武闘大会本戦最終日
以外と指が乗った回でした
本戦以上にいろいろあった日の翌日、アルフェーナは身支度を整え闘技場の控え室に向かっていた。
別荘ではチェザーレとアゾルカに見送られ、来る途中でクルサと出会ったので一瞬に歩いてきていた。
「アル、優勝おめでとう」
「まだやってもいないのになに口走っているのよ。別の出場者に聞かれたら変な誤解を与えるじゃない」
「そうは言っても、アルがあの連中に負けるなんてありえないでしょ?」
「…………まぁそうなんだけど」
「でしょ?」
そんな雑談を交わしながら歩いていき闘技場まで来ると、アルフェーナとクルサは控え室と客席に向かうとして別れた。
鼻唄を歌いながら控え室のドアを開けると、中には殺気が充満していた。幼いアルフェーナにすら容赦なく叩きつけるほどに。
普通の人ならたじろぐのだろうがアルフェーナは柳のように受け流し、スタスタと中に入り着替えを始めた。このときは殺気立っていた選手達も複雑な気持ちになり視線を背けた。
何もなかったように着替え終え、ベンチに座ったアルフェーナに今度はいろいろな視線が突き刺さった。
「あれがグレムトを倒して……」
「あのときのガキ?話はマジだったわけか」
どうやら昨日勝ち抜いた選手達はアルフェーナの試合を見なかったらしい。誰もが優勝候補だったグレムトが上がってくると思い、グレムト対策のために早めに上がっていたと、アルフェーナは後に聞いた。
そんなこととは知らないアルフェーナはすこしばかり不機嫌になった。そのせいでいつも制御していた魔力が漏れてしまった。
ちなみにアルフェーナの魔力はすでに大人の魔導師としての魔力量を遥かに越えていた。なのですこし漏れたと言われてもそのすこしが常人からはかなりとなっている。そんな魔力を当てられた者は例外なく、全身に寒気と体の震えが起きてしまったのは仕方ないことだと思う。
「あら、ごめんなさい。はしたないことをしてしまいました」
「い……いや、いい……俺達は大丈夫だ。気にしなくてもいいよ」
「お気遣いありがとうございます」
アルフェーナが謝ると、選手の一人が恐る恐るといった感じで接してきた。まるで爆弾を扱うかのように丁寧に。
それから控え室に別の緊張感が生まれ、しばらくしたから昨日のトーナメント式の順番からの一回戦が始まるため、選手を呼びに委員会員が来た。それに連れられ二人が連れられていき、二回戦の選手も連れられていった。
(ふーん毎回ランダムって訳ではないんだ。となると私の相手はあの人かな?)
アルフェーナが視線を窓際のベンチに向けて、そこに座る男性を見た。
男性は色白で青い瞳、軽装だけど傷が少なく、腰には見た目からかなりの業物に見えるバスタードソードがあった。
(不釣り合いな装備と武器ね?普通なら重装甲まではいかなくても、それくらい固めないといけないような武器なのに、よほど自身の回避能力か技、魔法に自信があるのか)
アルフェーナは見た目から解る相手の行動パターンや力量を測ることにした。確実に勝てるとはいえ、アルフェーナはこういう情報収集に抜かりを作らないようにしていた。知っていると知らないとでは全然違うと知っているからだ。もしかしたら偽装工作かもしれないがそれでも構わないと思っていた。
そんな分析中にドアが開き、先程の委員会員が慌てて次の選手達を来るように急かした。どうやら一回戦が終わったようだ。
多分だが瞬殺だったのだろう。そうでなければこんなに早く委員会員が呼びに来る訳がなかった。
今回から控え室に映像投影の魔道具(異世界テレビ)を取り除かれていた。これにより試合がどうなったのかわからなかったが、代わりに廊下から客席の歓声が響いてきた。アルフェーナは一回戦の歓声だと思っていてのだが……
「なに?それはほんとか?……わかった、連れていく……」
