少女エルナ
「うぅっ……」
泣いている少女に近づき、声をかける。
「君、大丈夫?」
「……っ?!」
俺の声が聞こえた瞬間、少女ははっと顔を上げ俺を見つめたかと思うと、いきなり俺の足に抱きついてきた。
ただならない様子で、先程にもまして泣きじゃくっている。
とりあえず、落ち着くまで待つとしよう。
…10分ほどして、やっと落ち着いてきたので、話を聞いてみる。
少女が言うには、こっそり家を抜け出して薬草を取りに森に入ったところ魔物と出くわしてしまい、逃げるために道を外れたら道に迷ってしまったらしい。
…やっぱりいるのか、魔物。
少なくとも、俺がコルテアに着くまでは出てきて欲しくないものだ。
「名前を聞いてもいいかな。」
「…エルナ。エルナ=スフィア。…あなたは?」
話し方は素っ気ないが、見た目の割にしっかりした言葉遣いの子だな。
話していると、さっきの涙が嘘のように大人っぽく見えてくるから不思議だ。
「水瀬陸だ。」
「ミ、ミナセ…??」
「ああ。陸って呼んでくれ」
「リク…聞き慣れない名前」
やっぱり俺の名前、こっちの人からしたら珍しいのかもしれないな。
「えっと、エルナはコルテアに住んでるのか?」
「ええ」
「それはちょうどいいな。俺も向かおうとしてたところなんだ」
それを聞いたエルナの目が大きく見開かれる。
「……道、分かるの?」
「ああ。地図があるからな」
そう言ってパネルの方向に目をやる。
さっきからパネルはずっと出しっぱなしにしているが、エルナが気づく様子はない。
つまり、このパネルは俺以外には見えないということだ。
プライバシー対策も万全とは。さすがは神様である。
「地図…!?
でも、もし地図があっても森の中までは分からないはず……」
おお、エルナ。なかなか鋭い所をついてくるな。
確かに地図があっても、こんな森の中じゃ意味を為さないだろう。
…それが、ただの地図ならな。
「少し特殊な地図なんだ。でも、心配はいらないよ」
そう言って誤魔化そうとする。
エルナは一瞬釈然としない表情を浮かべたものの、それ以外に頼るものもないのだろう、俺と行動を共にすることとなった。
―――数十分後。
「…本当にこの道で合ってるの…?」
「ああ。この方向に真っ直ぐ進めばコルテアだ。間違いない」
まだ疑念を持ってるようだがそれも仕方がないだろう。
なぜなら、当の俺が1度も地図を確認する素振りを見せずしきりに指で空を切っているのだから。
実際はパネルを操作しているのだが…
……あれ?コレもしかしなくてもヤバい人に見えちゃうんじゃ?
確かに、普通なら指で空を切りながら歩く謎の男になんてついていきたくないよな。
まあ、それを言うなら普通こんな森で迷子になんてならn……
ごめんなさいエルナさん。
そんな恐い顔しないでください。
――俺たちはそれから2時間ほど歩き、魔物と遭遇することも無く、なんとか日が沈む前にコルテアの街に到着することが出来たのだった。