20.再開
「ふ~くったくった」
あれだけあった活気も今では鳴りを潜める。
既に宴の時間は終わり、人々は簡単なお片付けを始めている。
あれからユウジとは解散し、果実ジュースを片手に一息ついているのが私の現状である。
しかし、今日だされた料理はどれも美味しかった。
希少なベーコンに鹿肉のステーキ。満々満足、今日は大満足だ。
さて、そろそろ頃合いかな。
「久しぶりね」
「あ、お姉さま!」
席に座っている彼女が一人になった所を狙って声をかける。
「大変だったね。ちょっと疲れたんじゃない?」
「ええ、まあ。こんなに初めて会う人とお喋りする機会は今までなかったので」
「ふふ、巫女だから当然ね」
「はい」
七年ぶりの会話。
どこか危なげだった彼女は、すっかり大人びてしまった。
「魔法、なかなか上手になったじゃない。あの様子だともう上位魔法は使えるのかしら?」
「いえいえ、まだまだです。中位魔法が使えるようになったのはちょうど一年前で、あの演出も結構大急ぎで練習して、成功するのは一か八かだったんです」
「そうなの? そのペースだとあそこまでの物には出来ないと思うけど」
「はい、お母様から熱心な指導を受けまして……」
「ああなるほど……」
それにしたって中位魔法取得からたったの一年で、あの一芸をこなせられるようになるなんて信じがたい。頭を使いながら魔法の練習をしていた私でさえ、一年であれだけ発展させることは難しいだろう。
「あっそれと、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
「あれ、どこいったんだろ……あったあったこれ。はい、お誕生日プレゼント」
腰に付けた四次元ポケット――魔袋に手を突っ込み、夕時に買った木箱を渡す。
「これは、何ですか?」
「ふふ~ん。それは開けてからのお楽しみ。ほら、開けた開けた!」
雑に木箱を開けるよう促すと、ユリは蓋に手をかけた。
「わあ」
木箱を開けて出てきたのは水色と緑色が混ざった珠に、糸を通して作られたブレスレット。
「これは耐火のブレスレットって言うの。これ、結構良い物なのよ」
かなりの大金払ったし、一人しかいない大切な妹へのプレゼントなのだ。良いものでなければだめだ。
「名前の通り、このブレスレットは火魔法や火傷を軽減する効果があるの。それで火がない、ひがない、非がない、被がない……って感じで縁起がいいの。だからこれユリにピッタリだなって思って、買っちゃった」
「ありがとうございます! でも、そんな凄いものを本当に貰っちゃっていいのですか?」
「当たり前じゃない。ユリの為に買ったんだから。ほら、付けてみて」
「はい!」
ブレスレットに彼女の腕が入り込む。彼女の白い肌や巫女衣装のお陰か、ブレスレットを付けた事によってユリが数段増して可愛く見える。身内びいきだろうか、どの女性よりも一番可愛い。
「似合ってるわよ。ユリ」
「本当ですか?」
「ええ、お父様がみたら間違いなく卒倒するレベルね」
私がそう言うと、ユリはハニカミながら「恥ずかしいです」と呟く。それに対して私は「減るもんじゃないし、それぐらい良いじゃない」と、オヤジ臭い事を言ってみる。
再開の喜びに浸っているのも束の間、あの御方の登場で事態は一転する。
「元気そうでなによりだわ」
聞き覚えのある声のせいで、何故かお尻がヒリヒリする。
私は反射的にお尻を抑えた。
「討伐隊での活躍、風の噂でなんども聞いたわ。それはもう小皺が増えるほどに」
揺らめく炎を背景に、目の前の鬼――お母様の眼は獣のようにギラついていた。
「あ、あはは。ご機嫌麗しゅうでございますお母様」
「あらおかしいわね。そんな言葉遣い、教えたことないのだけれど?」
ピキ、ピキピキピキ。中年女性の肌が割れる音が聞こえる。
やばいね。こんな威圧感、今まで対峙したどんな魔物よりもやばいよ。
「ミズハ家の女だというのに、討伐隊にはいってからの魔法誤射数は100を越える」
うわぁ、懐かしいなぁ~。小さい頃はこの状況からおしりぺんぺんまでがセットだったよね~。
……え?
「そんな醜態をさらしておきながら班長? ふふ、冗談もここまでくれば清々しいものね」
お母様はゆったりと、実に静かな足取りでこちらに近づいてくる。
実に面白くない状況だ。
よーし、こんな時はこの手だ!
「あーいたたたたた! いたいよぉーいたいたいたいよぉー」
お母様の動きが止まる。しかし、能面のように笑う顔はひょっとこには変わらなかった。
「あーいたい! ご飯の食べすぎでお腹を壊してしまったようです!」
腹痛は生理現象だからね。仕方ない仕方ない。
「んじゃ! そういうわけでおやすみなさい!」
私は全身に魔力を通し、フルパワーで逃げ出す。
うん、我ながら見事な逃走だ。
「ふはは! 討伐隊で培ったこの脚力を見よ! ふははははは!」
世の中ケツ捲って逃げるが勝ちって言葉もあるんですよぉ!
え、ない?
でもここは逃げるが正解。
後ろを振り返ればぼーっとしたユリがいるだけ。
彼女にはこんな姿は見せたくなかったが、想定される以上の悲劇を体験するよりかはマシだ。
いつかこの埋め合わせは絶対にする。カッコイイお姉ちゃんとして!
……ここで、ある違和感を覚える。
『ぼーっとしたユリがいるだけ』
『ユリがいるだけ』
『いるだけ』
……。
あれ、お母様どこいった?
いやぁーねぇ。なんか嫌ぁーな予感がするんですよ。
もちろん私は全速力で走っている間最中なので、ユリの姿はどんどん小さくなる。
いやだなぁー、いやだなぁー。
なんて言ってねぇ、私、振り向いちゃったんですよ。
「逃げれると思った?」
そこには大の大人でもおもらししちゃうような鬼の顔面が!
「キィィイエエエエエアアアアアア!! 後ろ向きで走りながら私に追走してるぅぅぅうううううう!!!」
私はこの日、真の意味でお母様のむごさ、おぞましさ、恐ろしさを知った。
もちろん私のお尻は火を吹きました。
その後、泣きながらたっぷり軟膏をお尻に塗ったのは墓場まで持っていく事実である。