同時に委員会員にも連絡が届いていた、どうやらこの歓声に関してのことらしい。そして申し訳なさそうにしながらアルフェーナを含めた全選手についてきて欲しいといってきた。アルフェーナはその言葉で先程の歓声の正体がわかった、それは他の選手も同じらしく口々に、「珍しいな」「瞬殺流行ってんのか」「相性がよかっただけよ」と言っているのが聞こえた。
どうやら例年はこんなにも早く終わらないようだ。委員会員も困惑した様子で魔道具による連絡を密に行い続けていた。
「それでは皆様、大変申し訳ありませんが急いで向かうことになります、走りますのでついてきてください!」
委員会員は返事も待たずに走り出したので、選手達は準備した試合用の道具を持っち、見失うしなわないよう急いで後をついていった。走っていくと選手同士が別れるT字路に到着した。
「…………皆様こちらで別れていただきますので、偶数の方は右側へ、奇数の方は左側に進んでください」
選手達は控え室に向かう際に手渡された番号を見て別れることになった。アルフェーナの番号は10番なので右側に迷いなく歩いていった。
会場と廊下を隔てるものはなにもないのだが、ゲートのような形のアーチを潜り抜けたところが境目になっていた。アルフェーナはその手前のベンチに腰掛け出番を待つことにした。
(瞬殺が続いているらいいけど、そんな連続で続きすぎるはずがないわよね)
アルフェーナのその考えは淡々と現実になった。アルフェーナの前の二戦とも瞬殺で終わってしまったからだ。アルフェーナはこれに対して呆れを通り越し、疑問と作為的何かを感じるほどになった。実際はホントに相性による優勢差や準備した道具によるものであったのだが、とんでもない偶然が重なりすぎたとしか言いようがなかったのだ。
「……誰が仕組んでいるのよこれ、賭け事の連中?【邪神教】のやつら?まじでどうゆうことよこれ」
加えて様々な情報を持っていたものも仇になった。そのせいでこんなことをしてしまいそうな連中に心当たりがありすぎたのだ。
「あのーアアチ選手、入場してもらっていいですか?」
「あっ……はーい、ちょっと待っててください!」
会場の審査官からの声にアルフェーナは意識を現実に戻した。どうやら考えすぎて待たせていたようだ。急いで入場するも、頭のなかはいまだに、裏があるのでは、陰謀か?と考えを回していた。してしまっていた、無駄なことなのに。
そのせいか歩きながらぶつぶつと呟きながら対戦相手の前に立ってしまい、その様子から相手に眼中にないと取られてしまったのか、睨まれ続けてしまっていた。
「両者よろしいですね。……それでは二回戦第5試合、ベレノーラ選手とアアチ選手の試合を開始します。両者、礼」
「「よろしくお願いします」」
試合が開始した。
アルフェーナは腰を下げ手をすこし広げ、いつでも魔法を使えるように構えていた。一方ベレノーラは、アルフェーナの構えに自身に対しての挑発と捉えてしまい、額に青筋を浮かべていた。バスタードソードを下段にして脇に添え、腰を沈めながら必殺の連撃のイメージを固めながら一気に駆け出した。
「はぁああああああっ!」
ベレノーラは逆袈裟懸けを慣行するもアルフェーナは余裕を持ちながらバックステップで避ける、それに対してすぐさま接近、今度は上段からの幹竹割りをするも半身になり避けられる。ベレノーラはリズムを崩し、下段からの攻撃ではなく中段、しかも横凪ぎでなく突きを慣行するため、振り下ろされる剣を力任せに止めすぐさま引き突きをした。
「ぜらあっ!」
アルフェーナは迫る剣……の腹を掌で打つと軌道を反らし、ベレノーラの前のめりにして体勢を崩した。
アルフェーナは倒れてくるベレノーラの顎に掌底により打ち抜いた。
「がはっ!」
ベレノーラは倒れてしまい、動かなくなった。アルフェーナは倒れたまま起き上がらないベレノーラを、ツンツンとつついても反応がなかった。結局アルフェーナも瞬殺を慣行してしまったのだ。
「…………?」
アルフェーナが審査官の言葉が来ないことに首を傾げると、審査官は慌てて口を開いた。
「勝者、アアチ選手!」
ウォオオオオオオオオオオオオオッ!!
