24.第一の祠 ①
出発から二カ月が経った。
「やっと着いたわね」
「ええ」
そして今日。私達は巫女の試練である内の一つ、第一の祠に到着した。
建物は石で出来ているが、土の中に埋まるような形で存在するため目立ちにくい。コケや木々によって隠されれば尚更だ。
「それじゃあユリ、よろしくね」
「はい」
そう頷くと、彼女は石門の前に出向く。
ここを探し当てるのにそうとう骨が折れた。
島の南側は既にマッピングを終え、集落の位置はおろか地形の情報さえ記入済みである。
たとえ人にあったとしても祠の位置を聞く事は禁止。全ては運に任せるしかない。
これがあと三か所もあるなんて、期限の年内に終わるのだろうか。
「我、巫女の血を引く者也。彼の試練を乗り越え、更なる力を欲する。さあ答えたまえ、第一の祠。我が下に試練を与えよ」
ユリが言い終わったのと同時に地が揺れる。
やがて目の前の石門は鈍い音を立てて開く。
「どうせなら、開けゴマッ! で入れるようにすればいいのに」
「なんですかそれ?」
「足の小指をぶつける魔法よ。ちなみに、今あんたにかけた」
「そんなぁ!?」
「そのような魔法ってありましたっけ?」
中に入ると長く続く廊下が広がり、横幅も戦闘が出来るぐらい余裕がある。
「こりゃあ油断なんてできないね」
「そうですね。幸い、壁に明かりが等間隔で設置されているので奇襲の心配はないと思います」
そう言う彼は鞘に納められた刀に手を掛けて進む。
「ユリ、もしかして緊張してる?」
「は、はい。恥ずかしながら緊張しております」
やっぱりか。いつもより肩の位置は高いし、歩き方もぎこちない。
「大丈夫。あなたは今まで通りでいいの。なにがあっても私達が守る。だから大船に乗ったつもりでいなさい」
どさくさに紛れて、手持ちぶさたにしていた彼女の手を握る。
これは彼女を安心させるための行為だ。他意なんてない。本当だ。
まあ、明かりがあるとはいえ薄暗い程度だ。遠い先を見渡すのは難しい。
だから私はあらかじめ魔眼を起動させている。
魔眼なら明かりに関係なく、その者が持つオーラが見える。
誰かが隠れていても丸見え。たとえそれが魔物でも。
「あ、魔物きたわよ」
「数と種類はッ!?」
「数は5、ゴブリンとゴブリンシャーマン」
「ウォーターウォールッ!」
即座にユリは水壁を出現させ、ユウジを先導するように移動させる。
あれからユリには急務である戦闘経験を積ませ、なんとか戦えるように仕上げた。
今の三人の戦力なら班一つ分以上の活躍が出来るだろう。これはひとえに巫女である彼女の影響が大きい。なんせ、魔力量がとてつもないからね。
ユウジが先行し、一定距離を保ちながら私とユリが追従する。
「魔法、くるわよ!」
視界の先から火球が放たれる。
「ユリ様お願いします!」
「はい!」
火球はすぐそこまで迫り、ユリが操る水壁に衝突する。
「うそ!?」
しかし、水壁に阻まれたはずの火球は勢いを落としながらも突破する。
すぐさま私が魔法で防ごうにも間に合わない。
火球はユウジの脇をすり抜け、ユリの方へと降り注いだ。
「大丈夫っ!?」
火球が彼女に直撃し、コントロールを手放しせいで水壁が消失してしまう。
代わりに私が進路に土壁を張る。
「なんとか……」
見れば彼女に傷はおろか、衣類の焦げ跡さえなかった。
「恐らく、お姉さまから頂いた耐火のブレスレットのお陰だと思います」
「よかった……」
水壁で勢いを殺していたとはいえ直撃だ。耐火のブレスレットが無ければこうはいかなかっただろう。
しかし、ユリは緊張している。このような事態になるのも予想できたはず。
これは彼女だけの責任ではない。
