2年後
よろしくお願いいたします!
【竜帝】設立からはな2年が経過した。
アルフェーナの姿はスラムの家……ではなくグラビトン公爵家の屋敷にある個室の中にあった。
「何度見ても見慣れないわね。私がまたここに戻ってくるなんて思いもしなかったから」
アルフェーナは机に肘をつき物思いに更けながら呟いた。
このような状態になってしまったのには訳があり、話は三日前に遡る。
◆
2年前に【竜帝】設立宣言を行った直後、一週間もしないうちに別の犯罪組織の構成員が数多くグラビトン公爵領にやって来た。アルフェーナ達はそれに片っ端から喧嘩を売り、時には見逃し、時には皆殺しを続いていった。
その際で良くも悪くも眼を付けられるようになった。良い方はまだ静観していてくれたのだが、悪い方が実戦部隊を投入してきたのだ。
その情報はすでに知っていたのでアルフェーナ達は難なく殲滅。それからも怒濤の勢いで殲滅を繰り返し、後に先鋒と交渉し下につくか徹底抗戦か話し合いをしたのち、下についた者たちにはパトロンになってもらった。徹底抗戦したものは一人残らず滅殺していった。
そんな事を2年間やり続けた結果、【竜帝】はアルガルネーゼ内で五本の指に入るくらいの巨大な組織となった。
当然、ゼンドル達も大幹部となり古参や新入り、新人の教育振り分けで忙しい毎日を送っていた。
まずゼンドルは実戦部隊『竜牙師団』を、クラムも実戦部隊『竜爪師団』を、ミーゼが諜報部隊『竜眼師団』を、トリソウが商会『竜尾』を運用していた。名前があがらなかったセルネは、アルフェーナ補佐兼暗殺部隊『竜血衆』を運用していた。
それぞれやることは違えど、最終的目的は『アルフェーナに手を煩わせない』を行っていたが、大規模抗争時はどれだけ止めても戦闘に立ち引っ張っていた。
本人はただ暴れたかっただけかもしれないが、それを後ろから見ていたメンバーは尊敬しときには恐怖し、それ以上の憧れを抱いた。そうさせるだけのことをアルフェーナは見せ続けた。
そのお陰なのか、【竜帝】は大きくなっていき、今も大きくなり続けついるのだ。
その一方、アルフェーナは2年で劇的に変わった!……ということはなく、机の上に積み上げられた書類の処理に黙殺されていた。
五歳になり成長してはいるが、その身長の倍もある書類の山が数個周りにあり注目を集めたが、なによりも五歳にしては整った顔、すらりとした体、白銀の髪は肩甲骨まで伸び、藍色の瞳は目の前の山を写しながら光を失っていた。
「やっぱり事務仕事できる子、生み出すか探すしかないかぁ~」
「はい、そうしなければ計画前に私達が、ストレスで倒れてしまいます」
アルフェーナは手を動かしつつ呟くと、斜め向かいの机で作業しているセルネが答えてくれた。
「でもあの子達が役に立つようになるまでかなりかかるわよね」
「はい。なにせ最近始めたばかりですから」
「はぁ~」
アルフェーナは深い溜め息をついた。
先程アルフェーナとセルネが言っていたあの子達とは、スラムの子供達のことである。アルフェーナはスラムに小さいながらも学校を作ったのだ。もちろん、支配下に置いてあるスラム全部に。理由は今のうちに教養をある程度学ばせ、未来に向けておくを年頭に置いているとともに、事務を出来るものを増やすためだ。今でこれ程なのだから、これからもっと増えていけば外からの攻撃より内から崩壊してしまうためである。
……まぁ今も崩壊寸前なのだが。
なのでアルフェーナとセルネは書類に埋もれながらも頑張っていた。その時、なにやら外が騒がしくなっていった。
「?何かしら?……誰か来たみたいだけど、今日って……」
「はい。面会の約束は入っていません……どうやら貴族が来たみたいです」
「貴族?どこの……と言わなくてもいいわね。……通しなさい。お父様とお会いするわ」
「…………了解しました。……おい、姫が通せとのことだ」
セルネは渋々承諾すると、通信用の魔道具を使い、下にいた部下達に通すよう指示を出した。
「失礼しますお嬢、貴族様をお連れしました」
「入っていいわよ」
「はっ」
しばらくして、部下が貴族……父のグラビトン公爵を連れてきた。
「アルフェー……」
「ようこそグラビトン公爵様、今日はどうなされたのですか?」
「っ!」
実の娘に他人行儀にされ、歓迎もされていないと悟ったグラビトン公爵は、悔しさと悲しさ、苦しみが合わさったかのような苦々しい顔になり俯いた。
しばらくそのままでいたが、深呼吸をして覚悟を決めると口を開いた。
「現グラビトン公爵家当主、チュザーレ・フィン・グラビトンが願う!我が娘アルフェーナ・フィン・グラビトンに公爵家への復帰を!」
「…………わかりました。戻りましょう」
「姫」
「アルフェーナ」
「ただし条件があります!」
チュザーレはアルフェーナが素直に戻ってくれることを嬉しく思ったが、いきなり条件を付けられて驚いた。
セルネはこの流れがわかっていたかのように、やれやれと肩をすくめていた。
「条件とは?」
「それはね…………」
アルフェーナはチュザーレに公爵家に入ってしまってはかなり無茶になってしまうようなことを伝えた。
アルフェーナは嫌らしい笑みを浮かべていると、
「…………わかった。その条件を呑もう」
「っ!」
今度はアルフェーナが少なからず驚いてしまった。それはアルフェーナ自身が呑まないと思っていたからだ。
「いいの?自分で言うのもなんだけど、かなり無茶に思えるけど」
戸惑うアルフェーナに、チュザーレは微笑ましそうにしていた。
