武闘大会本戦一日目
本戦開始いたします
本戦開始までの一時間前まで食べ歩き、お腹を膨らませ、両手に食べ物を紙袋いっぱいに詰めて、アルフェーナは控え室に向かった。
控え室を開けると、既に準備万端の選手(アルフェーナを除く)がこちらを睨んできた。どうやらアルフェーナが最後にやってきた選手らしい。
睨まれたアルフェーナはその視線を飄々と受け流していたが、ちゃんと実力を測れる数人を除いて、他の者が怒りの視線をぶつけてきた。その視線をアルフェーナが無視し続けていたら、かなり高身長の男が、額に青筋を浮かべて、アルフェーナのもとに向かった。
「おいガキ、ここはてめぇみたいなのが来ていい場所じゃねぇぞゴラァ!」
「…………」
ぱく、モグモグ、ザクッ、ムシャムシャ…………。
アルフェーナは怒鳴られたにもかかわらず、それを無視して男の横を通り過ぎ、紙袋から食べ物を取り出しては食べてを繰り返しながら、自身の名前(偽名)がついているロッカーに向かった。
控え室は、失笑と嘲笑する者に別れた。失笑する者はアルフェーナの実力を把握している者が、男に対しての同情的な思いを込めてしたが、嘲笑した者はアルフェーナの実力を把握しておらず、男が袖に振られたのが面白かったのだろう。
男は羞恥心で顔を真っ赤して、額に青筋を浮かべていた。男にとってどちらの笑いも自分を嘲笑っているように捉えてしまったからだ。
そんなことは露知らずアルフェーナは着替えを始めた。その時は誰もアルフェーナから視線を外した。
そのせいで男は先程の怒りは忘れないものの、ここで突っかかっていくのは止めることにしたようだ。
アルフェーナが着替えを終えたとき、ドアが開いて、会場案内人が入ってきた。
「皆様、お揃いのようですね。これから、予選の抽選を行いますので私に付いてきてください」
選手全員は案内人についていって、二階の部屋についていった。
中には数人の大人がおり、中央には箱が置いてあった。
「この中から、番号の書かれたボールを取ってもらいます。それにより、対戦相手が決定します」
それから呼ばれた順番でボールを取っていった。くしくもアルフェーナの順番は最後だった。
「よいしょ……うん?………無いんですけど?」
「え?そんなはずわ……あっ…………どうやら届かなかったみたいね」
「…………」
アルフェーナは珍しく落ち込んだ、底にあったボールに手が届かなかったことに。アルフェーナの周りが暗くなり、マンガで言う、ず~んという効果音がついている雰囲気が漂っていた。
他の選手からは生暖かい視線と苦笑をいただいていた。
引いた番号での試合順は最後の方であったが、対戦相手が運命のいたずらか、はたまた必然か、控え室で絡んできた男であった。
「可愛そうにあの子、あのグレムトが相手なんて」
「子供大会で優勝したとしても、さすがに無理だな」
「あの子、トラウマにならなきゃいいが」
「あんなに落ち込んじゃって、きっと家族がたくさん来るんだな」
後ろからアルフェーナに対して口々に可愛そうにという視線が注がれた。その視線はさっき控え室でアルフェーナの実力を知っている者、脇にいる大会委員からも注がれていた。
(そんなに強いのかしら?それほどとは見えないけど?)
