スラム街
よろしくお願いいたします
アルフェーナが森の山賊を手中に納めてから一ヶ月が過ぎた。この日アルフェーナは森ではなく久方ぶりにグラビトン領のスラム街に戻ってきていた。現在は一人でスラムを歩き回っていた。
しばらく歩き回ったあと、目的の場所に向かった。そこはスラムの中央付近にある住宅地にある少し大きめの二階建ての家だった。アルフェーナが近づいていくとドアの横に座っていた男性が声をかけてきた。
「嬢ちゃん、ここにいったいなんのようだい?」
「会いたい人がいるの、会って話したい人が」
「……悪いが引き取ってくれ、嬢ちゃんの探している人はいないよ」
「えぇー、二階の中心の部屋にいるのに?」
「っ!!ますます入れれなくなったよ。……っとその前に嬢ちゃんの人生が終わっちまったが」
男性の言葉の意味がわからず首を傾げると、後ろから声をかけられた。
「お嬢ちゃん、こっちに来てもらっていいか。な~にすぐに終わるか……」
言い終わる前にアルフェーナが後ろにいた十人のゴロツキ達を氷漬けにした。
「ひっ!」
集団の誰かが悲鳴を上げた。他の者は胆力があるのではなくただ呆然と現実を認識できていなかった。
「うふっ、死んじゃえ《アースニードル》」
「ぐっぺぇ!」「ぎゃっ」「かぶひょ」「ひっにげながぁあ」
アルフェーナは立ち尽くしていた集団に、地面から無数の針を生み出し刺し貫いていった。蹂躙はものの数秒で終わり、次のターゲットとして門番の男性に向き直った。
「……まっ……待ってくれ。通す……通しますんでどうか命だけは」
「…………いいわよ。ありがとね通してくれて」
門番の男性は助かったと思い深く息をはいた。
「ちなみにだけど……隠し通路は塞がせて貰ったからさっきもらった念話は間違いなんだよねぇ~」
「……な……なぜ念話のことを。それに間違いって」
「さぁなんででしょ。それと嘘付いた罰はクラムに任せるわね」
「了解お嬢」
門番男性が背後からした声に振り向くと、アルフェーナに下った五十歳頃の山賊ボス男性ークラムが立っていた。
「なんだてめぇ!」
「…………遅せぇよ《マッスルウェポン》《アームズアイアン》」
門番男性が腰の剣に手を付け振り向き様に斬りつけようとする前に。右腕に強化を施して思いっきり殴った。当然死なない程度に。
「ぐはぁ!」
「行ってくれお嬢、ここは俺らが」
「うん、それじゃよろしく……うふふっ……いい子だといいなぁ」
クラム達に門を任せて、アルフェーナはスラムのボスのいる部屋に向かうため家の中に入っていった。
◆
(何を間違えたらこんな化け物と対峙する嵌めになったのやら。私も耄碌したのやら)
青年は机に肘をつき深く溜め息を付いた。この人物こそ、グラビトン領のスラムを統括する元締め、セルネだった。
セルネは現在廊下から聞こえる呻き声と通路側の壁が軋む音に肩を落としていた。
セルネは最初、ただの命知らずが喧嘩を売りに来たのかと思ったがそれは見当違いだった。来たのは命知らずではなく一人の少女、の形をした化け物だった。
まず驚いたのは屋敷全体に張り巡らされた対人用侵入者魔力感知の結界と殺傷用の罠が何も感知しなかったことだ。セルネを含め何人かの側近が目撃するなか入ってきたのを確認したにも関わらず、結界と罠は反応を示してこなかった。
次に自分達の魔力感知を行って確かめてみたが、アゼとトル同様感知されなかった。ここに来てセルネ達は自分達が何と対峙しているのかわからなくなってしまった。
考えている最中、階段の軋む音が聞こえてきて、続けて罠が発動した音が聞こえてきた。
どうやら熱源や対物の感知には引っ掛かるようだ。だけど足音は止まらず階段を突破、セルネがいる二階に到達した。
二階には、用心棒数十人がひしめきあっており、少女がすがたを現すと一斉に向かったようだ。そして普通は喧騒で聞こえるはずのない少女の声が鮮明に聞こえてきた。
「《グラビティコントロール》」
魔力感知で見ていたセルネはただいま起きた現象がわからなかった。用心棒が向かい少女が何かの魔法を使ったとき、最初に用心棒全員が体重が無くなったかのように浮き上がると、次の瞬間に壁、床、天井に叩きつけられた。まるでそこに引っ張られているかのように。
少女はただ悠然と何事もなかったかのように歩き続け、セルネがいる部屋に到着した。
「失礼するわね」
返答する前に扉は開かれ、少女は部屋に入ってきた。
「初めまして小さなお姫様。私はセルネ、この屋敷の主だ」
「初めましてセルネ、スラムを統べるものよ。私はアルフェーナ、今このスラムを制圧した山賊達のボスよ」
(やはり!それに制圧だと?)