会場に歓声が響いた。観客達は勝ち方が違えど何度も瞬殺を見ても熱狂は冷めないらしい。アルフェーナは珍しくパフォーマンスとして手を振りながら退場していくと、よりいっそう歓声に拍車がかかった。
「なにかしらねホント、あの人に弱体系の魔法でも使われていたのかしら?でもそんなものはかけられていなかったからあれが素なのでしょう。はぁー、これは予想以上に退屈になりそうね」
アルフェーナは溜め息をつきつつ控えの廊下、そのベンチにドカリと座った。周りには選手はいなかった。というのも、先の試合で負けたのは全員アルフェーナ側の選手だったため、アルフェーナ以外選手がいなかったのだ。
普通ならばこちらに反対側の選手が来るはずだったのだが、アルフェーナが瞬殺してしまったため、反対側の入口から選手二人が登場すると言う史上稀に見る出来事が起きていた。
「これより、準決勝、第1試合を開始します!」
会場に審査官の声が響くなか、アルフェーナは興味を失ったように壁にもたれかかっていた。準決勝は一人余ってしまうため、アルフェーナがシードで決勝戦に進んでしまうことになってしまうため退屈していた。
「はぁー、なんで私のトーナメントの場所がシード権枠の場所だったのよ。……いや、これってどう見ても謀られていたわね」
その通りだった、このトーナメント位置優勝候補だったグレムトに賄賂を積まれていた委員会員が工作していたのだ。だがグレムトは一回戦で敗れてしまい、しかも自身の全財産と多額の借金をして借りた金を賭けていたそいつは借金及び、元々あった借金返済のために奴隷兼超高難度の魔物討伐に参加させられているのだが、そんなものアルフェーナの知ったことではない。
「ということは決勝戦って三人なのね?珍しい、クルサにもっとちゃんと聞いておけばよかったわ」
アルフェーナがぶつくさと文句を言っていると、会場から歓声が響いていきた。気になり覗くと、
「はぁああああああーー!」
「ずぅらっらっらっらっ!」
達人同士の激しい攻防が行われていた。
片方は女性、騎士のような甲冑を着込み、頭を顔が出たヘルムで覆い、片手にレイピア、片手にエストックの速度重視のスタイルであるのだが、腰にエクゼキューショナーズソード、処刑に使われる、この場では場違いな剣が下がっていた。アルフェーナは見た目とサブ武器で処刑人と呼ぶことにした。
アルフェーナがこの剣に気づけたのは偶然だった、【竜帝】の仕事中にとある貴族を潰したときに、その貴族が貯めていたコレクションの中に同じ型の剣の鍔と剣帯を見ていたからだった。
続いて対戦相手の男性、武闘家のいでだちに重甲そうな見た目に、拳を作れば刺突用の小さい刺が出てくる仕掛けのガントレット、こちらも腰に予備としてトンファーと小型のメイスを装備していた。アルフェーナは男性を武闘神官と呼ぶことにした。
「なんか珍妙な装備だこと、女性のエクゼキューショナーズソードしかり、男性のメイスしかり。……うーん、もしかして女性は処刑専門の方?で男性が宗教者?になるのかしら」
アルフェーナが悩んでいると、攻防に動きがあった。攻守が逆転してしまったのだ。
「ぐっ!」
「しゃあらああああああああああああ!!」
度重なる攻防でエストックとレイピアが中間から折れてしまったのだ。武闘神官はそこを見逃さず、処刑人が僅かに硬直したところに連打を両手と鳩尾に叩き込んだ。
処刑人が数歩下がりながら建て直そうとすると、その前に接近してインファイトに持ち込んだ。処刑人は迫り来る拳打の嵐を避け、反らし、弾き、直撃時は有効打をもらわないようにして、それ以外を受けていった。だが、
「っ!しまっ……」
「っ!……拳聖の頂に弐の拳なし、《ファーストエンド》!」
先の攻防による疲労か連打によるダメージか、処刑人が避けて足を引いたとき、カクンとなり前のめりになった。処刑人は慌てて下がろうとするが時すでに遅し、そんな絶好のチャンスに武闘神官は自身が持つ最大最速の一撃を、改良し短縮化した詠唱、魔力制御による瞬時の魔力凝縮、及び肘からの魔力の逆噴射、武闘神官の人生をかけた一撃を腹部に叩き込み…………空振った。
