04.ちゃららーん。お母様はミタ
多分魔法が上手くいかなかったのは魔力が少ないせいだ。
魔法の使い方が載ってるのなら、魔力を回復させる方法ぐらい載ってるでしょ。
ここら辺からぺらぺらぺらっと。あ、あった。
『魔力には先天的に獲得する方法と、後天的に獲得する方法がある。まずは先天的に獲得する方法を説明する。これは単純明快。魔力量を多く持つ親同士で子を作れば良いのだ。こうして作られた子供は、生まれたばかりにもかかわらず魔力を保有する。さらに魔法使いや神官などの魔法に親しんだ者ならば、後述する後天的に獲得する魔力の獲得効率が上がるのだ。他にも魔力コントロールが上手いなどの研究結果も存在する』
相変わらず長いなー。でも親が魔法に馴れてたら獲得効率が上がるのか。
あとで両親であるカオリとタイチに聞いてみよっと。
『では後天的に魔力を獲得するにはどうすれば良いのか。それは二通り存在する。まずは一つ目、呼吸による魔素の取り込みだ。現在、空気中に魔素と呼ばれる物が確認されている。その魔素を体内に吸収する事で魔力があがるのだ。しかし、我々人間は日々絶え間なく呼吸をしている。では何故魔法をまったく使えない人がいるのだろうか。それは魔素から魔力へ変換される量がとても少ないためだ。著者である私が研究したところ、一日でファイアーボール一回分しか吸収出来ない事が判明した。以上から呼吸による魔力の獲得は、実戦などの危機的において現実的でないと考える』
なるほど、呼吸でも回復するのか。じゃあ深呼吸しながら読むか。
スゥゥゥウウウウウウッ! ハァァァァァアアアアアアアアアアッ!
あ、これダメな奴だ。立ち眩みでぶっ倒れそう。
『二つ目は経口摂取による魔力の獲得。魔物は高濃度の魔素で出来ていると言っても過言ではない。したがって、直接体に取り込んで魔力に変えてしまおうという方法だ。ご存知の通り、魔物は動物と違って倒すと消滅してしまう。しかし、魔核や角などのドロップアイテムが出現する事がある。端的に言ってしまえば、それらを摂取してしまえば良いのだ。魔核は球体なのでそのまま飲み込む。角は粉末状にしてしまい、それを水に溶かして飲む、というのが一般的な方法だ』
魔物は魔法があるくらいだからいそうだなって思ってたけど、この世界に動物っているのか。
この世界の動物って強いのかな?
ゴブリンとかオークが存在するらしいし、絶滅するくらい食べられちゃってそうな気がするけど。
『ドロップアイテム以外にも摂取できる物がある。例えばバイコーン。バイコーンは移動用の足などとして家畜化されている。そのバイコーンから出る母乳は魔素を多く含み、液体あので飲みやすい事から人気の高い代物だ。他にもゴブリンやオークの精液などや、魔物の一部や体液などでも代用が可能だ。しかし、ドロップアイテムを摂取するより効率は劣る。以上から緊急時はドロップアイテムを、そうでない時はバイコーンの母乳などを摂取するのが望ましいだろう』
さらっと書かれてるけど、ゴブリンやオークの精液って何そのおぞましい物。
誰が飲むんだよそんなの。それにしてもバイコーンの母乳か。
『魔物大百科』では馬みたいな魔物だったな。なんか牛乳感覚で飲めそう。
ちょっと飲んでみたい気がする。
って、私とユリが飲んでたあのミルクってバイコーンの母乳だったのでは?
両親はかなり身分が高そうだし、乳母がいてもおかしくないと思ってたが、もしかして私達に魔素を吸収させようとしたんじゃないかな。
ん? じゃあなんで私達に魔素を吸収させようとしたんだろ。
……うーん、わからん。とにかく、ユリはミルクから離乳食に切り替わったけど、一、二本ぐらいミルク余ってないかな?
今からもらって来ようかな。
あ、ちょっと待った。
私は今五歳だし、今更ミルクが欲しいって言ったら馬鹿にされるかも。
それは私のプライドが許さないな。
しかも最近、私の事をお母様が「おてんば過ぎて困るわ」って毎日のように言って来るし。
よって、ミルクの催促は最終手段という事で。
『これまで魔物の一部で魔力を獲得する例を挙げたが、自然の物でも代用できる。例えば高濃度の魔素が充満しているダンジョン。そこには魔道具に加工できる魔石が数多く眠っている。同様にそれらを取り入れる事で魔力を獲得できる。重要なのは魔素にさらされている事。実を言ってしまえば、ダンジョン内の魔素に頼らなくとも道端に生えている草木でも獲得できる。しかし、植物は数年のサイクルで命を終えるので期待はできない。反対に、石や岩などの年月が経っても姿形が変わらないものは適している。少ない魔素でも時間をかければ膨大な物となる。とは言っても魔物の一部には劣る。やはり魔力を補給するなら魔物由来の物に頼るのが良いだろう』
なんか、こうなってくると魔力が粗末な物に感じて来る。
まあそれだけ人間にとって魔力とは身近な物なのだろう。
しかし、ミルクの代わりに草木か……雑草って美味しいのかなぁ。
異世界とは言え雑草は雑草だと思うけどなぁ。食べたくないなあ。
じゃあ木でも食べる?
ガシガシ削ってそれを食べる、いや口の中血だらけになりそう。となると……。
私は周りを見渡す。すると、庭の中央に立派な巨岩がある事に気が付く。
岩かぁ、硬いだろうなぁ……よっしゃ、いっちょやってみるか!
全速力で駆け寄り、巨岩の上によじ登る。
あー、なんかいい気分。高い所に登ると達成感があるなぁ。ま、これからだけどね。
「いただきまーす」
――カプリ。
うん、やっぱり硬いね。
どんな角度でも、どんなテクニックを使ってもかみ砕けそうにない。
でも私には勝算がある。石の形はどれも似たような物があるが、同じ物は存在しない。
それは何故か。
石は雨や風、その他の外的要因によって削られる。
ある時はとてつもない圧力によって身を砕く。
またある時は、長い年月に弱い力で身を削られる。
つまり、どんな石や岩でも時間をかければ形を変える事が出来るのだ。今回はそれに乗っ取る。
私は自慢の歯と舌で岩を削る。ガシガシペロペロ。
お。何か口の中に鉄っぽいような、土っぽいような味がしてきた。
それと同時にほんの僅かだが、魔力が感じられるようになった。
この調子なら一時間ペロペロしてれば全快しそうだな。
って、この岩どんだけ魔素帯びてるんだよ。……いや、まさかだと思うけど、私の魔力、低い!?
そうして私の魔力が三分の一ほど回復した後、悲劇が起こった。
「――あ、アザミ!? 何をしているの!?」
おっと、こいつはまじぃや。
聞きなれた声がした方に顔を向けようとする。
首がギギギと音をたててゆっくり動く。
ちょっとこれはオイルを指さないといけないかもしれないね。
いやー、一番見られたくない相手に見られちゃったね。
おばさん達だったらどれだけ良かった事か。
「お、お母様……」
そこには口に手を当てて、驚きの表情を浮かべたカオリがいた。
岩の上に登り、必死の形相でかじりつく五歳の少女。それを目撃した母。
両者とも、心中おだやかな物では無かった。