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06.みたーい! お父様のカッコイイとこ見てみたーい!

「アザミはアクア以外の魔法も使えるのかい?」


「いえ、他の魔法は練習していませんので使えません。何しろアクアを二回発動するだけで魔力が無くなってしまいますので」


「……ごめん。それはお父さんが悪かったよ」


バツの悪そうな顔を浮かべるタイチ。よほど私の泣き声が堪えたみたい。


そーなんだよなー。私にもっと魔力があれば他の魔法を試そうとか考えたんだけどなー。


しばらく歩くと、例の庭に到着する。


魔力を補給するという大義名分を得ているが、冷静になった今では岩に噛みつくなんてどうかしてる。あわよくば、歯形が残ってない事を祈る。


「さて、ここら辺でいいかな。アザミ、今からお父さんは魔法を使うからちょっと離れてくれるかな?」


「わかりました。お父様、この辺りで大丈夫ですか?」


「うん、それだけ離れているのなら問題ないね。アザミはお利口さんだ。よーし、お父さん張り切っちゃうぞ!」


そういうとタイチは袖をまくり、手の平を上に向けて腕を広げる。


こうなってくるとワクワクしてくる。なんて言ったってガチの魔法使いだからね。そりゃ期待も高まるよ。


どこかの偉人は言った。技術は盗め、と。……そんな事言った偉人っていたっけ? 


とにかく私はお父様の一挙手一投足を見逃さないためにも、人差し指と親指でぐわっとまぶたを広げた。


「それじゃあ、いくよ!」


彼の掛け声に合わせて私の瞳に凄みが増す。


眼球に触れる風が少し痛いが、そんなのは無視。



……?



しかし、魔法を発動させるのに必要な魔法陣がいつまでたっても現れない。どういう事だろう。


魔法を見せると言っておきながら見せないつもりなのか? 


魔法を使おうとしたけど魔力が切れてて使えなーい、って感じで私に同情するパターン? 


おいおい、気持ちは嬉しいけど逆にそれはガッカリだぞ。


だけど今のお父様はなぜか自信ありげに笑っている。これはなんの意図があるのだろうか。


まあいい、ただのご機嫌取りなら間に合ってる。


こんな無駄な時間の使い方をするのなら、ユリのそばで過ごしていた方がマシだ。


私がもういいと、お父様に言う瞬間だった。


突如、彼の目の前にトプトプと音をたてて大量の水が現れる。私が使うアクアとは比べ物にならない。


体積にしてバケツ一杯分か。その水球は、あろうことか形を変え、まるで蛇のように空を舞い、


「無詠唱……?」


「おや、アザミはそんな難しい事まで知っているのかい? 勉強熱心だね。さすがお父さんとお母さんの娘だ」


無詠唱。


これは本を見て知った訳ではない。完全な前世の知識。


魔法が存在するなら無詠唱ぐらいあるかなと思ったが、まさか本当に存在するとは。


魔法を使った事がある私だから分かる。


無詠唱で魔法を発動させるのは絶対難しい。何故なら魔法陣とは魔法を呼び出す出口、まずこれがない。もうこの時点で意味が分からない。


そして詠唱。詠唱では決められた言葉を口に発して魔法の種類を確定させる。出


口もなけりゃ呼び出す魔法を確定する工程も無い。これこそ魔法じゃん。もう何もわかんね。


「無詠唱を知っているのなら属性魔法や環境魔法の違いは知っているかな?」


「属性魔法と環境魔法? お父様、それは何ですか?」


「そっか、まだ知らないか。ならそれについての話は明日だね」


彼が操る水の縄は頭上でアーチを描き、静止する。


呼び出した水を自在にコントロール、消滅させずに長く存在させる。私がこれを出来るようになる頃はいつなのか……。


「ずいぶん驚いてくれてるみたいだけど、これからだよ?」


すると、アーチの両端から、思わず目を覆いたくなるほどの閃光。


それだけにとどまらず、瞬く間にアーチ全体が輝く。


ロウソクに灯された火に外を照らす月の明かり。


最初はどれだけ不便なんだと嘆いた事だが、この世界の夜には大分慣れて来たと思う。


しかし、私の周りはそれらを無にしてしまうほどの明るさとなっている。


もう今は昼時だと言われても信じてしまうほどに。いやぁ、魔法って本当に凄いなあ。


「お父様! 凄いです! これは水魔法のアクアと火魔法……いや、雷魔法を合わせた物ですね! ですが、光を発するだけなら雷魔法だけでよかったのではありませんか?」


「うん、そうだね。雷魔法の『サンダー』だけでも光を出す事は出来る。でも、この魔法は直進しか出来なくてね。それにこの魔法に当たっちゃうと怪我をしちゃうんだ。だから相性の良い水魔法の中に発動させたんだ。こうすると直進しか出来ない『サンダー』は水の中を延々と流れ続ける。水魔法の操作を誤らなければ外に飛び出す危険性も無い」


