21.絶対勝つ!!
本日は守り人を決める日だ。
前半は守り人となる剣士を決め、後半には魔導士を決める形となる。
決める方法はトーナメント式で、討伐隊の各分野のリーダーが審判を務める。
剣士の方はゴウダさん。魔導士の方は事故が起こる可能性が高いという事でお父様とお母様が。
さてさて、守り人最有力候補と噂されるユウジはいかほどだろうか。
町の広場に設営された二つの闘技場の内、観客が盛り上がっているほうへ赴く。
「ッ――」
「クソッ」
二本の刀身が火花を散らして声を上げる。
そこでは二人の剣士がしのぎを削っていた。
一人はユウジ、もう片方は彼より歳が二つ上で体格がしっかりしている青年。
両者、体格差によって早々に決着がつくかのように思われていたが、実際はそうではなかった。
「そこ!」
「ぐッ」
ユウジから放たれた鋭い突きに、相手は一拍遅れて反応する。
真っ直ぐに伸びる剣先が弾かれる。
バランスを少々崩しながらも、相手は防ぐことに成功する。
勝負は色々な要素が積み重なって決着がつく。
例えば体格差。
ユウジは決して小ぶりではなく、いたって標準な体格だ。
しかし、相手方の体格はかなり優れている。身長は平均より高く、衣服から時折見せる筋肉は引き締まっており、なかなか悪くはない。
これらを見れば相手の勝利は間違いないように見える。
しかし、勝負はそんな甘くはない。
ユウジにはセンスというか才能というか、生まれながらにして持ったものがあると私は確信している。
伊達に彼と同じ班を務めてはいない。
以上からこの勝負、ユウジが勝つと思う。
審判を務めるゴウダさんは二人の近くで見守る。
そんなゴウダさんはどちらが勝つと予想しているのだろうか。
試合は苛烈を極める。
風を裂く剣はユウジの脚を両断しようと襲い掛かる。
しかしユウジは跳躍し、これをかわす。
反撃とばかりに剣を振るも、すぐさま体勢を立て直した相手が防ぐ。
そんな剣劇が辺りを盛り上げた後、ついに審判が動く。
「それまで!」
相手の首に指一本分を残して剣が静止する。
その剣を持つ腕をゴウダさんが掴んでいた。
「勝者、ユウジ!」
その一声を機に観客は歓喜の声を上げる。
場内の二人は互いの武勲をほめたたえ、握手をした。
「以上をもって、守り人の剣士はユウジとする!」
人々は先程以上の声を上げ、新しい守り人へ歓迎の意を伝える。
対する本人はというと、頭を掻いて恥ずかしそうにしていた。
「おいユウジ! 勝ったからには頑張れよ!」
「あ、はい! 頑張ります!」
どこからか飛んで来たヤジに彼は応える。
そして、ユウジはある観客席に目を向ける。
私もつられて彼が見る方を見てみる。
「ふふ」
「――ッ!?」
その席には次期巫女であるユリが座っており、微笑みながら手を振っていた。当然、微笑み先は決まったばかりの守り人。
そんな守り人君はなぁぜか耳を赤くして、ロボットのように手を振り返していた。
ふぅ~ん。
///
「それでは魔導士の部、第1回戦を始める!」
剣士の部が終わり昼休憩を挟んだ後、ついに魔導士の守り人を決める戦いが始まる。
相手は歳が一つ上で、かなり魔法の扱いが上手い。
過去にはこの人が先輩になって指導を受けていた事もある。
両者、定位置についた後に審判であるお母様とお父様が持ち場に着く。
「始めッ!」
私には勝たなければならない理由がある。
何もない私が唯一なれるかもしれない場所。
あの娘を危険に晒してしまった負い目。
私はあの時誓ったんだ。何が何でも彼女を守り抜くって。
だから私は守り人になる。
それに――この先輩、私の胸より大きいからッ!
「魔眼ッ!」
試合開始の合図と共に、私は眼に魔力を込める。
説明しよう!
魔眼とは私が討伐隊で戦闘を経験する過程で習得した技術であーる。
まあ、お父様に覚えろって言われたから覚えたんだけどね。
しかし、この魔眼はかなりの優れもの。
その魔眼を発動させると、その人の戦闘力というかオーラみたいなのが見えるようになるのだ!
