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03.気分はチョベリグ↑↑ 魔法少女アザミちゃん☆ミ

私は五歳になった。



前世のポンコツな頭と比べ、アザミという人間は情報をスポンジのように吸収する。


まあ、自我を持ち続けて転生したお陰だろう。


そしてようやく読み書きが出来るようになった。


最初の頃は筆を持つだけで一苦労だった。何せ指が言う事を聞かないのだ。


例えるなら利き手じゃない方でハシを持つ感覚。


幸いにもワラフ語は漢字などの意味を持った文字は無く、英語のような小文字を組み合わせて名詞や動詞を作るタイプだった。と言っても覚える事は沢山だったが。


そうして文字が読めるようになった私は、夢中になって通う場所がある。それは書斎だ。


書斎は知識の宝庫だ。あまり出入りしていないのか、少しほこりっぽい。


書斎に入った私は棚に並べられた本を見渡す。



ふーん。和風なのに皮を使った本がいっぱいだ。


この文化レベルなら普通に紙が束ねられただけの物ばかりだと思っていたのに。


あ、魔法があるから私の常識なんてあてにならないか。


取りあえずは情報収集。私は適当な本を手に取る。


なになに、『魔物大百科』か。なんか動物園とか乗り物図鑑などのファンシーさを感じる。


ぺらぺらめくって前書きの部分を飛ばしていくと、一枚の挿絵が目に飛び込んで来た。


醜悪な人相にひょろりとした体躯。近くには短剣や小楯おだてが描かれている。恐らくこれらを装備しているのだろう。


なるほどなるほど。これがゴブリンか。


文によるとこの世界で人間に次ぐ個体数を誇るらしい。


魔法は使えないけど素早い身のこなしで相手を翻弄するとか。


ワンランク上になると身体機能を向上させたホブゴブリン、初級の属性魔法が使えるようになったゴブリンメイジなどが存在する。


うん、わくわくする単語出て来るねぇ。さすがにもうお漏らしはしない。


それからオークやドラゴンなどについて書かれたページをめくっていく。


しかし、私の好奇心を満たすような内容は書かれてなかった。


そりゃそうだよね。『魔物大百科』だもん。


いやでも魔物は十分気になるよ? 魔物と動物の違いは倒した時に消えるか消えないかの違いって書かれてたのは「はえー」ってなったし。


ということでこの本はまた今度。本をあった場所にスイーっと戻して、別の本を探す。



魔法魔法魔法……あった!


タイトルは『魔法入門』だ。


他にも『属性魔法・初級』や『環境魔法・初級』などが置いてある。


残念ながら、中級以降の本は身長が届かないので読めそうにない。


まあ入門って書いてあるし、そっちから読もう。



『まず初めに、この世界は神によって構築、運営されている。我々が使用している魔法は、本来神のみが使える物である。ではなぜ神ではない我々が使えるのか? それは魔法を使っているのではなく、魔法を召喚しているからだ。すなわち、我々が保有する魔力とは魔法を呼び出す力なのである。これを読んでいる諸君にはこれを念頭に置いて読み進んで――』


はいはい、つまらない前書きはスキップスキップ。っていうかほとんど読んじゃったじゃんか。私が見たいのは魔法の使い方なんだよ。


何ページか雑学っぽいのを飛ばし、お目当てのページにたどり着く。


『では魔法の使い方に移ろうと思う。魔法の発動方法には三つの工程が必要となる。まずは魔力の流れを把握する。魔力の流れは人によって感覚が違うので、どうしても抽象的な説明となる。なので、ここでは体中を流れる血液のような物をイメージして頂きたい』


これだよこれこれ。


えーっと、血を想像すればいいのね。簡単じゃん。血、血、ち、ti……バイオレンス、スプラッター、チェーンソー。これちゃんと出来てるの?


多分出来てるでしょ。つぎつぎ。


『次に魔法陣の生成。ここでは使用する魔力量によって、発動する魔法の強弱や効果範囲が決められる。こちらも抽象的な表現ですまない。イメージとしては循環している血液が体内から飛び出し、空間に円を描いて戻る。というのを繰り返してもらえれば良いだろう』


よし来た。魔法陣ね。この著者想像しやすくて助かる。


私は書かれている通りにやってみる。


まずは先ほどイメージしたチェーンソーが血管を突き抜け、手の平から飛び出す。飛び出したチェーンソーは円を描き、刃についた血液を遠心力でまき散らす。そして私の手に穴を開けて身体を巡る。


その繰り返し。


うん、鮮明にイメージ出来てる。出来ているのだが肝心の魔法陣が出てこない。


見えないタイプの魔法陣なのかな?


『最後は詠唱だ。これは一番簡単。考えたり悩む事はない。何故なら口に出して言えば良いのだ。今回は入門という事もあって、万が一魔力の過剰投入による暴走が起こっても大事にならない魔法を選んでいる。では以下に書かれている分を声に出して欲しい。手順通りできているのなら魔法が発動しているはずだ』


へー。言うだけで良いんだ。案外簡単だったなー。


もっと身体がじゅくじゅく鳴ってちょっと痛くなるもんだと思ってた。


まあいいや、あの時見た火の魔法が発動して火事になるのは嫌だし、ちょっと怖いから庭にいこっと。


私は本を持って、何があっても大丈夫そうな庭に移動する。


「それではおっほん」


チェーンソー循環。チェーンソー循環。


チェーンソー振り回す。チェーンソー振り回す。


スプラッター、バイオレンス。スプラッター、バイオレンス。


イメージ完了。詠唱、どうぞ。


「水の精よ、恵の力を見せよ――アクア!」




……。




出ない。


うん、出ないね。


こうなるって薄々感づいてたけどちょっと期待しちゃったかな。


ていうか私なんか間違えてた? イメージもちゃんと出来たし詠唱も間違えずに言えた。


ここら辺なんか書いてないかな?


