王都騒動
ちょいと遅れました
聖女が飛び去ってからしばらくして会場内は怒声に包まれ出した。
それをつまらなそうに見たアルフェーナは出入り口に向かって歩き出した。
「ちょっ待ってよアルー」
上から声がして向くとクルサが飛び降りてきており、正面に着地した。
「やっぱりなにか知っているわね。ねぇ面白いとこ教えてよ」
クルサが無邪気さと好奇心を滲ませた顔を近づけてきた。アルフェーナは当初とは違うやり方でクルサを連れ回すことにした。顔はめんどくさそうで溜め息を出ていた。するとまた上から声がしてきた。
「アルフェーナ、気を付けるんだよ!私達は中央広場に向かう」
「アルフェーナちゃん、クルサちゃん、後で合流しましょう」
チェザーレとアゾルカが心配など皆無といった感じで叫んでいた。
「わかりました、後程合流いたします!」
「ご心配ありがとうございます!」
アルフェーナとクルサは答え駆け足で会場を後にした。
廊下を走るなか、クルサに裏組織のことを伝えず協力者が案内してくれると伝えると、
「アルは一緒じゃないの?」
「街中にいるやつらはクルサでも大丈夫だけど、あいつは私じゃないとだめでしょ?」
「あいつって……さっきの聖女?……ならあた…………いや無理か、アルじゃないとだめね。今回は譲るわ」
「ありがと」
どうやらクルサは聖女との力量差に気づいたようだ。先程の聖女は隠していたはずなのだが、流石である。
「なら早くいきましょ。どうやら外も騒がしくなってきたみたいだしね。二つの意味で」
「そうねアル、うへぇー感知にビンビン引っ掛かるんですけど」
しかめっ面のクルサと一緒に外に出ると辺り一面黒く塗られたかのようになっていた。
「台所の……」
「確かにそうだけど、それ以上言わないで思い出すから。それに悪魔は悪魔でもこいつらは下級よ」
クルサの言葉をアルフェーナが遮った。
だがクルサがそう例えるのも無理はなかった。下級悪魔、見た目は黒紫色の肌に子供より小さめの体で羽が生えている格好だ。それが辺り一面に飛び回っているのだ。遮られて見えないがどうやら襲われている者達がいるらしく悲鳴が聞こえてきていた。
「ゲェギャッ、ゲゲェキャッキャッキャッ!」
『ゲキャゲキャゲキャ!』
アルフェーナとクルサを見つけた下級悪魔達が下劣な笑い声と共に迫ってきた。
「邪魔」
「くんな」
アルフェーナは手を振り目に見える下級悪魔を氷漬けに、クルサは手をかざし正面を爆炎で消し炭にした。
「ちょっとクルサ、まだ生存者いたらどうするの、それじゃ助からないじゃない」
「大丈夫大丈夫ちゃんと確認したから、そっちこそ相変わらず精密ね、最早変態よその精密差」
そんな風に話していると、通りから近づいてくる人影があった。
「……い……ーい…おーい!お前達か案内するのは……」
中年の男性がやって来た。どうやら案内人のようだ。
「いえ、案内はこっちだけです」
「はいー、よろしくお願いしますー」
「あっ、あぁわかった。それよりこれをやったのはお前達か?」
周りの現状を見ながら男性が聞いてきた。
「えぇそうよ」
「ちょっと目障りだったから」
「そ、そうか」
アルフェーナとクルサの答えに男性は顔をひきつらせ頷いた。
「じゃあねクルサ、また後で」
「オッケー、後でねー」
ここで二人は別れアルフェーナは一人で、クルサは連れられて街中に向かった。
●
「邪魔邪魔邪魔ぁーー!」
『グギャアアアアアアッ!!』
クルサは四方八方に炎を撒き散らし辺りの下級悪魔をことごとく消し炭にしていた。額には青筋が浮かんでいる、相当苛立っているようだ。なぜなら、
「たくなんなんだよてめぇらっ!てんで歯応えがない、こんなの虫に殺虫剤かけてるようなもんじゃない!」
