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23.出発の日

「鏡よ鏡、私の胸はいつ育つ?」


立鏡の前に立ち、真っ平な胸をさする。無抵抗なのがなんとも悲しい。


「心配することはなんにもないのであーる。お主の母親と妹を見てみるのだぁ。どうだぁ、滅茶苦茶きょぬーであろう?」


「うん、たしかに」


鏡の中の私は大層な口ぶりで諭す。


「であれば血のつながっているお主はきょぬーとなる運命にあるのであーる。人生谷あり山あり。胸にも谷はあり、山があるのであーる」


「谷って言うより崖だけどね……」


「であーるであーる! 山は長い年月をかけ成長するものであーる。お主の胸も年月をかければきょぬーへと変貌するのであーる」


「いや、第二次成長期終わっちゃったんだけど」


「……であーる」


はぁ。

お母様は金髪に色白のビックボイン。お父様は黒髪で50手前だとういうのに若々しいナイスガイ。そんな両親から生まれた妹は金髪で色白で、お母様に負けず劣らずなきょぬー。

こんななりして巫女様とか出来過ぎでしょ。

それに対して私はというと。


「やだ、日増しに目の角度が上がってきてる気がする。このままじゃ吊り目通り越して縦目になっちゃうじゃない」


両方の目尻を必死に下へ引っ張る。どうか妹みたいな垂れ目になりますように!

髪は黒髪ロング。伸ばしてみたわ良いものの、せっかく転生したのだから金髪になりたかった。

これじゃあ転生前の私とあんまり変わらないじゃない……。


「一人で何を喋っているのですか?」


「うぇっ!? ユリ!? ど、どうしたの」


大した動作はしてないはずなのに、たゆんと揺れるユリの胸。

……チッ。


「そろそろ出発の時間ですよ? 皆さんも既に集まっています」


「あぁそかそか、ごめんすっかり忘れてた。今行くわね」


一人自虐トークは終わりを迎え、急いで準備をして玄関をでる。



今日は出発日。

これからの一年間、巫女に与えられた試練を達成しなければならない。


「守護者も偉くなったものね」


門には既にお父様とお母様、そしてユウジの三人が集まっていた。

その内の一人は額に青筋を浮かべている。


「あはは~お待たせしましたぁ」


これは示しがつかないということで、そろりそろりと及び腰で到着する。


「アザミ、これを」


「お父様? これは何ですか?」


「地図と魔示石さ」


渡されたのは地図と魔示石。

魔示石とは魔石を加工して北と南を示す道具。言ってみればコンパスに似た物だ。

とりあえず私は魔袋に入れておく。


「ところで、皆は旅の目的は理解しているかい?」


「はい、私達はこれから巫女の試練を受けにいきます。その際に渡される白紙の地図を完成させ、東西南北にある祠で巫女の証を持ち帰ります」


はえーそうだったのか。ラスボスみたいなのを倒して終わりだと思ってた。


「ユリはちゃんと覚えてて偉いわね。それに比べて誰かさんとは大違い」


お母様の目線がこちらに向いたタイミングで空を見上げる。

あーいいお天気だなー。


「ユウジ君、昨日はちゃんと眠れたかしら?」


「あ、はい! あんまり眠れませんでしたけど、その間に鍛錬を積んでいましたので大丈夫です!」


「それ、寝てないじゃない。もちろん私はぐっすりよ」


彼の眼の下には薄らとクマが出来ている。気づけばユリにもほんの少し出来てる。

あれ、即落ち快眠だった私は異端?


「よし、そろそろだろう」


「ええ、そうね。いつの時も油断をしてはだめよ?」


「お母様、心配しすぎですよ。いざとなればユウジを囮に逃げますので」


「アザミさんそれはないですよ!」


「もう、お姉さまったら……ユウジさん安心してください。私は囮にしませんから」


「あ、ありがとうございます」


かくして、私達は二人に見送られながら旅路にでる。

生まれ育った村を離れるのは寂しいが、そうはいっていられない。

彼女は巫女で、私は守護者。

私は彼女を守るんだ。

見慣れた風景が山や森によって隠されると、遠くの方から動物の声がちらほら聞こえてくる。

この辺りはまだ討伐隊にいた時に、何回か通った事があるから不安は無い。出てくる魔物もそれほど強くはない。


「ねえユリ、ここが島だって知ってた?」


「そうだったんですか? 全然知らなかったです」


「そうよねぇ、私も初めて知った時は驚いたものよ。だってあの頃は屋敷の中が全てだったもの」


お父様に「ここは島なんだ」って言われた時は絶望したね。

転生前の時は超有名大型テーマパークがあったり、観光施設などで楽しめる施設が多かった。しかしここは異世界。テーマパークや娯楽施設などはなく、飛行機などで他大陸へ旅行しにいくってのも出来ない。

ユリと二人で慰安旅行したかったのに。はぁ。


「僕は生まれが海に近かったので薄々気づいてましたよ」


「あんたには聞いてない」


「え、ユウジさんって町の生まれじゃないんですか?」


「はい。あそこは漁業が主流で、農業も営んでいたりしているのですが町ほど活気づいていません。それで僕は町に出てきたって感じで」


「ご両親もこちらに?」


「いえ、僕一人だけです」


「お一人だけで……寂しくはないのですか?」


「最初はそうでした。でもゴウダさんやお頭に気をかけてもらったり、あとアザミさんにも色々助けてもらったりしているので今は寂しくないですね」


「気色悪いわねえ、ケツが痒くなるからやめなさいよそれ」


本当に痒くなってきたのでケツをぽりぽりとかく。

まあ、町の人々は優しいからね。田舎特有のよそ者には冷たいとかはなく、とても暖かく迎え入れてくれる。そもそも島全体の人口が日本の都市部と比べてかなり少ない。

恐らく、たとえ見ず知らずの他人でも皆家族っていうスタンスなのだろう。


「ところでお姉さま、私達は今どこに向かっているのですか?」


「まずは南ね。この島の東西南北に一つずつ祠があるらしいから、お父様曰く南から順に反時計回りで攻略した方が良いって言ってたからね」


「それが一番安全ですね。ユリ様は巫女とは言え戦闘経験はありませんので段階を踏んでいくのは良いと思います」


「宴の時は上手く魔法を扱ってたけど、実際はどれぐらいの魔法が使えるの?」


「えーっと、一応中位魔法はある程度使えます。ですが、どうやら黒魔法が苦手みたいで……それ以外は使えます」


「結構やるじゃない」


「水魔法が使えるんですよね!? 飲み水とか呼び出せるんですか!?」


なぜか水魔法に並みならぬ反応示すユウジ。

それに対してイラッとくる私。


「それはもちろん! お母様に水魔法だけは上手く扱えるようになりなさいと教えられたのでご安心ください」


「あ~よかったぁ。アザミさんは水魔法がダメダメなんで討伐隊にいた時は飲み水を確保するのに苦労したんですよね~。これで水不足は問題ないですね!」


「……砂飲ませるわよ?」


即座に魔法で砂を作りだす。

小さい頃から使い続けた魔法。その中でも土魔法は滅茶苦茶練習したので得意分野だ。

当然無詠唱・魔法陣を不可視状態にしてでの行使はお手の物。


「すみません、言い過ぎました」


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