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県立新田中央高校 〜平凡なる日常〜  作者: 停止する春風
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世界で一番美しい2

「いいかね、美しくなる為には、たゆまぬ努力が必要なのだよ」

「はあ……」

「もちろん私は、何もしなくても美しい。だがしかし、私はさらに美しくなる必要があるのだ」

「……何故ですか?」

「それが、世界のためだからさ!」

「……」


 県立新田中央高校の登校二日目、クラスで一番早く登校してきた自分は変人に絡まれていた。目の前にいるこの人は、本人が言うように確かに美しい。高身長ですらりとした手足、綺麗な長い黒髪に整った中性的な顔立ち。文句のつけようのない美人だ。ただし性格は除く。


 一体なにをどうすれば自分の美しさが、世界のためになるという考えに至るのだろうか。人一人が美しくなっても、世界にはなんの影響も与えれらないだろうに。それに美しさで世界がどうにかなるのなら、とっくの昔に世界は美形に支配されている。


「だから私は常々、どうすればより美しくなれるのかを考えているのだが、最近一つ問題が発生してしまってね」

「その問題とは?」

「それは……。これ以上どうすれば私が、美しくなるのかわからないことなんだ」


 物凄く深刻そうな顔をしながら大森が告げたことは、割とどうでもいいことだった。いや本人にとっては重大な問題なんだろうけど。いかんせん美形が美しくなれないと嘆いたところで、全く我々のような凡人には問題には思えないし、むしろ煽りと取られてもおかしくない。


 この人は今までもこういうスタイルで、生きて来たのだろうか。だとすれば友達を作るどころか、相当な数の敵を作ってきたことだろう。よくもまあ高校まで無事に来れたものだ。まあ本人の性格からすれば、周りのことは特に気にしないだろうが。


「……別にいいんじゃないですか?そのままでも、十分美しいと思いますが」

「あぁ!ありがとう平丸。だがやはり、私はさらに美しくなりたいんだ」

「あぁ、そうですか」


 今の自分が最高に美しいと思い、現状の自分に満足する人間は山のようにいるが、大森のように美しさを追求し続ける人は、なかなかいないのではないのだろうか。さらに大森は何もしなくても美しい分類の人間だ。そんな彼は恐らく努力をしてまで美しくなる必要はないのだろうが、恐らく彼は美しい自分ではなく、美しくなり続ける自分のことが好きのではないのだろうか。


 多くの人間は周りと自分を比べて、周囲の環境よりも自分の能力が圧倒的に上だった場合、それ以上自分を高めようとはしない。何故なら基本人間は楽をしたい生物であり、他者の追随を許さないような安定した能力を得ると、これ以上力をつける必要はないとそこで満足してしまうからである。


 しかし何事にも例外があるわけで、世の中の天才と言われる人間たちは、他者の追随を許さないような圧倒的な能力を持つが、彼らはそれに満足することはなく、最後の最後まで苦悩し努力をしている。凡人から見ればなぜそこまでするのか理解に苦しむが、彼らなりに満足できるところを探していたのだろう。あくまで凡人の考えに過ぎないが。


 だが彼らはの多くは生まれ持っての天才、そうでなくても凡人とは始まりのスタート位置が圧倒的に違う。これはただの想像だが恐らく彼らは、ゴールラインも凡人とは違い、途方もない位置にあるのだろう。いやもしかしたらゴールライは同じだが、能力が高すぎて気づかないうちに過ぎ去ってしまい、見失うのかもしれない。どちらにせよ天才であるが故に、彼らは人では決して辿りつくことのないゴールを、与えられているのだろう。


 そう考えると目の前の大森美麗もかわいそうな相手に見えてくる。彼の美しさは才能と言っていいだろう。さらに彼は今の自分の現場に満足せずに、さらなる高みを目指している。まさしく天才だ。だからきっと彼はどこまで行って自分の美しさに満足することはなく、きっと死ぬまで美しさを求め続けるのだろう。


 終わりの無い永遠の追求。なんと苦しいことか。だがそれは我々凡人の考えであり、大森はきっとそれを苦しいとは思っていない。むしろ楽しいと思っているはずだ。あぁでは自分が彼に対して送る言葉は、ねぎらいの言葉ではなくこれからの発展を願った言葉の方がいいだろう。


「……では、俺は貴方がさらに美しくなれることを、願っていますよ」

「……!」


 大森に応援の意を込めた、適切であろうと思われる言葉を発すると、彼はやかましい手振りをつけた会話を止め固まってしまった。どうしたのだろうかと思い、彼の顔をよく見ると微妙にだが、驚愕していることがわかった。


「どうしたんですか?」

「……あ、いやなに。そういうこと、を言われたのは初めてでね。……意外だったものだから」


 そういって大森はちょっと対応に困ったのか、顔を横に背けてしまった。意外なのはこちらだ。まさか他人の言動を一切気にしないと思っていたやつが、適当に放った応援の言葉に照れるとは思はなかった。もしや素直な想いに弱いタイプかな。


「もしかして、照れてるんですか?」

「な!そ、それは違うぞ!ただちょと言われ慣れてない言葉だったから、対応に困っただけだ」

「本当ですかね?」

「ほんとうだとも!」


 そういって大森は頬を赤くさせながら、必至に自分は正常であることを訴え始めた。彼の中性的な顔のせいもあってか、美女が自分の前で照れながら必死に話しているよな感じになり、彼には申し訳ないが、自分にとっては最高の時間だった。ああしかし彼が本当に女子なら、ここから恋が始まるのかもしれないが、やはり自分はそういう星の元に生まれないのだろう。残念。


「……平丸?ちゃんと聞いているかい!」

「ん?あぁはい、聞いてますよ」

「いや君は今、意識が私に向いていなかったね」

「いえ、そんな言ことは」

「いいや意識が別の場所に行っていたね。私にはわかる。……仕方ない、もう一度言うからよく聞くんだよ。私は……」


 その後も大森の自分は照れていないと言う証明、もとい言い訳をホームルームが始まるまでずっと聞かされた。もちろん途中で逃げようとしたが、その度に腕を掴まれ、可愛い顔で話を聞いてなんて言われたら、そりゃ逃げれませんわな。全くどうして本当に彼が彼女では無いのか、そのことを真剣に神様に抗議しながら、彼の言い訳をその後も聞き続けるのであった。

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