アルフェーナがもう一度その男を見ようとすると、脇から意外な言葉が飛んできた。
「だって彼、今回の優勝候補でしょ?」
「………………え?」
アルフェーナは、あれで?と言いそうになってのだが、それはすんでのところで飲み込んだ。
とぼとぼと列に戻りながら、選手達が何を言っているのか耳を傾けたのだが、ここではめぼしい情報は聞こえてこなかった。
「それでは30分後に第一試合を開始いたしますので、出場選手は準備を、他のかたは控え室にお戻りください。…………それとアアチ選手はすこし残ってもらってください」
「?はい、わかりました」
アルフェーナを残して選手達が退出したところで、いちばん偉そうな大会委員のお爺さんが優しげに口を開いた。
「アアチ選手、聞こえたかどうかわからないが、君の対戦相手は今回の優勝候補と言われている、そんな相手と君が戦ったら、手加減されたとしても死んでしまうかもしれない。大会委員としては辞退してほしいのだが」
「それは無理ですね」
大会委員達の心配をよそに、アルフェーナは即答した。
「っ!……どうしてだい?」
委員のお爺さんが訪ねてきた。
「だって私が負ける要素がどこにもないじゃないですか。今見た限りでも勝つ未来しか見えません」
事もなさげに堂々とアルフェーナが答えるため、委員全員が、ポカーンと口を開けて固まってしまった。委員お爺さんがなんとか説得しようと言葉を出そうとしているが、何も出てこず、口をパクパクしているだけだった。
「あ………え……うあ……………えっと…………」
「用が無いようでしたら私はこれで失礼致します」
アルフェーナはお辞儀をすると、委員達に背を向け部屋を出ていった。
残された委員達はアルフェーナの自信満々の雰囲気と、嘘なんてつかないという態度に圧倒され、尚且つどうすれば正解なのかわからず、ただただ呆然と立ち尽くしているしかなかった。
部屋を出たアルフェーナは、その足で控え室に直行した。控え室に入ると、選手全員からの視線が刺さった。そのどれもが、「私はわかっているからね?」とあんに伝えてきていたのでアルフェーナとしてはかなりイラついていた。だがそんな感情は露も尾首に出さずアルフェーナは椅子に腰かけた。その行動により、室内に驚きが走った。誰もがアルフェーナが棄権すると思っていたからだ。実は先程の抽選室とにわぞとらしくアルフェーナに聞こえるように、対戦相手の情報を言ったのも、アルフェーナを棄権させるためのものだったのだろうの、そんな気遣いなんていらないといった感じでアルフェーナは足を組んで順番を待ちだした。
控え室に微妙な空気が流れ出したがそれも長くは続かなかった。第一試合が始まったからだ。
控え室には大きな、外の情景、情報、音声を知ることができるテレビのような魔道具が壁に設置されているので全員の眼が魔道具のモニターに移った。
第一試合は女性と男性との試合。室内の会話を聞くと、どうやら女性の方が有名な人のようだ。
アルフェーナが興味無さげに頬づえをついていると、モニターかる歓声が響いてきた。見てみると、男性が突っ伏しており女性が立っている映像が映っていので、女性が男性を瞬殺したようだ。
それからも試合が続くのだが、どれもこれも瞬殺で終わっていったので、アルフェーナの番はすぐにやってきた。
アルフェーナと対戦相手の男は、委員が呼びに来たので会場に向かうことにした。途中で別れるも、アルフェーナが会場に入ると、反対側から男がやってきた。会場に設置された闘技場の端と端に立つと、審査官が高らかに宣言した。
「これより第八試合、グレムト選手とアアチ選手の試合を開始します。両者、礼!」
「「よろしく(お願いします)」」
アルフェーナの試合が始まった。
「嬢ちゃん、降参するなら今のうちだぜ?」
「ご冗談を、私が誰かに屈することなんてありえませんわ」
「生意気な……ならもういい、警告を無視したのは嬢ちゃんだ。悪く思うなよ」
「ご託はいいのでさっさと来て下さい。弱者」
アルフェーナの発言で会場に緊張が走った。グレムトの額には血管が浮き出ていた。
「もう許さねぇ!泣いて謝っても止めねぇ!……我が体に力を《ボディアップ・クアッド》、我が脚に豪擊を《レッグブラスト》、どぉらあああああああ!」
身体強化プラス脚に攻撃型魔法を付与の一撃を上段から叩き込んできた。それをアルフェーナは脚をクロスさせる感じで合わせてきた。
「なに!?ばかな!」
グレムトは驚愕した。それは会場にいるアルフェーナとクルサを除いた全員も同じだった。
だが対峙していたグレムトは、合わせている脚から伝わる感覚にさらに驚愕を通り越して、愕然としていた。
(この嬢ちゃんまさか!?身体強化のみ?ばかな!それのみで俺の一撃を受け止めるだと!)