「……………………は?」
「スキあり」
武闘神官はまさか当たったのに空振りなんてものを経験してしまい間抜けにも呆然と立ち尽くしてしまった。
それもそのはずだ、だって処刑人は拳が当たった脇腹を起点に、左腕の付け根から左太腿の半分、胸は失くなり右腕はかろうじて繋がっているが肩があるだけ、上半身と下半身は皮一枚で繋がっているが格好なのだから。処刑人はそんな状態で生きているのかと言われれば、生きている。処刑人は拳が当たる前、直撃を避けられないとわかるとすぐさま詠唱を行ったのだ。唱えたのは『ウォーターボディ』、5秒のみ体を水に変化させる魔法だ。欠点がその場から動けない、武器と防具も水化、水化の時間が短い等々他にもあるのだが、このように使い所が難しい魔法を女性は寸分の狂いなく成功させたのだ。
「ふーん彼女さすがね、焦りがないからよく使う魔法だからかしら?それでも称賛に値するものね」
アルフェーナは処刑人が避けたことに驚かず処刑人が水化するまでの拳の到達とそれまでに、詠唱をする、魔法が体に発動するを計算して完璧なタイミングで会わせたことに驚いていた。口ぶりからは驚いているように聞こえないが。
処刑人はすぐに水化が解けると、拳を振り抜いた格好で固まっている武闘神官の首筋を掴むと、
「雷精よ、我に力を貸し彼の者に刺激を《ショックボルト》」
「かはっ……」
武闘神官は微弱な電撃を首筋に受け、白目を剥いて倒れた。
「勝者、ベレンナ選手!」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
場内に今までとは違った歓声が響いた。
それは観客達が瞬殺以外、本戦初めての長期の戦いを目撃し、さらにそれが素人目からでもかなり卓越したものだったのが理由だったと思う。ただ単に観客達が飽きていたタイミングでの今回の試合だったこともあげられるかもしれない。
でもそれを抜きにしても凄まじく美しいものだったと言えた。
「続いて準決勝第2試合を開始します。選手入場!」
興奮冷めぬ前に第2試合の選手が入場してきた。選手はどちらも男性だった。
片方は金髪金眼の青年、先程の女性の騎士甲冑に似ているがそれよりも高性能に見えるものをヘルムを脇に抱えている。武器は柄と剣帯にかなりの装飾が付けられていたロングソードを一本差しているだけだった。アルフェーナはこいつのことを成金野郎と呼ぶことにした。
対戦相手は鎧を着ているものの、成金野郎と違いがっちり固めていると言うより軽め、軽装備に似ている防具、武器はショートソードをメインとサブで二本差していた。アルフェーナはこいつのことをモブと呼ぶことにした。
それから試合が開始したのだが、結果だけ言えば成金野郎の勝ち。試合内容はヤラセとしか言い様のないものだった。
今回の試合もたくさんの攻防はあったのだが、まるで練習していた演舞を見せられているような感じだった。だがそれは達人レベルだから気付けたのだ、観客の素人達にはこれも見応えのあるものだったのだろう。それほどまでに上手く誤魔化された演舞だったのだ。
「なによあれ、胸くそ悪い、最初からレールの上を走っているような感じねこれ。……もしかして大会委員も共犯?だから選手内ではトップの実力者の彼女とあの武闘神官が組まれるようになっていたの。必ずどちらが上がってもかなり消耗するから。でもそうとわかるとあれね、そんなシナリオ潰したいわね」
アルフェーナは歓声が響くなか、どうすればシナリオ通りにならないか考え出したのだが、答えはすぐに出てきた。
「これなら簡単かつ、私の鬱憤も晴れて一石二鳥ね!彼女に伝えるのは……上がってからでいっか」
アルフェーナは入場のアナウンスを聞きながら、今起きることに心を弾ませ、嫌らしい笑みを浮かべながら入場した。
アルフェーナ、成金野郎ボコります
よろしくお願いいたします




