山透(あきやまとおる)です。趣味は……」


 その後も順調に自己紹介は進んでいき、いよいよ次の順番は自分の前の席、つまり大森の番となった。ここまでの自己紹介は全て、普通に行われている。正直一番心配なのは自分の自己紹介より、この大森の自己紹介である。


 自分と大森は今日出会ったばかりの中だが、この学校で現段階では一番関わりが深い人間である。それにホームルームが始まるまでの間、大森と話していたのはクラスメイトに見られている。つまり大森が何か不味い自己紹介をすると、自分も同類だと思われてしまう可能性がある。


(頼むぞ、大森。普通にやってくれよ)

「では次は六番の大森くん、よろしく」

「ふ、ようやく私の番か」


 そう言って大森は華麗に回りながら椅子から立ち、髪を手でなびかせ教室を見回した。その動作と美しさに教室のほとんどの人間は目を奪われていた。分かるよ、その気持ち。でも中身はちょっと変わってるんだよね。この人。


「クラスメイトの諸君、はじめまして。私の名前は大森美麗、世界で一番美しい人間さ!これから三年間、よろしく」


 おいおいまじかよ、なんてこったい。普通の自己紹介はしないと思ってはいたが、クラスメイト全員の前でそれを言うか。凄いやつだよお前は。ほら、教室を見てみなさい。貴方の美しさで口を開けていた人たちが、今度は別の意味で口を開けているよ。


 そりゃそうなるよね。見た目は綺麗、声も綺麗。でもそこから繰り出される言葉は、理解し難いものである。見た目と中身が釣り合ってないんだよな。本当もったいない。


「世界一かどうかはわからないけど、確かにいい見た目だね。……それで、もう自己紹介は終わりでいいかい?」

「ああ、かまわないよ。大宮先生」


 そう言って大森は華麗に回りながら着席した。何故いちいち回るのか非常に疑問であるが、そんなことよりこの空気をどうにかしなくては。大宮先生がリアクションをとってくれたから、ある程度は軽減されているが、少し微妙な空気になってしまっている。


「はい、大森くんありがとう。では次は……八番、恩田くん」

「……はい」


 しかたない、ここはこの凡人代表の恩田平丸が軌道修正を行なってあげよう。なに、難しいことはない。普通の自己紹介をすればいいだけだ。そう、予定していたことを喋ればいいだけ。一番の相澤くんのようにやるだけだ。


「八番の恩田平丸です。中学の時は陸上部に入っていました。趣味は日光浴です。三年間よろしくお願いします」


 自己紹介をすると教室から、まばらに拍手が聞こえてくる。よし完璧だ。可もなく不可もなく、シンプルかつノーマルな自己紹介。これで後の人間はなんの問題もなく自己紹介を行える。さらに自分も普通の人間性だとアピールすることできた。素晴らしい、我ながらいい出来だ。


「恩田くん、よろしくお願いしますね。では次は……」


 その後は特に変わった自己紹介をする人はおらず、無事に三十八人全員の自己紹介が終了した。いや、完全に無事ではないか。まあ本人はなんとも思っていないからいいか。


「さて、これで皆さん全員の自己紹介が終わりましたね。では、次は委員会決めに移ります」

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