「今まで何もしてあげられなかったんだ。この程度なんともない。もっとも一番の理由は……可愛い娘の頼みだ」
「…………バカ」
アルフェーナは恥ずかしかったのか頬を紅く染めた。チュザーレも恥ずかしかったのか頬を掻いた。
「それに、これはさっきも言ったが願いだ。願いが叶っているのにそれを棒に振りたくないからね」
「…………わかった。でも条件は変えないから」
「あぁわかっている」
それからアルフェーナとチュザーレは公爵家に復帰してからのことや、復帰により引き起こる問題等について話し合った。
話し合いは夕方まで続いた。
「いい時間だろ。私は戻らせてもらうよアルフェーナ」
「はいお父様お気を付けて。二日後にまたお会いしましょう」
チュザーレは頷くと部屋を出ていた。馬車が走るのを確認するとアルフェーナは口を開いた。
「ごめんねセルネ。勝手に決めてしまって」
「何を言うんですか姫。姫は姫がやりたいことをやっていけばいいのです。細かな雑事は我々にお任せください」
「条件の通り、定期的に来るわ。書類は持っていけないけど、アレは持ってきて」
「わかりました」
アルフェーナとセルネは少しの間たわいもない話をした後、書類仕事に戻った。
次の日は屋敷にいる部下達に荷物をまとめるように指示をして、仕事をこなしていった。ちなみに幹部や古参メンバーにはすでに伝えており、行ってもいいと残ってほしいが半々だったのだが、ミーゼ以外の幹部達の必死の説得により、なんとか収まった。
仕事を終えたその日、細やかながら宴会を行ってくれた。今集まれる古参メンバーが来てくれていた。宴会は朝まで続いた。
「お前らやり過ぎ」
「「「「「「ずびばぜんお嬢(姫)!…………うぉえええええええええ!」」」」」」
次の日というより今日、宴会からちょくでアルフェーナは着替えをして玄関に向かうと幹部他メンバーが見送りのため並んでいた。泣くのと吐くのを両立しながら。屋敷の玄関は汗と涙と鼻水と吐瀉物で酷い有り様になっていた。
「はぁー、まぁありがと。ちょくちょく帰って来るから。その間よろしくね」
「「「「「「はい!!」」」」」」
アルフェーナが嬉しそうに頷くと、馬車がやって来るのが見えた。しばらく待つと、馬車はアルフェーナの前で止まり中から妙齢の執事が降りてきた。
「お初にお目にかかりますアルフェーナ様。私はグラビトン公爵家執事長のモルトと申します。以後お見知りおきを」
「えぇよろしくね。荷物はこのバックのみだから……それじゃねみんな。暫しの別れよ」
「「「「「「いってらっしゃいませお嬢(姫)!お気を付けて!!」」」」」」
アルフェーナはバックを手にして馬車に乗り込み出発した。
それからアルフェーナは外の景色を見ながら初めての馬車の移動をしていたら、いつの間にか屋敷に着いていた。どうやらかなり集中していたようだ。
モルトがドアを開けてくれて降りると、堂々としながら屋敷の玄関に向かった。
玄関に到着すると、勝手にドアが開いた。中からメイドが開けてくれたのだ。そのまま入っていくと、中はきらびやかだった。
アルフェーナはしばし呆けるも、直ぐに気持ちを切り替えた。
(貴族なんだからこれが普通なのよ。スラムの屋敷とは違うんだから気を付けないと)
少々恥ずかしながら玄関前広間のところにメイドが立っていた。
「お待ちしておりましたアルフェーナお嬢様。当主様のところにご案内いたしますのでどうぞこちらに」
「えぇわかったわ」
アルフェーナはメイドに連れられて二階に上がっていき、突き当たりにある部屋に案内された。
「こちらが執務室になります。中で当主様がお待ちしております」
アルフェーナは感謝を述べ、執務室に入ると中ではチュザーレが仕事をしていた。
「ノックも出来ないのか、それに私は仕事中なのだ。急ぎでないなら後にしてくれ」
「ずいぶんな物言いねお父様」
「お前誰にく…ちを……聞いて………えぇ?アルフェーナ?なぜここに、来るのは昼からでは」
「何いっているのよお父様。馬車まで用意しているんだから早くこれるじゃない」
「馬車の用意?私は手配なんてしていないぞ?…………アゾルカか、好き勝手やりおって」
どうやらチュザーレが用意したものではないようだ。詳しく聞くと、アゾルカとは現正妻、アルフェーナの母の後妻のようだ。アルフェーナは幼少からの記憶をずっと維持しているので、最後に屋敷を出るとき嫌みな顔をしていた女のことを覚えていた。
アゾルカはアルフェーナ妊娠前から嫌みや陰湿な嫌がらせをしていたようだ。チュザーレも注意するもその度にエスカレートしていったようだ。
そして出産後に家を追い出されたのも、妊娠直後から裏で手を回していたアゾルカによるものらしい。
アルフェーナ母が追い出された後、今まで抑制していたものを放つがごとく好き勝手しだしたらしい。
「すまないアルフェーナ。ほんとは根がいいやつなんだがお前の母と比べられ続けて少し……な」
「わかっているわそれくらい。でもやり過ぎは勘弁だから、私の限界点越えたら……うふふ」
「なっ…なななななにするきだ!」
「ちょっとしつけるだけよ…………ちゃんとした性格に戻してあげる」
最後をチュザーレに聞かれないよに小声で呟くと、改めてアルフェーナはチュザーレに向き直った。
「お父様、アルフェーナ・フィン・グラビトン、ただいま復帰いてしました」
「おめでとうアルフェーナ。不便かもしれないがよろしく」
それからしばらく近況報告やたわいもない話をした。
かなり年が経過するやも?




