入学式
構内の桜並木を歩き続け、校舎の前へとやってきた。昇降口の前では教員と思われる人が、クラス分けの紙を配布しており、人だかりができていた。そこから少し離れたところで、中学生の頃からの友人同士だろうか、同じクラスになったのか数人で喜び合っている集団がいた。彼らが喜ぶのも無理はない。
この学校ではクラスの変更は無く、一年生の時に配属されたクラスで三年間学校生活を送ることになる。だからこのクラス分けはこの学校で生活する上で、一番重要な要素と言えるだろう。もし相性が悪い人間しかいなかったら、その時点で学校生活は詰んでしまう。
さて、喜んでいる彼らはいいクラスを引いたようだが、自分の学校生活はどうなるだろうか。クラス分けの紙を教員から貰い、それを見ながら自分のクラスへと向かう。配属されたクラスは1-C、紙に書かれた名前を見たところ、西園寺などなかなか珍しい名字がいくつかあった。西園寺、アニメでしか見たことはなかったが本当にいるとは。まあ、平和に過ごせればそれでいいけどね。
そんなことを考えながら歩いていると、どうやらクラスの前に着いたようで、教室の中を見ると半分ぐらいの人が、すでに座席に座っていた。ドアを開けて教室に入ると数人がこちらを見たが、すぐに視線を黒板の方へと戻した。
(ええと、俺の席は……)
教室の黒板に貼り出された座席表を見て、自分の席を確かめる。どうやら左から出席番号順に並んでいるようで、窓側からニ列目の前からニ番目の席が自分の席のようだ。確認した座席へと向かい椅子に座る。
(……静かだ)
座席に座り数十分が経過した。入学式開始まであと五分ということもあり、クラスメイトの大半はすでに教室にいる。しかし登校初日ということもあってか話しているのは数人だけで、あとはスマホをいじったり本を読んでいたりと、一人で何かをしている人がほとんどだった。
自分も周りと同じようにスマホいじって時間を潰していると、教室の前のドアが開きスーツ姿の男の人が入ってきた。どうやらこのクラスの担任のようで、手には名簿らしきものを持っている。担任が入ってきたことに他の人も気づいたようで、スマホや本をしまい担任の方へと目を向けた。
「皆さん、おはようございます。そして、入学おめでとうございます!私は三年間皆さんの担任を務めさせていただく、風宮薫です。よろしくお願いしますね」
ふむ、挨拶を聴く限りではまともな先生だ。見た目も普通、というよりかなりイケメンなのでは?これはなかなかいい担任を引いたのではないだろうか。そんなことを考えていると、入学式の連絡を担任の風宮先生が話し始めた。
「皆さんのことを知りたいのですが、まずは入学式を行わなくてはなりません。ということで、今から体育館に向かいますので、廊下に出席番号順に一列で並んでください」
風宮先生はそう言うと廊下へと出て行き、クラスメイトも廊下側の席の人から順に先生に続いて廊下へと出て行く。自分は窓側寄りの列の席なので最後の方に教室を出た。最後のクラスメイトが教室を出ると、風宮先生が教室の電気を消した。そして全員が列にいることを確認すると、先生は声をかけ我々を引き連れて体育館へと向かった。
体育館へと向かう間、列はとても静かだった。話したくても話せない、変なやつだと思われたらどうしようか。恐らくそう言う考えがあり、誰も話せないのだろう。かく言う自分もそうだがね。そんなことを考えながら歩いていると、体育館の前に到着していた。
体育館は白くて綺麗な外観をしており、中からは吹奏楽部の演奏だろうか、入学式でよく聞く音楽が聞こえる。既に前のクラスが体育館に入っているようで、保護者や教員たちからの拍手も聞こえてきた。
そしてしばらく待っていると、前のクラスが入るために止まっていた自分のいる列が進み始めて、体育館へと向かって行く。そしていよいよ体育館に入り、拍手を、祝福を受けて花道を歩いて行く。そして指定の席まで進み、横の列の人が全員揃ったら一斉に座る。これを何回か繰り返して、1-Cは全員着席を完了した。
他のクラスも同じ要領で座っていき、一年生のAからEの全五クラスの全員がこの体育館に着席した。気づけば吹奏楽部の演奏も止まっており、体育館は保護者の声しか聞こえてこない。その保護者の声も司会の人が話し始めると、聞こえなくなった。
司会の人が開式の言葉をの述べて、入学式が始まった。その後は校長先生の挨拶や生徒会長の挨拶、校歌などの項目を一通り終わらせて最後に司会の人が閉会の言葉を述べ、入学式は無事に終了した。
入学式終了後は各クラスに戻り各ホームルームで明日の予定を伝えられ、今日の学校での用事は全て終了した。自己紹介などは明日行うらしい。ホームルームが終了すると教室から次々に人が出て行く。中にはもう友人関係を構築した人間もいるらしく、一緒に帰って行く人たちがいた。コミュ力高いですね。
(……さて、俺も帰るかね)
見知らぬ土地と見知らぬ人に囲まれてとっても疲れた。今日はまっすぐ帰って英気を養うのがいいだろう。ゲームもやりたいし、自己紹介も考えないといけないしね。