聖女
よろしくお願いします
深夜、アルフェーナは別荘の部屋のバルコニーで密会をしていた。手に資料を持ち、相手は【竜帝】のセルネとリーゼである。
「はぁ~めんどくさいことになっているのね」
アルフェーナはもう一度深く溜め息を付き、セルネとリーゼは申し訳なさそうにしている。
「申し訳ありませんお嬢様、我ら《竜眼師団》で取りこぼしてしまったせいでこんなことに」
「いえいえ、私の《竜血衆》でも落ち度があり、しかも今回の賭けに集中してしまった結果です。姫、罰は私に」
「そんなことするわけないでしょ?まず大切なのはこちらに被害を出さず、さっさとあの迷惑な連中を処分することよ」
「「はい」」
「まったくどうしてこんなことに」
アルフェーナがこんなに悩むことになった切っ掛けほ数時間前に戻る。
●
初日の武闘大会が終わり、なんとか時間までに別荘に到着することが出来たアルフェーナとクルサは、チェザーレに怒られた。時間にギリギリで来たことでない、暗くなる前に合流しなかったことではない、屋根伝いに跳んできたことにである。
「貴様等はそれでも淑女か!」
「「すみません」」
アルフェーナとクルサは別荘の部屋にて正座をさせられていた。目の前には怒髪天になりかけているチェザーレ、後ろを振り向くと口元を押さえて笑いを堪えているアゾルカがいた。
「聞いているのかアルフェーナ!」
「!すみませんお父様」
「時間に遅れるからといってどこのだれが屋根を跳んでくるのだ!騒ぎになったらどうする!」
「だ、大丈夫です。それに監視には注意していましたので」
「更にそれを友達に強要して」
「そうなんです、私は断ったのに無理やり、よよよ」
「嬉々としてついてきたのは誰よ」
クルサが下手な演技で泣き真似をしだした。アゾルカがさらに笑いを堪えだした。堪えすぎて顔が真っ赤になっている。
「だがそれはまだよい。一番の問題は……跳びながら魔法の撃ち合いをしたことだ!!」
「「…………」」
そうなのだ、アルフェーナとクルサは行くまでが暇だと言う理由で、あろうことか初級魔法による撃ち合い行い、衛兵に追いかけられたのだ。
それは普通に怒られるはずである。何せ通りで騒ぎかおき、まだ来ない娘を心配していたら、その騒ぎの張本人が娘だったのだ。アゾルカもこれには庇うことはできないと思っていた。
これだけ怒ってもチェザーレの怒りはおさまらず、さらに数十分説教をくらっていると、とうとう観かねたアゾルカが止めに来た。
「そのくらいにしてあげてくださいチェザーレ、アルフェーナちゃんもクルサちゃんも反省しているでしょう。それに二人は今日疲れていますし、なによりお腹が空いているはずです」
グゥウウウ~。
タイミングよくクルサのお腹の音がなった。横を見ると恥ずかしかったのか、顔を赤くしていたが、してやったりと舌をだしてこちらを見るクルサがいた。
アゾルカも、どうすの?とチェザーレに目配せをしており、チェザーレも毒気を抜かれたように肩を竦めていた。
「……わかった、このくらいにしよう。お前達もちゃんと反省するように」
「「はい」」
「わかればいい、それに言い過ぎたかもしれん、すまない。……それはそうと今日はアルフェーナの優勝祝いだが、クルサちゃんのお祝いもしよう。何か食べたいものはあるかい?今から作らせるが」
「……よろしいのですか?では、ケーキをいただいても?種類はなんでもいいです」
チェザーレは執事を呼ぶと、シェフに追加注文していた。
それからは全員で食事をした。アルフェーナがクルサを紹介すると、
「そうか、破天荒な娘だがこれからもよろしく頼む」
とチェザーレが直々に頭を下げたので、クルサがものすごい勢いで慌て出したり、アルフェーナが笑っていたがチェザーレの発言を思い出して顔を赤くしたり、クルサが自身の家での扱いを話したり、それを聞いたチェザーレとアゾルカが伯爵家に憤り、殴り込みの計画を立てだしたので慌てて止めたり等、楽しく食事を満喫していた。
食後のティータイムをしていると、クルサが立ち上がり、
「そろそろアタシは戻ろうと思います」
と告げた。
「行くのかい?もう深夜だし泊まっていっても」
「でもこれ以上迷惑は」
「迷惑だなんて、そんなことないわ。聞いた限り戻っても戻らなくても変わらないでしょ?なら泊まっていきなさい。幸い部屋はあります」
「……よろしいのですか?」
クルサの問いかけにチェザーレとアゾルカは頷いた。
「ならば、お言葉に甘えて」
クルサは深々と頭を下げた。
それからクルサ用の部屋の掃除を命じ、やってもらっている間にアルフェーナとクルサはお風呂に入るよう言われてので、仲良く入った。
「ありがとねアル」
体を洗っているといきなりクルサがお礼を言ってきた。
「なによクルサ、いまさらあらたまって」
「だってアタシ、戻っても陰口を言われ続けるだけだったから、泊めてくれたことに対してのお礼よ」