「そんな情報は届いていませんが」
「それは私が届かないように細工してあるからね。……まぁ私ってより部下達がだけど」
セルネはただただ項垂れることしか出来なかった。制圧されたことではない、こんな少しの時間で制圧されてしまうくらい相手に情報を調べられていたことにである。
「私の負けは決まっていたということですか」
「そゆことー、長話もこれくらいにして用件を言うね。……私の下に付きなさい。奪われない、奪い続ける人生と見たことのない光景を見せてあげる」
アルフェーナは力強くそれにて優しい笑みを浮かべてセルネに手を差し伸ばし、高らかに宣言した。
セルネは最初、ぽかーんと口を開けて呆けていたが、次第に口を綻ばせ、声高らかに笑いだした。
「……くくっ……くははっ……ははっ、ははははははっ、はぁははははははははははは!!」
「…………返答は?」
「……もちろん受けますよ!えぇ!こんな面白そうなこと受けないわけがありません!それに……貴女が作る光景を間近で、出来ればいっしょに作りたいですね」
聞きように取っちゃプロポーズなのだが、アルフェーナは気にする素振りのもなく、
「ありがと、だんどりとかは明日決めるわ。その前に伝えたいことがあるのみんなに」
「みんな?」
アルフェーナはそういうと手を前にかざした。すると液晶画面のようなボードが現れ、無数の顔が現れた。
「これはなんだ!?なにが起こって」
「みんな、こっち終わったから今日は解散~。ゼンドル達とあの~……誰だっけ……そうそう!西の頭の人は明日ここに集合ね。遅れたらお仕置き~」
「「「「わかりましたお嬢」」」」
「「「「お疲れさまでしたお嬢」」」」
「「承りましたお嬢」」
「お嬢様にお仕置き……はぁはぁ……いい、でも大事な集まり……でもお仕置き……集まり……あぁ悩ましい!」
山賊ボス二人と構成員はちゃんと頭を下げ挨拶をして映像が消えていったが、ボスの一人であるミーゼが頬染め体をくねくねさせて悩んでいた。そして一向に映像が消えなかったので、先程の映像を見なかったことにするためアルフェーナが静かに映像を切った。
「…………さてと、それじゃ明日ここに来るから逃げちゃダメだからね~」
「逃げませんよ。いつでも待っていますよ姫」
「…………ふ~んそう、ならよかった」
アルフェーナはセルネ達を見据えながら笑顔で語りかけたあと、踵を返して扉に向かい、
「バイバイ~」
手を振って部屋を出ていった。
「……はぁー、まさかこんなことになるとは思いもよりませんでした」
「セルネ様よろしいのですか?彼女を殺せれば他の奴等、山賊共はただの烏合の衆、殲滅は可能です」
先程から声を出さずセルネの右隣に立っていた男性、副官のカットが提案してきた。
「…………確かに山賊達なら対処は簡単です」
「なら!」
セルネの返答にカットが声を荒げて捲し上げた。
「ただしそれはあの姫を殺せたらの話です。そんな事不可能です」
「…………確かに正面からは無理です。だったら暗殺で」
「それこそ無理でしょう」
「なぜです!」
カットはセルネが何をそんなに怖がっているのかわからなかった。先程の話し合いもなぜ下手に出ているのかわからなかった。確かに用心棒全員を制圧したのはすごい。だが、それなら搦め手、この部屋に設置している数々の罠を使えばいいと思っていた。
はっきり言ってカットは文官過ぎて力量を測ることや、魔法の酷使時の実力の計り方をわからなかった。だから気づかない、アルフェーナがどれほど精練された魔法の使ったのか、膨大な魔力量が、そして何より、アルフェーナが終始セルネ達に放ち続けた凶悪な殺気と、
ズドンっ!
と音が聞こえるのではないかというほどのプレッシャーを。ある意味幸運だったのだろう。並の人間なら意識を手放すか、発狂死レベルだったのだから。
「なら貴方が独断で行ってください。私は絶対に関与はしません。……そうですね、もし暗殺が成功したら……この椅子を差し上げますよ?」
セルネはそういって自分が今座っている椅子……遠回しにスラム統治者の椅子をあげるといった。
「っ!!?それはまことですか!」
当然カットはその事に気付き、眼を見開きながら訪ねた。
「えぇ、成功したらですが……まぁ成功なんてあり得ませんが」
「…………ははっ、これで私がここの……こんな簡単なことで……はは、笑いが止まらないな……ははははははっ」
セルネの呟きにカットは気付かなかった。カットは自分が統治者になった光景を妄想して酔いしれていた。
(はー、やれやれ頭はいいのですがこと戦闘に置いてだけ無能、例え暗殺が成功し、統治者になったとしてもすぐに殺されるでしょうね。はぁー、姫に対しての弁明を考えておきますか)
セルネはもう一度深く溜め息を付き、明日起こるカットの暗殺失敗及びアルフェーナに対しての弁明を考え出した。
次回は組織名が決まります。
幸ご期待




