クルサ
ちょっと遅くなりました!
アルフェーナがグラビトン公爵家に戻って更に五年が経過した。その間に義母であるアゾルカからたくさんの嫌がらせを受けたのだが、アルフェーナはどこ吹く風の如く受け流すというか、無視し続けた……訳ではない。
「アルフェーナちゃ~~~ん!!」
「あっアゾルカさ……むほっ」
屋敷の廊下を歩いていると、こうして抱きつかれている。毎回。
アルフェーナの記憶ではアゾルカが嫌がらせの犯人と思われていたのだが、実際は当時のメイド長及び数人のメイド、執事によるものだったらしい。メイドと執事の中には公爵とお近づきになるために、メイドと執事としてやって来る者もいるのだが、その者達が平民だが公爵であるチュザーレと結婚し、尚且つ子供まで産み、自分達より立場が上になったアルフェーナの母が気に入らなかったようだ。
アゾルカはただただ隠れ蓑にされてしまったようだ。
アルフェーナが公爵家に復帰してから数日たったある日にアゾルカから聞いたことなのだが、
「ごめんねアルフェーナちゃん、私のせいで貴女のお母さん、セネットを追い出してしまったわ。この通りよ」
「!!頭をお挙げくださいアゾルカ様!私は大丈夫です。母はわかりませんが、私はこうして生きているので問題ないです」
「いいのこれくらいしか貴女にしてあげられない。私ね、当時セネットに嫉妬していたわ。それでああなってしまった。だけどね嫉妬よりも尊敬や憧れの方が何倍も大きかった」
アゾルカは頭を挙げ、懐かしむように語りだした。
「しってのとおり私はしがない伯爵家の三女、ここには政略で嫁いできたわ。最初何で私なのかってたくさん思った、涙もたくさん流した。そんな私を、チュザーレとセネットが救ってくれた。チュザーレはわがままや甘えをたくさん許してくれた。伯爵家との関係のためだと思ったけど、公爵家が本気になればすぐにあんなとこ消えるから違うと思った。教えてくれたのはセネットだったわ。チュザーレはただ緊張してるだけっていってきたのよ」
アゾルカは口に手を当て笑った。
「彼ったらまだ女性を知らなくて、セネットにたくさん聞いていたらしいわ。セネットの悪ふざけでわがままと甘えを全部賛成しなさいって、それを聞いたら何でかおかしくって笑った。何日かぶりに笑ったわ。それから三人で何でもやった。たくさん怒られて、たくさん遊ぶ、それを繰り返していたわ。それもね長く続かなかったわ、チュザーレとセネットが結婚した」
「アゾルカ様」
「最初はものすごく嫌で嫌で嫌で嫌で、セネットを恨んだわ。だけどそれ以上に大好きな二人が結ばれて嬉しかった。だけど、私が知らないところでセネットは嫌がらせを受けていた。我慢していた。だから、だからあんなことになってしまった」
アゾルカは手で顔を覆い隠して崩れた。指の間から水滴が零れ落ちていた。
「相談して欲しかった、頼って欲しかった、何でもいいから助けてあげたかった。でもセネットは私達の前ではいつも明るかった、今思うといたたまれなくなるの」
「母はそういう人ですから。私の少ない記憶の中でも、いつも笑顔で明るくて、優しくて、苦しいはずなのにそれを隠していました。だからたくさん学んで、魔法も練習して、お手伝いをしたいと思っていました。だけどそんな日は永遠に訪れなくなってしまった」
「アルフェーナちゃんもういいのよ、チュザーレから聞いたわ、辛かったでしょ、その時ですら助けてあげられなかった私達を恨んでいるでしょ」
「いいえ、違いますアゾルカ様、確かに最初は恨みました、けど一番許せなかったのは自分自身だったのです。あの日々があったから強くなれました、あの日々があったから今日ここにいることができます、今は一応感謝します、恨みは少ししますけど」
「…………」
アルフェーナは少しはにかんだ。アゾルカは最後涙を流しながら聞いていた。手で覆い隠していないため、ドレスに染みを作っていたが気にしていなかった。
その後無言に耐え兼ねなアゾルカがアルフェーナの近況報告や魔術師としての力量、魔法のコントロール等々根掘り葉掘り聞き出した。アルフェーナも戸惑いつつ受け答えしていった。その様子をドアの外に立っていたチュザーレが聞き耳をたてていることを知らずに。
「よかったよアルフェーナ。アゾルカ、元気のなかったおまえがそんなに嬉しそうに話しているのはいつぶりかな、なんだがあの頃が戻ってきたようだよ」
チュザーレは昔のこと、セネット、アゾルカ、チュザーレの三人で遊んだことを思い出しながら執務室に戻った。
それから夕方までアルフェーナとアゾルカの話し合いは続いた。
それからアゾルカはアルフェーナに会うたび飛びつくようになった。一応時と場合は考慮しているのだが、五年たった最近はそれすらなくなりかけていた。
(お父様に相談しようかしら)
そう思っていると、アゾルカが一枚のチラシを見せてきた。
「ねぇねぇアルフェーナちゃん!これに参加してみない!」
「……武闘大会ですか?よろしいのですか?」
「チュザーレには今聞きに行くけど、もし出るならこの子供の方に」
「アゾルカ様、私子供と大人両方に出たいのですが」
「え?……ええ?だ、ダメよ大人は危ないわ」
アゾルカが驚き慌てて止めだした。でもアルフェーナもなかなか妥協せず、最後にアゾルカが折れてしまった。