『いかがだろうか。手順通りにできていれば魔法陣から水の球が出現するはずだ。もし成功していないのなら魔法陣の生成か、魔力の流れをイメージする事が出来ていないと思われる。まず、魔法陣の生成は大きさの調整が上手くいっていないのが原因だ。大きすぎるとそれ相応の魔力を求められる。逆に小さすぎると呼び出される魔法が魔法陣を通り抜けられなくなり、召喚される事無く終了する。周知の通り、魔法陣は視認できるため大きさを把握できる。よって目安は大きく広げた両手分の大きさをとしてほしい』


はえー。やっぱり水がでる魔法だったのか。


まあ水が出てきそうな文だとは思ってたので驚くような事は無かったが。


……っていうか!


周知の通り魔法陣は視認できるってなんだよ! 


そんなの初耳だよ‼


入門って書いてあるのにそこらへん親切じゃないなぁ。


とりあえず原因は分かった。魔法陣が悪いんじゃなくて魔力のイメージが出来てないんだ。


うーん、割といい線行ってる気がしたんだけどなー。


『もし魔法陣の生成が上手くいっていないのなら、それは魔力の流れをイメージ出来ていない事が原因だろう。イメージを掴むには精神の統一が必要だ。まずは深呼吸。息を長く吸い、長く吐く。心臓の音が意識しなくても聞こえるぐらいになれば良いだろう』


精神統一か。なんかそれっぽいな。


大分落ち着いてきたので次に進む。


『そして、自らの身体に意識を巡らせる。頭の先から足のつま先までだ。ここからが本番。身体を鉛のように重いとイメージするのだ。手足が重力に引かれ、全身が溶けたような感覚を持てれば良い。この時点で軽い倦怠感を覚えたら再度、呼吸に集中する。今度は額に意識を集中し、呼吸に合わせて風のような物が当たっているのを感じたら成功だ』


よし、やろう。


おもーいおもーい、私の身体はおもーい。


とけーるとけーる、私の身体はとけーる。


うん、私の身体は重くなって溶けた。


それで、おでこに集中っと。


吸って、吐く。吸って、吐く……。


すると、私の額に風が流れたような、メンソールのようなすぅっとする感覚を覚えた。


『その風のような物の正体は魔力だ。その感覚を忘れずに、先ほどの手順に挑戦してみて欲しい』


お? 本当にこれが魔力なの? 案外すんなりいったけど。まあやってみよう。


えーっと、魔力の流れをイメージ。その魔力を使って魔法陣を生成する。


すると、私の前に魔法陣が微光を伴って発現する。


うわ、出来ちゃったよ。テンションあがるぅ!


最後の仕上げは詠唱。咳払いをして万全の準備を整える。


いや、ちょっと待った。私は転生したし、特別に魔力が多いっていうのあり得るんじゃないの? やば、ちょっとドキドキしてきた。


たかぶる気持ちを押さえつけ、私は詠唱を開始する。


「水の精よ、恵の力を見せよ――」


身体を巡っていた魔力が吸い取られていく感じ。


さっきとは違って、何か魔法陣から何か出てきそう。


なんと言えば良いのだろうか。排尿する前の「もう出ちゃうよ」って感覚。


こりゃ滝レベルの水出てきちゃうかもしれないねぇ。


「――アクア!」


魔法陣に魔力が集まり、不可視であった力は水の姿に変わる。


始めは粉ぐらいの大きさ、それが複数出現して合体する。


おお! 私、ちゃんと魔法使えてる! さあ、ここからどこまで大きくなる!?


しかし、私の期待はあっさりと裏切られる。


――ぴちゅん。


役割を終えた魔法陣は消え、呼び出された魔法は地に落ちた。


「……は?」


やっとのことで呼び出した魔法は一滴の水。しょっぼ。


いやいやいや。これ絶対何かの間違いでしょ。


私は魔力を意識し、さっきの魔法陣より一回り大きいのを生成する。


今度はサッカーボールくらいの水を呼び出したい。ちょっと、本当にお願いしますよ?


「水の精よ、恵の力を見せよ――アクア!」


――ぴちゅ。


うん、さっきより小さいね。


あれれー、おかしいなぁ。魔法陣の大きさで効果が変わるんじゃないの?


認めない。私は認めないよ! 転生したのに魔法が使えないなんて! 


もう一回。今度は魔法陣を滅茶苦茶でかくして、水害レベルの魔法を使うんだ!


……あれ。私の身体に流れる魔力が感じられない。え、嘘でしょ。魔力切れ?


魔法陣を作ろうとしても出来ない。詰んだ。


ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。私の魔力、水滴二つ分!?


はい、今回を持ちまして魔法少女アザミの物語は最終回となります。長らくのご愛顧、誠にありがとうございました。今後はアザミ先生の次回作にご期待ください。


『いや~、アザミさん。ラストの大魔法。あれは凄かったですねぇ~』


『そうですね、あざみさん。私もあのシーンはお気に入り何ですよ』


『ええ、ええ、そうでしょう。なんて言ったってあの水魔法で海を作っちゃうんですもんねぇ。干ばつで苦しんでいた村人達に感謝される。くぅ~、これこそ魔法少女アザミちゃんですよね』


『はい。でもその魔法を放った影響で、まさか魔法が使え無くなるのは悲しいですね』


『ええ、私もあそこはグッと来ました。こらはもう、アザミ先生の次回作には期待しかできませんねぇ!』


『私も同感です! アザミ先生の次回作、期待するしかありません!』


『アッハッハッハッハ!』


『アッハッハッハッハ!』


『『アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』』


……現実逃避、完了。


いや絶対おかしいでしょこれ。


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