グレムトはここで勘違いをしてしまった。確かにアルフェーナは脚に魔力を流していたが、別に身体強化はしていなかったのだ。
これによりアルフェーナは、ほぼ強化されていない状態でグレムトを受け止めたことになる。そのことに観客席のクルサは呆れた。
「まさか直接受けないにしても、あれを受け止めるかねアル。ちょっと化け物すぎ」
クルサは乾いた笑みを浮かべた。
闘技場では呆然してしまい試合中にもかかわらず固まってしまったグレムトに、アルフェーナは膝を踏み台にして、グレムトの顎に飛び膝蹴りを叩き込んでいた。
「ぐふっ!」
「考え事とはいい度胸ね」
「くそっ、はぁあっ!」
顎を射ち抜かれたたらを踏むも、頭を振りながら回復すると速度重視でミドルキックを放つも、アルフェーナはジャンプして避けたが、それを狙い体勢を崩しつつ中段蹴りを放った。
なぜ中段かは、アルフェーナがジャンプするとグレムトの身長のその位置に来るからである。
「もらった!」
「甘いです」
グレムトははいったと思ったのだか、アルフェーナは迫る脚に手を置き、側転するように避けた。それにより脚がグレムトの頭を越えたので叩き落とした。グレムトは頭をずらして避けたが、アルフェーナは脚を頸に引っ掻けると、脚の力だけで体を引っ張った。小さいこともあり手を挿し込み暇も与えず、膝蹴りを顔面に叩きつけた。
「ぶふっ!」
「まだ終わらせないわよ」
さすがに顔面ともあり、ゆっくりと後ろにグレムトが倒れていくなか、アルフェーナはグレムトの頭に手を乗せると、今度は顎に側面から叩きつけていった。
「ちょっ……やめ……やめてぶっ………がぼっ……」
何かを言わせないとアルフェーナがやりまくっていると、審査官が慌てて近づいてきた。
「やっ…やめなさい!すでに勝負は……」
「ついてないわよ?」
「え?」
突然の返しに審査官は立ち止まってしまったが、その言葉をうらずけるようにグレムトが唸り声をあげて拳を振り上げた。
「がぁああああああ!なめるなあああああああああ!!」
「おっと……あら、丈夫ね」
アルフェーナは迫る拳をスレスレで避けると、後ろに飛び避削げた。グレムトはアルフェーナの皮肉に、顔を真っ赤にして、額には切れてしまうのでないかというほど血管が浮き出ていた。
「ぶっ殺してやるぅううう!ルールなんてかんけぇねぇ!知ったこっちゃねぇ!俺をなめてるやつは死ねぇえええええええ!!」
グレムトは怒りに任せて先程かけた身体強化と脚擊強化に全魔力を集中させ、アルフェーナの消すためだけに暴威を振るいだしたのだが……。
「どぉらららららららららららららら!!」
「ふふっふふっふふん♪ふふっふふふ~ん♪ふふっふふっふふふんふふっふふっふふん♪」
アルフェーナは鼻唄を歌いながら踊るように軽やかに』避けていった。そうしていると、すぐにグレムトがバテてきた。
「はー……はー……はー……げほっ……ずあっ……なんで……あたらな……」
「あんちょくなのよ攻撃パターンが。あんなの避けてって言っているものよ」
アルフェーナの言葉か、魔力枯渴の影響なのかわからないが、グレムトは膝をつき、呟いた。
「なんでそんなに強いんだ?」
「そんなの、強くなりたいから強いのよ」
アルフェーナはさも当然のごとくいいのけた。グレムトはその言葉を聞くと、一瞬憤慨するように声を荒げようとしたが、首を振り、諦めたようにうなだれた。
「俺の負けだ」
「…………あのー審査官さん。仕事、お願いします」
「……あっ、すみません。……勝者、アアチ選手!」
ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!
審査官が宣言すると、会場を歓声が支配した。アルフェーナは踵を反すと、出入口に歩いていった。グレムトは立ち上がることができなかったので、救護員が駆けつけ肩を貸して退場した。
二人が退場するなか、会場にはアナウンスが流れていた。
「これにて、今日の対戦は終了になります。皆様にも不満もあると思います。ですが今日はここまでと事前に決定していましたのでご了承ください。つきましては明日の開始時間のお知らせです。明日は午前10時より開始いたしますので、お忘れなきようお願いします。本日はどうもありがとうございました」
アルフェーナは後ろから聞こえるアナウンスは話半分で聞きながら、今日これからどうするか考えていた。
次回は店回り?組織運営?どちらにしようか迷ってます。もしかしたら、もしかしなくても両方かもしれないので、よろしくお願いいたします