そうなのだ、悪魔はクルサの相手、戦うすらされていなかったのだ。クルサとしてはただただスプレーを見えるのに噴射するだけのことをしている程度にしか思っていなかった。
訂正するならば、下級悪魔はそんなに弱くないし、消し炭にしていたなかには中級も混ざっていたりする。
下級悪魔一体の力は街中にいる新米兵士一人分くらいはあるはずなのだが、そうとは知らないクルサは今も向かって来る下級悪魔を消していた。
「はぁー、確かにこの規模は危ないけどこんなんだけで王都が落ちるわけないしな。他になにかいるのかな?」
「……貴様か、我が部下達を消し去るものは」
クルサは声がした方を振り向くとそこには、高級そうな黒のタキシードを着て、背中から羽を、頭の左右から角生やした高齢のダンディーな雰囲気を醸し出す男が浮かんでいた。
「へぇー、ねぇお爺さんお名前は?私はクルサ」
「ふんっ、死ぬものに名などいうわけが……っ!」
男がしゃべっている最中にクルサは跳躍して接近、ドロップキックをみまってやろうとしていてのだが直前でかわされてしまった。
「あらかわされた。当たると思ったのに」
そう軽口を叩きながらクルサはゆっくりと落下していった。それが癪にさわったのか男が声を荒げた。
「貴様っ!名を名乗れ!」
「さっき言ったと思うのに……まいっか!なら改めて」
着地と同時にクルサは腰を落として、半身になり右手を握りしめ腰に添え、左手は手刀にして顔の前に持ってきて構えた。
「私はクルサ。クルサ・セル・ファンデーラ、ファンデーラ伯爵家次女よ」
「悪魔王が一柱憤怒のサタン様直轄軍第5師団、第8部隊部隊長フーラだ。この敬愛なる名に敬意を持って死んで行け」
「ふーん、敬意とかなら持って上げてもいいけど……死ぬのはいやだなっ!」
名乗り上げるやいなや激突した。
●
「はぁああああああああああああああっ!」
「どりゃあああああああああああああっ!」
街の一角でベレンナとプラートが叫び声を上げて迫り来る下級悪魔の波と戦っていた。
「くそったれ!悪魔どもめ、どんだけいやがるっ!」
「喋る暇あんなら手動かしなさい!いくら下級だからってこんな数、ランク7級よ、今の私達にはキツいわ!」
「そうだなっ!」
ベレンナとプラートはそれぞれ冒険者としてのランクは現在最高峰の8であった。
冒険者のランクは1~10まである。ランク9と10は英雄か勇者に与えられるものなので普通では与えられない、なので現在ランク8が最高ランクとなっていた。
そのランクにいる二人であったが、試合後ともありかなりの消耗をしているため、厳しい状況だった。
「くそっ、このままじゃ」
「呑み込まれる!」
プラートとベレンナな苦々しく呟いた直後、殺気だって向かっていた下級悪魔達がいきなりあさっての方向を一斉に見た。
「なに?あっち方に何が……っ!」
「あっつ!なんだこの強烈な熱波は!……どこかのバカが広範囲の炎魔法使いやがったのか!」
プラートの叫びをベレンナは静かに訂正した。
「どこかって言うより5区画離れたところにいる人物がだね」
「はっ!?5区画だと、そんなところから来るわけ……」
プラートはベレンナを見るやいなや口をつぐんだ。ベレンナの表情が物語っていたからだ。
「……そんなにヤバイのかそいつ」
「ヤバイなんてもんじゃないけど、その人?と戦っているやつが普通にヤバいのよ。……この感じ、多分上級よ」
「上級?……まさか、上級悪魔かっ!そんなやつまで出てきているのかよ!……待て、まさかこの熱波のやつ、上級悪魔と渡り合っているのか!」
「渡り合っているでいいと思うわよ」
「マジかよ……そいつが冒険者だとすると最低で8、勇者とまで行かないと思うから英雄、ランク9かもな」
「えぇ」