「…………一応受け取っておくわ」
体を洗い終えると湯船に浸かった。
「明日はたくさん屋台を回りましょ」
「いいけど、私武闘大会本戦にも出るから、午前だけよ?」
「えぇ!いいなぁー、アタシも出たかったけど家が許してくれなかったのよね。アルズルすぎ」
「ふふん♪」
それからは二人で湯船にゆっくり浸かっていると、いつの間にか忍び込んでいたアゾルカに抱きつかれ、クルサが自身の感知に引っ掛からなかったことに戦慄し、それをアルフェーナが慰めるなんてことをしていた。
「ほんとは夜中まで話したいけど、流石に疲れたわ。失礼していいかしら?」
「えぇ、私も疲れたわ。おやすみクルサ」
「おやすみアル」
クルサと別れたアルフェーナは部屋に向かい、寝床につこうとすると、見知った気配が部屋に近付いてくるのに気がついた。
「…………こんな夜更けにどうしたの?セルネ、リーゼ」
しばらくして見知った気配であった、セルネとリーゼが天井から現れた。そして焦りながらもアルフェーナの前に跪き口を開いた。
「夜遅くにすみませんお嬢様」
「姫、すこしでいいので、お話を聞いてもらえますか」
「……わかったわ。ちょっと飲みながら話しましょ」
アルフェーナはメイドに飲み物を頼み、持ってきてもらった飲み物を持ち、バルコニーに出て話……というよりは報告を聞きだした。
「姫まず私から、今回我々【竜帝】は武闘大会にて賭け事を行いました。開催者は王都最大の組織【ブラッシェ】、招待を受けている者達もそのどれもが名高い組織の幹部、裏の何でも屋、傭兵に至るまで様々です」
「ふぅ~ん、それで最近売り出した私達も招待されてあなたが来たと」
「そういうことです」
「賭けの内容は?子供用ではあったの?」
「はいもちろん子供用でも小規模ですがありました。もちろん私は姫にベット、かなり儲けましたよ。ついでに本戦も姫に賭けたのでよろしくお願いします」
「了解、がっぽりいただくわよ。次にリーゼ、報告を」
「はいお嬢様」
次はいままで黙っていたリーゼが報告を始めた。
ほんとは一番焦っていたのはリーゼであり、最初に聞いた方がよかったのかもしれなかったが、すこしでも落ち着かせるためにあとにしていた。そしてそれは伝わったようで、焦りつつも、しっかりとした口調で始めた。
「今回私達『竜眼師団』は通常の情報収集を行っていたのですが、アジトよりゼンドルから緊急の連絡があったため、急いで会議用の通信結晶で連絡を取りました」
その時、こんな会話がなされていたそうだ。
「リーゼ!そちらでヤバいことは起きていないか!」
かなり動揺しているゼンドルにリーゼは驚いた。
「どうしたのよゼンドル?こっちは平和そのものよ?」
「よかった、まだ成されていないか。こっちで緊急の情報を入手した。そっちにいるセルネとお嬢と一緒に対処しなきゃやべぇ案件だ!」
「了解、詳しく教えなさい」
なんでも数時間前に客が来たらしい。フードを被った人物が一人のようだ。【竜帝】は派遣や護衛もしていたので、ゼンドルもそれだとその時まで思っていたそうだ。
応接室に通されたフードを深く被った人物は、ソファーに座って商談を始めようとした時、おもむろにフードを脱いだ。
中からは美女と言うよりは女神と称されるほどの女性が現れた。が、ゼンドルは美女が着ている黒い礼服を見てこめかみを押さえながら呟いた。
「これはなんとも、あんたみたいな美女が邪神教徒かよ、しかもその礼服はかなり高位の神官だな?」
邪神教とは、人類の敵が魔王なら、世界の敵が邪神と言われるほどの存在を崇め、奉っており、最終目的が邪神の復活という頭のイカれた連中なのだが、信者が世界各国に無数に存在しており、邪神のためならすぐに命を差し出すようなものや、邪神の悪口を聞いただけで暴徒とかし村を壊滅、町を半壊、国王暗殺を目論み続けているような者ばかりである。なぜそんなやつらがいるのか、増えているのかはまったくわかっていない。
そんなところの美女がやって来ており、目の前にに座り、ゼンドルの回答に微笑んでいる。
「ふふっその通りです」
ゼンドルはそれを見て背中から嫌な汗が吹き出た。アルフェーナのおかげで正面戦闘でかなりの強さを誇る男がだ。
「でも訂正が一つ、私は神官でなく、聖女ですよ?」
「っ!」
聖女の言葉にゼンドルは息を飲んだ。
聖女とは、邪神教内の最高幹部の一人であり、世界各地に散らばる信者の統括者なのだから。普通はこのようなところに来るはずのない人物である。
それが目の前にいる、ゼンドルの内心はパニック状態になりかけていた。
(くそっ!なんだって今日にこんなに大物がやって来るんだ!)
今日はいつも来客対応のセルネが王都に向かった日なのだ。そしてゼンドルは来客対応に馴れていないのだ。
「それでは交渉いたしましょ?」
ゼンドルの長い交渉が始まろうとしていた。
次話で聖女の目的がわかるようにします。
後ご期待