アゾルカはとぼとぼ、アルフェーナは意気揚々とチュザーレのいる執務室に向かった。
「いやダメだろ?」
「「なんで!?」」
チュザーレはなに常識とは違う間違ったことを、然も当たり前のように言っているんだとばかりに普通のトーンてま返された。
「あぶな……くわないが、まだアルフェーナを世間に知られるのはだめだ。ちゃんとした舞台を整えているよだから、今回はなにがなんでも反対だ!」
「アゾルカ様、お父様もこういって言ますし今回はお止めに」
「ふっふっふっ!あなた、バレなきゃいいんでしょ?」
「「あっ…アゾルカ(様)?」」
アルフェーナとチュザーレは上手くまとまりそうだった雰囲気からの不穏な気配に不安になった。そんな二人のことは露知らず、アゾルカは自信満々に主張してきた。
「なら変装しかないわね!」
「アゾルカ様、そうは言ってもバレてしまうのでは」
「大丈夫よ。こんなときのために変化用の魔道具あるから」
「「…………」」
アゾルカは変装用の魔道具を次から次へと出してきた。まるで変装を極めるために持ち歩いているかのごとく。
(アゾルカ様は怪人二◯面相かルパ◯三世の生まれ変わりかも知れないわね)
アルフェーナとチュザーレが呆気に取られているうちにアゾルカは変装用魔道具を全部出し終えたようだ。
「あなたこれだけあればバレないでしょ?」
「…………はい」
もうチュザーレには屈する以外の選択肢はなかった。
「アゾルカ様、聞きそびれたのですが大会はいつですか?」
「二日後」
「「…………」」
急過ぎる期日にアルフェーナとチュザーレは項垂れた。
「あの、申し込みは終わっていますよね?」
「大丈夫よ。もう済ませているから。でも大人用は今から言わないとダメだわね、どうする?」
「…………無理ならいいのですが、出たいです、優勝をお二人に捧げたいので」
はにかみながら言ったアルフェーナの言葉に二人はとても嬉しかった。二人は最初の出会いがダメだったので、これからも許してもらえないと思っていたのだが、こういう言葉を言ってもらえてとても嬉しかったのだ。たとえ心の奥底で嫌われていたとしても。
当の本人であるアルフェーナは本当に気にしていなかった。それよりもアルフェーナはアルフェーナで二人に嫌われているのでないかと同じ事を考えていた。
端から見ると中のいい似た者親子である。
「それなら今すぐ登録させるよう手配するわ」
「アルフェーナは特訓するかい?私でいいなら手伝うが」
「ありがとございますアゾルカ様、お父様。特訓に関しては大丈夫です。お父様はお忙しいのに時間を割いてくださりありがとございます。アゾルカ様も何から何までありがとございます」
「いいのよ気にしないでアルフェーナちゃん。それと、出来ればでいいのだけど、優勝したら私のお願い一つ聞いてもらっていい?」
「?はいよろしいです」
アゾルカは感謝を述べると、登録のため退室した。
アルフェーナもチュザーレにもう一度お礼を言ってから退室していった。
そして武闘大会当日になった。アルフェーナとアゾルカが数人の使用人と馬車に乗り会場に向かった。窓の外を見ると、普段より冒険者の数が多いように思えた。アルフェーナは【竜帝】アジトに向かうなか、市街地を通っているのでその時見る今よりも混んでない状態を知っているので比較していた、両方の意味で。
「かなり混んでいますね。でも見た感じ負ける要素はありませんね、今のところは」
「あらそうなの?私は強さとか見分けることが出来ないから、見た感じはみんな強そうだけど」
「見た感じだけですよアゾルカ様。ここらにいる者は見栄を張りたい奴等のみですね。会場に近づくにつれ強くなっていってほしいものですが」
アルフェーナの懸念はさておき、会場に着くまで二人はたわいもない話をして。馬車からは優しい笑い声が何度か響いた。
しばらくして会場に着き、アルフェーナはアゾルカ達と別れ、最初に行われる子供用の控え室に向かった。向かう最中、廊下を歩いていると大会服を着た、同い年くらいの肩口に揃えられた赤髪の出るとこが適度に出ている少女が歩いてきた。二人はただすれ違っただけだった。それだけで二人はわかってしまった。二人は力量をすれ違っただけで、この出会いは偶然なのかもしれない、だけど出会った。
後ろからアゾルカが追い付いてきた。
「待ってよアルフェーナちゃん~」
「アゾルカ様、先程すれ違った、私と同い年位の少女誰だかわかりますか?」
「さっきの?……あぁ!あの子はアルフェーナちゃんと同い年のクルサ・セル・ファンデーラ。ファンデーラ伯爵家の次女だったはずよ」
「クルサ・セル・ファンデーラ」
アルフェーナは振り向きつつ、確かめるようにクルサの名前を呟いた。
クルサは悠然と歩いていた。それはまるでアルフェーナの如く。何者にも縛られないというかのごとく、力強く。
(なんか、気にくわないわね)
アルフェーナが思ったのはただの同族嫌悪だったのだが、この時のアルフェーナはこの気持ちがなんなのかわからなかった。アルフェーナは気持ちを振り払うかのように控え室に向かった。
これが後に生涯の親友の1人、クルサ・セル・ファンデーラとの開口だったのだが、アルフェーナも、クルサもまだ知らない。
新キャラクルサ、よろしくです!