二人は目の前で起きている非常識に唖然とするしかなかった。
悪魔には下級、中級、上級、始祖級と別れている。始祖級はまず出てくることがないのでいいのだが、普段現実に召喚されるのは下級が主なのだが、ごく稀に中級と上級が召喚される。中級は騎士団中隊規模の力があるが、上級は別格だ。一体で国を相手取り滅ぼすことすらできると言われている。討伐記録すら数百年前を皮切りに報告されていないほどだからだ。
だからそんな化け物と戦っている者、その者に驚愕し、そして尊敬してしまうのは当たり前のことだった。
だからなのだろう、そいつの接近に気が付かなかったのは。
「おいおい、フーラのじっさま本気じゃねえかよ!このまんまじゃこの国が消えちまうぜ」
「「!!」」
突如後ろから聞こえた声にベレンナとプラートは勢いよく振り向いた。
「貴様」
「てめぇなにもんだ」
ベレンナとプラートがその男に質問した。
「あぁ?俺は悪魔王憤怒のサタン様、直轄軍第5師団第8部隊副隊長、ドトルだ。短い付き合いになるがよろしくな」
「悪魔王直轄軍だと!?」
「そんな大物まで出してきて、【邪神教】のやつら、いったい何がしたいんだ!」
ベレンナとプラートが取り乱すなか、中級悪魔ドトルは少し呆れていた。
「おいおい人間、名前を言ったんだからお前らも名乗るのが筋ってもんじゃねえかよ」
「っ……悪魔に名乗る名など……」
「そいつもそうだ」
「……お、おい」
プラートの素朴な答えにベレンナが肩を落とした。心なしか少し呆れているようにも見える。
「そんじゃ自己紹介だわ。……【カフデス教】司祭にして冒険者ランク8、武闘神官のプラートだ」
「くそ……バカなのかこいつら、はぁー……処刑一族ボパル伯爵家長女、アルガルネーゼ王国騎士団所属、冒険者ランク8、処刑騎士ベレンナ・セル・ボパルだ」
名乗り終えたあと三人はそれぞれ構えた。
「「「ゆくぞっ!」」」
叫ぶと同時にベレンナとプラートは疾走し、ドトルは滑空して衝突した。
●
「いやはや大変なことになってしまいましたね」
「はぁー何を呑気に言っているのだお前は」
あちこちで火の手が上がり、黒煙が立ち込め、更には下級悪魔が空を覆いつくすほど飛び回っている王都の区画、その屋根に二つの人影があった。
ミーゼとセルネだ。二人が軽口を叩きながら街を見下ろしていた。不自然なことに、人間がいればみさかいなく攻撃する下級悪魔達が二人を無視していた。しかも、当たりそうになると避けもしているのに、まるで二人に気がついていなかのように、無意識に避けているようにしているのだ。
だが下級悪魔はよくても、
「貴様ら何者だ。ここで何をしておる」
「しかもなんで雑魚どもにたかられてねぇんだ?しかも避けられてんぞ?あり得るか」
空中より声が聞こえたのでそちらを向くと悪魔が二人飛翔していた。
「おやおや、見つかってしまいましたよ」
「普通見つかるわよこんなとこいたら……どうやら中級ね、手頃よ上級だったら死んでたわ」
「その上級を当てないためのクルサ様ではなかったですか」
セルネが軽口を叩き、ミーゼがツッコミ分析する。そんなことをしていたら、最初に喋った、メガネをかけたインテリ風の悪魔が怒気を滲ませ言った。
「貴様らぁ、俺達を前によくそんな態度を取りやがる。なめてんのかぁ……あぁ?」
それに対してセルネが答えた。
「いえいえなめてなんかいませんよ、ただおちょくっているだけです」
ビキッ……とインテリ風が額に青筋を浮かべだした。シュラリ……と腰に帯刀していた剣を抜き構えた。
「よかろう、その盲目さ死して償え我は……」
「そうゆうのはよろしいので早く始めましょ?ちなみに私は裏組織【竜帝】最高幹部、ボス補佐兼暗殺部隊『竜血衆』隊長セルネです、短い間よろしく」