「申し訳ありません。私が怠ったばかりに……」
「今度は気を付けるのよ? 試練は始まったばかり、さあいくわよ。形状変化・サンドスパイクフィールド!」
土壁に魔物が張り付いていた場合を考慮して発動。だが手ごたえはない。
「行きます!」
水壁を再度出現させ、進行を開始する。
今回のゴブリンは頭がいいらしい。
通常のゴブリンならばこのタイミングで接近戦に持ち込む。
だけどこのゴブリン達はそれを仕掛けてこない。
魔法と矢。それだけしか攻撃してこなく、刃を交えようとはしない。
ここは試練の祠。狙いは魔力の枯渇か。
「敵との距離は!?」
「あともうすぐ! 見えた!」
ゴブリンシャーマン二体とゴブリン三体。シャーマンは杖を構え、ゴブリンは弓を持つ。
「援護を!」
「りょーかい!」
と言いつつも、私は魔法陣を展開させるだけ。
私にとっては魔力は大事。魔力量に自信があるユリとは違って、私の魔力は少ない。魔力が無くなってしまえばただの人間だ。そんな人間はお役御免。
「――ふッ」
彼は眼前に降り注ぐ魔法や矢を悠々とかわしていく。
そんな彼に焦ったのか、ゴブリンは弓から剣に持ち替える。
しかし、迎え撃つよりも一歩踏み込んだ彼の方が早かった。
「ギエエエアアアア!」
鈍色に輝く三日月が宙を舞い、腕や足、首を音もなく通過する。
奥に控えるのはゴブリンシャーマン二体。
彼らは反撃、または防御をしようと魔法陣を展開させるが発動には至らない。なぜなら発動よりも頭部と胴体が先だったからである。
こうして計五体の魔物は消滅する。
「ふう」
「はい、おつかれさんっと」
私は余韻に浸ることなく、速攻で戦利品の回収に勤しむ。
「ユウジさん済みません。私は何もできなくて……」
「いえいえ、ユリ様がウォーターウォールを使ってくれたお陰で安全に近づけました」
「そういってもらえると助かります」
「ゆりー。そんなやつに感謝するだけ無駄よ。私達魔導士は魔力がなくなったら終わり。魔力を消費しないために剣士はいるのよ。これぐらい当然よ」
ユウジは半ば呆れながら刀を納める。
「アザミさんは援護をお願いしたのに結局してくれなかったじゃないですか」
「私は魔眼が使えるし、あの場面で援護なんかしたら余計面倒になるわよ? 私は援護をしないという援護をした。うん、私って偉い」
偉い事をしたら偉いって褒める。私は褒められれば褒めるほど伸びるタイプ。ぐんぐんぐん。
「魔力には余裕がありますよね? っていうか、今日魔法使ってませんよね?」
「わーこの魔核おっきいー」
「……はぁ」
しかしなんとも良質な魔核だ。ゴブリン種の魔核だというのに内に秘められた魔素は濃密だ。試練の祠に生息する魔物はどれもこれぐらいだとでもいうのだろうか。それならば少しだけ魔法を使ってもいいかもしれない。
「んじゃいただきまーす」
五個の魔核を順次飲み込んでいく。
「魔核って美味しいのですか?」
「うーん、美味しくはないかな。味しないし。石を飲み込んだのと一緒だね」
「普通の人は石を飲み込みません」
「えっ小さい頃に間違えて飲み込んじゃったりしない?」
「しないですよ」
「しませんね……」
「嘘でしょ!? たとえばツルピカの石があって、美味しそうだなって食べたりしない?」
「ユリ様、本当にアザミさんはミズハ家で育ったんですか?」
「お母様はいつもあの娘はおてんばだと仰っていたので……」
そんなばかな……。
ま、まあとりあえず魔核のお陰で魔力は回復した。
確かに魔法は使ってないが、魔法陣の展開や魔眼のせいで微かに魔力を消費する。
総魔力量が少ない私にとってはこういった積み重ねが大事なのだ。
石を飲み込む経験だって……多分大事。




