大商会
街に入ってからは、エルナが案内してくれた。
何でも彼女の家は、王国でもそれなりに大きな商会を営んでいるらしい。
「…着いたわ。ここがスフィア商会よ」
「でっかい建物だな……」
その建物は話に違わず立派で、大きな邸宅のような様相を呈していた。
ギィ……
重いドアを押して建物に入る。
するとそこは大広間になっており、たくさんの商人たちが取引の話をし合っていた。
その奥に見えたのは受付なのだが、受付嬢はこちらをひと目見るなり驚いた顔をして奥へと駆けて行った。
エルナ、お嬢様だったのか…。
数分後。
「エルナ!!
どこへ行っていたんだ!!心配したぞ!」
こちらに向かって走ってくるのは30代半ばくらいのイケメンだ。
エルナのお父さんだろうか。
「…ごめんなさいお父様。
私……キール草を探しに森へ行っていたの。」
「キール草…?
エルナ、お前まさか癒しの霊薬を……?」
「…」
「はぁ…。
私だって見つけられるならとっくに見つけているさ。
王国屈指の大商会であるこのソフィア商会が国中血眼になって探しても見つからないのに、お前に見つけられるわけが無いだろう」
「でっ、でも…」
「気持ちはわかるがな、エルナ。
キール草は百年に一度しか生えないほどの霊草だぞ?
コルテアの森でも、最後に確認されたのは200年以上前だ。
おまけに長期保存がきかないときた。
……あまり私を心配させないでくれ」
「…はい」
そこまで言って、男はこちらへ向き直る。
「…それで、エルナ。こちらの方は?」
「この人はリク。
森で迷子になった私を助けてくれたのよ」
すると男は目を見開いて言った。
「なんということだ…!
あなたがエルナを助けてくださったのですね!!」
「え、ええ。まあ」
「本当にありがとうございます。
申し遅れました、私はソフィア商会副会長のベルグ=スフィアと申します」
「水瀬陸です」
そう言ってベルグと握手を交わす。
「リクさん、この御恩は必ず。
街にはエルナと一緒にいらしたんですよね?
宿はもうお決まりですか?」
宿か。忘れていたな。
と言うか俺、お金持ってないぞ……
「いえ、全く…」
「でしたらうちの客室をお使いください。
もちろんお代は頂きませんので」
「…良いんですか?」
「もちろん。娘の命の恩人ですから。
とは言え、こんなことで返しきれたとは思っちゃいませんがね」
さすが大商会とあって太っ腹だな…
ここはご厚意に甘えさせてもらうとしよう。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「お食事はメイドがお持ち致します。
何かありましたらなんなりとお申し付け下さい」
「ありがとうございます」
こうして、俺は商会に併設された特別客室へと案内されたのだった。
それにしても、エルナはなぜキール草とやらを探していたんだろうか。
明日、また話を聞いてみるとしよう。