話している最中に横やりを入れられインテリ風は激怒した。そのせいでブチッ……と額の血管が切れる音が聞こえてきた。
「き・さ・まぁ~……どれだけ俺を……このサタン様直轄軍第5師団第9部隊隊長ベレの前にひれ伏せぇーー!」
「嫌です」
セルネとベレが衝突するなか隣の二人、ミーゼともう一人の中級悪魔は、
「またあいつの性格で敵が怒り出した。しかも微弱な精神魔法で煽ってたし」
「そうだね~、あの魔法かなり精練されてた、脇から見てたからわかったけど、正面からはまずわからねぇな、ベレのやつがかかっちまうのも仕方無しだな」
二人で肩を並べて屋根に座っていた。
意気投合なのかどうなのかわからないが、戦う二人を見て同時に二人して相手の肩を優しく叩いた。
「でもあんたと戦わないと後で怒られちまう、そろそろあんたもヤるか?」
「そうね、ヤっておきましょ」
二人は立ち上がり、ちょうどいいくらい離れて構えた。
「まず自己紹介から……悪魔王憤怒のサタン様直轄軍第5師団第9部隊所属、副部隊長プラダ」
「裏組織【竜帝】最高幹部、諜報部隊『竜眼師団』隊長ミーゼよ、よろしく」
名乗り終えると二人は低い姿勢で相手に突っ込んだ。
●
「………………どうやらみんな始めた見たいね」
それぞれの場所、さまざまな人と悪魔が激闘を始めた頃、倒壊した建物や燻っている瓦礫を尻目にアルフェーナは大通りを歩いていた。なぜ他の場所のことがわかるのかは、王都全体を魔力感知と気配探知で把握しているからだ。なので王都の状況を完全把握していた。だがそれは彼女も同じなようだ。
「あら?貴女あのときの……よくここまでこれて……あぁ貴女も使っているの」
大通りの真ん中に立っている女性、【邪神教】聖女が振り向いた。だがそれは魔力感知と気配探知でわかったことだ、それは聖女も同じだ。なぜなら目の前は下級悪魔のカーテンで見えないのだ。二人はセルネとミーゼのように気配遮断で認識されていないのだ。
「誤算だったわ。貴女ほどの実力者が来ていたなんて……たった一人に計画をここまで変えないといけないなんて」
聖女の言うとおり計画は変わっていた。本来は武闘大会が終わり夕方頃に城門を破壊、それから悪魔達を放つ予定だったのだが、聖女がアルフェーナを見つけてしまった。
本来聖女は外にいて待機しているはずだったのだが、アルフェーナの注意、注目を得るためわざと授賞式に乱入、テロの首謀者とわざわざ教えたのも注目を得るため、たった一人のイレギュラーを無くすため聖女は体をはった。そして今も。
「ごめんなさい私のために待っていてもらって」
「いいのよ、なぜならこれは邪神様がくださった試練、貴女を突破することで私はまた一つ教団の願いを叶えるのよ」
「……教団の…ね」
「……何が言いたいの?」
アルフェーナの意味ありげな言葉に不機嫌に聖女が答えた。それを嘲笑で返す。
「いえね、確かにこれは教団のためたなるのでしょう……だけど貴女のためにはならないのね。可愛そうに」
「何をいっているの、これは私の……」
「ならさっき、私と教団の願いと言わないといけないのよ……でも貴女は教団の願いとしか言っていない。これって貴女はこれをもとから願っていないってことでしょ?」
「っ!?」
聖女は驚き反論しようとするが、言葉がでず口をパクパクしてしまうだけだった。アルフェーナからは見えないが。
そんな聖女にアルフェーナは傲慢な態度で告げた。
「そんな自分の意思すら貫けない者なんてここで消してあげる。だからそんな貴女に名乗る名なんてないからっ!」
アルフェーナは聖女に突貫しながら腰のナイフを数本同時に投げた。
「う、うるさいのよっ!」
狼狽しながら聖女は腰の剣を向いて応戦し始めた。
次回はクルサをピックアップですかね