これは魔導士でも剣士でも効果に違いが無く、どうやら総合的な力の大きさを測る事ができるらしい。
これが直に触れて魔力量を確認する魔測との相違点だろう。
というわけでスカウターもとい魔眼で見た先輩の戦闘力はっと。
ピピピッ! 戦闘力・まあまあ強い。胸力・勝ち目無し。
……よし勝とう。
私が即座に魔眼を発動させてからというものの、相手に動きはない。
魔眼で見えるオーラは魔法を発動させたり、攻撃しようとすれば微かな揺らぎを見せる。
しかし、そのオーラにもその兆候がない。
おおかた、警戒しているのだろう。
それなら好都合。
「サンド・ウォールッ!」
土壁を出現させ、一直線に彼女へ向かわせる。
試合の勝利条件に、場外への押出しがある。
まずはそっち方面で攻めてみる。
「――ライトニング」
だがそこは先輩。彼女は即座に二つの魔法陣を展開して、水魔法で坂を作り上方に土壁を受け流す。そのまま私に向かってライトニングを放つ。
「ちょ、ちょっと先輩飛ばしすぎじゃありません!?」
私はそれを新たな土壁で防ぐ。
ライトニングの弾速はかなりのものだが、魔眼が使える私にはバレバレなので防ぐ事は容易い。
「アザミさんは魔眼が使えるでしょ? それぐらい良いじゃない」
「だからって……」
彼女は相変わらずライトニングを連発していく。
それに合わせてなんとか避けたりかわしたりして防いでいく。
まったく、どうしたものか。
先ほどの勝利条件の他に、あと二つ勝ち方がある。
一つは魔力切れや戦意喪失による相手の辞退。
もう一つは四肢欠損や骨折などの負傷。
後者はかなり過激だが、ちゃんと魔法で治るから問題なし!
ま、討伐隊で怪我なんて日常茶飯事だから良いんでしょ。
さすがに死んじゃったら生き返らせられない。そのために審判兼抑え役が二人もいる。
「サンド・ストームッ!」
魔法で大量の砂を作り、大きな砂嵐を起こす。
場内は黄土色の景色に覆われ、観客席からは「目が、目がぁ!」とか咳き込む声が聞こえる。内心やっちゃったかな? と思いつつもこちらは本気。勝てばよかろうなのだ。
サンド・ストームによって視界が悪くなり、吹き荒れる風によって辺りの音を奪う。
だが、私の眼には先輩の姿がバッチリ映っている。そう、魔眼のお陰でね。
「先輩、私の勝ちですね」
砂嵐の中、私は勝宣言をする。しかし、先輩は自身たっぷりといった声音で返す。
「それはどうかな?」
突如、私の操るサンド・ストームに謎の魔力が流れ込む。
「――ッ主導権を取りに!」
たまらず舌打ちをする。
今、この場を荒らすサンド・ストームを巡って魔力と魔力のぶつかり合いが行われている。
魔法の奪い方はより大きな魔力で他者の魔力を追い出し、コントロールしてしまえば良い。
過剰な魔力が魔法に伝達したせいか、砂嵐の勢いが増して風の刃が辺りに降り注ぐようになる。
ここで危険と判断したのか、お父様とお母様が場外に被害が及ばぬように魔法を発動させる。なお、オーラしか見えないのでどんな魔法かは目視できないからわからない。
「クッ!」
攻防の末、何とか主導権を守り抜いた。
砂嵐は依然健在。
私はこのチャンスを逃さないように走りだす。
何を企んでいるのか分からないが、先輩は何かの魔法を発動させる。
五感全てが機能していない状況で私を捉えるなんて出来るはずがない。
ここは攻めるのみ。
「うそッ!?」
それは一瞬の出来事だった。
サンド・ストームによって舞っていた砂は瞬き一つで消失した。
足元を見れば泥が辺りに散っていた。
「水魔法で砂を除去……?」
「正解です」
彼女の手前に魔法陣。そこから青白い光がパチパチと音を立てる。
「まずっ!」
ライトニングは発射目前。土壁で防ぐ事はかないそうにない。詠唱する暇もない。
私の脇腹を中心に身体を覆えるような大きさの魔法陣を作成。勿論無詠唱用の魔法陣。
――ウィング・ウォール!
頭の中で魔法を思い描き、魔力を注ぎ込む。
すると私の身体は呼び出した風にぶっ飛ばされる。
飛ばされたのと同時に私が元いた場所に眩い閃光が通過する。
「いたたたた……」
風にぶっ飛ばされてきりもみで転がされて体勢を立て直す。
いくら緊急時とは言えこの回避方法は無茶があったか。
「サンド・ストームは消えた。これで振り出しだね」
「ふっふっふぅ~。それはどうですかね?」
「――何!?」
先輩の背後から二本のツルが襲い掛かり、両腕を拘束する。
「私がサンド・ストームを発動させている間、何もしなかったと思いますか? そう! 私は場外にプラントウィップを張り巡らせ、密かに準備していたのです!」
「――ッまだ!」
彼女は魔法陣を展開し、拘束を解こうと試みる。
しかし、ツルは二本。片方解いてももう片方がある。
勿論そんな時間は与えない。
二本のツルは彼女の両腕を場外へと引き寄せた。
「そこまで! 勝者、アザミ!」
辺りから一斉に黄色い声が上がる。
少々地味な戦いだった気がするが、第一回戦であればこんなものだろう。
こういうのも悪く無い。いや、めちゃめちゃ気分いい。
そして私はユリの方へ手を振る。
彼女はあの時と同じく微笑みながら振り返した。




