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県立新田中央高校 〜平凡なる日常〜  作者: 停止する春風
3/9

世界で一番美しい

 高校生の朝は早い。現在の時刻は午前五時半、布団から身を起こしてリビングへと向かう。階段を降りてリビングに行くと、母親と父親が朝食を食べていた。


「おはようございます」

「おう、おはよう」

「あら、おはよう平丸。今日は早いのね」

「ああ、うん。混んでる電車に、乗りたくないからね」


 そう何故学校まで片道1時間しかかからないのにこんなに早く起きているかと言うと、あの殺人電車に乗りたくないからである。昨日家に帰った後ネットであの電車について調べたところ、全国電車混雑ランキング第10位であることが判明した。しかも自分が乗った時間帯は、最も混んでいる時間帯だったらしい。


 そういうわけで電車に乗る時間帯をずらす必要があるのだが、昨日より遅くすると電車に遅延が発生した場合、学校に間に合わない可能性がある。ということは乗る時間を早めるしかないわけで、その為午前5時半という時間に起きたのである。


「ふはははは、お前も私たちの苦しみが、理解できたようだな?」

「ああ。よくわかったよ、父さん」


 父親と母親は仕事のある日は朝早くに出て行く。しかも都心の方に行くので電車の混み様は、自分の乗る電車の比ではないだろう。よくあんな苦しみをほぼ毎日耐えられるなと思う。満員電車を通じて改めて親の凄さがわかったよ。ありがとう満員電車。


 自分が朝食を食べ始めようとした時、両親はすでに朝食を食べ終えて玄関で支度をしてた。しばらくすると玄関から両親の出かけの挨拶が聞こえたので、朝食を食べながらそれに返事をした。そして玄関の扉が開いて閉じる音がして、家の中の音は自分が食べ物を噛む音だけになった。


 一人の時間は嫌いではないが無音というのはなんだか不安になるので、とりあえずテレビをつけてニュース番組を見ることにした。するとちょうど天気予報がやっていた。どうやら今週いっぱいは天気がいいらしい。まあ、折り畳み傘は持って行くんですけどね。


 朝食を食べ終えるとニュース番組をbgmにして、食事の片付けをして歯を磨き、それを終えるとパジャマから制服に着替える。そしてエナメルバッグを肩にかけて、忘れ物が無いことを確認する。その後はテレビと家の電気を消し、玄関の扉の鍵を閉めて家を出て駅へと向かった。


(お、昨日より空いている)


 ホームに入ってきた電車を見ると、昨日よりは乗客が少なかった。どうやら家を早く出る作戦は成功のようだ。電車の中は決して空いているとは言えないが、かと言って満員という状態でも無い。座ることはできないが誰かと密着することは無い。それだけでけ十分である。密着状態になると下手に態勢を変えられないからね。


 その後も多少の乗客の増員はあったが、時間をずらしたことで比較的快適な通学に成功し、精神的余裕を持って学校に着くことができた。余裕を持って行動するのは大事だね。うんうん。


 学校の中に入ると朝早い為か、構内には部活の朝練を行っている人達ぐらいしかいなかった。学校というのは基本活気に溢れているイメージがあるので、こういう朝の静かな雰囲気はなんだか特別感がある。そんな朝特有の雰囲気を楽しみながら教室へと向かった。


 教室に着くとまだ誰も来ていないようで、明かりもついていなかった。それもそのはず、黒板の上の壁にかけられた時計を見ると時刻は七時半だった。この学校の朝のホームルームは八時半から始まる。つまり一時間前に着いたのである。わお、早い。


 一番最初に来たと知り謎の優越感を感じ、軽快に教室の明かりをつけると、そのまま自分の席へと向かい着席した。しかしせっかく早く来ても特にやることがないので、時間を有効に活用するためにスマホでゲームをすることにした。まだ授業が始まって無いから、課題もないしね。


 そうやってゲームをやっていると、しばらく経って誰かが廊下を歩く足音が聞こえてきた。別のクラスの人かなと考えながらゲームをしていると、足音は段々と近づいてきて、この教室の中へと入ってきた。


「おや、私が1番最初だと思ったが、まさか先を越されるとは。これは驚きだ」


 そんな声が自分の前からしたので、ふと顔を上げると自分の前の席に美女がいた。うん?いやこの人よく見ると男だな。身長は175cmほどで腰までかかる綺麗な黒髪を頭から生やし、男か女かよくわからない中性的で、しかしとても整った顔をしている。先ほどの声から察するに声質も中性的なようだ。


「……おはようございます」

「うむ、おはよう。しかし君、何故こんなに早く学校に来たのだ?暇なのか?」


 なんだこいつは、いきなり話しかけてきて暇のかとは、初対面の人に対して失礼なやつだ。しかし顔と声がいいからあまり嫌な気持ちにはならない。やっぱり美形な人ってずるいよね。


「混んだ電車に乗りたくないから、早く来たんですよ」

「そうか。因み私は、暇だから早く来た」

「はあ……、そうなんですか」


 暇だから来たんですかそうですか。中学生の同級生にもいたな、部活でも無いのに異様に朝早く来る人。個人的には極限まで家に居たいので、学校に早く来る人の気持ちはわからない。中学生の同級生は家に居ても暇だからと言っていたが、やはりそういうものなのだろうか。


「ああ、そうだ!」

「……なんですか」

「私としたことが、まだ君に名乗っていなかったね」

「はあ、そうですね」

「では自己紹介をさせてもらおう。私の名前は大森美麗(おおもりみれい)。世界で1番美しい人間さ!」


 何を言っているんだこいつは。こいつまさかナルシストか。いや多分絶対ナルシストだろう。そうとしか考えられない。そうでなければ自分を世界一美しい人間とは言わない。なんてことだ、とんでもないやつが自分のの席の前にいたぞ。確かに見た目は綺麗だけど。


「あぁ、なるほど……。確かに、お綺麗ですね」

「おお!君は私の美しさが理解できるようだね。君とはいい関係が築けそうだ」

「どうでしょうかね」

「いや、きっと築けるさ。私が言うんだ、間違いない。だから君の名前を教えてくれ。これからの学校生活を、共に生きるために!」


 何を言っているんだこのナルシストは。自分は普通に学校生活を送りたいんだ、君みたいな人といたら悪目立ちするじゃないか。しかしここで断るのはあまり良くないな。ここで断ると後々気まずくなるからもしれないし、それに名前をクラスメイトに聞かれて答えない訳にもいかない。


「……俺の名前は、恩田平丸(おんだひらまる)です。よろしくお願いしますね」

「平丸か、いい名前だな。私ほどではないが」


 名前に優劣なんかないだろう。やかましいナルシストだ。しかし不味いやつに絡まれた。こんなやつと一緒にいては俺も変なやつに見られてしまう。なんとかしなければならない。普通の学校生活を送るために。

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