なるほど。これは結構興味深いな。


魔法で生み出される水は何なんだろうなと思ったけど色々あるんだな。


魔法という事で出て来る水は真水だけではないらしい。


真水は純粋な水素と酸素がくっついた物であり、電気を通さない。


しかし、湧き水や水道水などのミネラルを含んだ水は電気を通す。


今回、お父様が使った魔法はその両方の特性を利用している。


つまり、外側の水には真水を、内側の水にはミネラルを含んだ水をそれぞれ使用しているのだ。


なかなか魔法とは奥が深い物だ。


「さすがアザミだ。まだ覚えたばかりだというのに、二つの魔法が使われているのに気づくなんて賢い子だ。それに火魔法ではなく雷魔法を使ったと見抜いた。お父さんなんてこれを理解するために一年かかったからね」


魔法に頼り科学の研究が進んでいないこの世界で、電気は身近な物ではないだろう。


魔法以外に唯一関わりがあるとすればカミナリぐらいだろう。


当然、電気が水を通るなんて常識は出来上がらない。


お父様が言う通り、これが理解できる五歳児はそうそういないだろう。


まあ、伊達に義務教育終えてないからね。


「じゃあアザミに問題だ。今は二つの魔法が使われている。ではこれにもう一つ、魔法が加わったらどうなるかな?」


「三つの魔法ですか? うーん、全然わかりません」


三つ目の魔法ね。いや、全然わからんよ。


今まで見た魔法は『アクア』と『サンダー』、それとおばさんが使ってた火魔法。あと何かあるかな? 


有名なのは風魔法とか土魔法とか? 


魔法とか言ってるけどちょいちょい科学混じってるし、加わる魔法によって結果が違うと思う。


ていうかこれで分かったら凄いよ。


という事で本当に分かりません。


お父様の顔を見ると口端が上がってる。もしかしてお父様、原理を当てられてムキになってる? 


うわぁー、大人げねーなこの人!


タイチは水のアーチを電気を宿したまま球体に変形させ、それを天高く放り投げる。


どうやら正解発表といくらしい。


私が口を半開きにして見上げてると、彼はまた無詠唱で火球を呼び出し、かなりの速さで光り輝く水球に追従した。


直後、二つの球は接触し、轟音と共に爆発した。


「わぁ……」


「どうだい? これが魔法さ」


あまりの光景に目を奪われる。


空で爆発した水球はその身を散らし、細かな粒子となって蓄えられた電流が伝う。


一点を中心として、光の筋が円形に広がる。


すげえ……。これ、花火じゃん。原理とか材料とか色々違うところはあるけど花火だわこれ。


「どうだいアザミ。魔法って綺麗なものだと思わないかい?」


「はい!」


いや本当にすごいよ。どんだけ魔力消費したのか、どんだけ難しい操作したのか全然分からない。


「そうかそうか! でも残念だけど今日はこれでおしまい。続きは明日だね」


「えー! もっとお父様の魔法見たいです!」


「うーん、そうはいってもなぁ。もう夜も遅いし、今の内に寝ないと明日の朝起きれないかもしれないよ?」


「大丈夫です! 気合で起きます!」


「あははー、困ったなぁ」


お父様の様子――娘に良いとこ見せたいけど早く寝かせないとなぁな感じなら、このままおだてて褒めちぎれば、いける!


「お父様、だめですか?」


秘技『上目遣い』。首を四十五度に傾け、両手は拳を作って胸元に置く。


これを受けて耐えた者はいない(お父様専用技)。


「うっ」


おやおやおや。心が揺らいでるねぇ。お父様の気持ち、手に取るような分かるよぉ。


こんな可愛い娘がお願いしてるんだぜぇ? 応えてやりなよぉ?


あと一押し、あと一押し、というところで、私にとっての天敵が現れる。



「あなた達、まだやっていたの?」


腕を組んで仁王立ちする鬼女。


眉間にはシワを作り、今にも食って掛かりそうな気迫。


なんでそんなにお怒りのご様子なんでしょうか。


「ああ、ごめんね。ちょっと迷惑だったかな。少し張り切り過ぎっちゃってね」


お父様は弁明するが、お母様の顔色は変わらない。


「そう、じゃあ今日の所はこれで終わりね? それと、アザミ」


「は、はいお母様!」


なんだろうなぁ。悪い予感しかしないなぁ。


お母様も嫉妬して魔法見せてくれるとかなら大歓迎なんだけどなぁ。


「奇行の件、まだ終わってないからね」


おぅふ。


いやぁ、お母様の笑顔なんて久しぶりに見たなぁ。


タイチは「また明日ね」と、苦笑いを浮かべながらこの場を去る。いや、助けてよ。


「さて、アザミ。今から私の部屋に付いてきなさい。嫌、とは言わせないわよ」


「……はい」


まだ何もされてないのにお尻がヒリヒリする。


もうお母様の手を見るだけで体がビク付く。


こんな毎日送ってたら痔になっちゃうよぉ……。





その晩、屋敷中にパチンパチンと、乾いた音が響き渡った。


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